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48『三宮旅路の想い』

 


 ワッシはこの剣を握りしめるたびに思い出す。


 ───300年も前の話。

 私は他の共同体と、ネオイロスと共に地球へと降り立った。先陣を切って訪れていた神々は、既に……地球にいた人類と戦っていた。


 人類と神の戦争。

 神による侵略戦争。


 私たちネオイロスの民も、その戦争に神側として参加した。神がこの戦争に勝利する寸前──戦況は反転することになる。


 我々がこの地球に降り立ったことで蔓延した魔素に完全適応するニンゲンが現れたのだ。


「神が殺された? それは本当ですか、お母さん。人間風情が……私たち神を殺せるなんて」


「娘よ、その考えは改めなさい」


 城村みやこむらと名乗るソイツは、

 実力者である仲間たちを連れて幾つもの神殺しを行った。


「なぜですか」


「神はやはり侵略などすべきではなかったのです」


「はい?」


 戦争が始まって数十年が経過した頃、母親ネオイロスは人間との共存の方法を説き始めた。

 ……最初は人間なんかと? と思っていた私も、それが母親の意向なら仕方がないと納得した。


「母さん、何をするつもりですか──ッ!」


 戦況は悪化していくばかり。

 いま思えば、母さんはなんて馬鹿な行動を取ったのだろう。


 人間と直接相見えた時、彼女は力も使わず生身で……人間に叫び提案した。


『侵略してきた私たちから言うのはエゴだと思います……どうか共存の道を!』


 なんて。

 ああ、私はこの時、母親は人間に殺されてしまうのだろうなと悟った。

 でも人間たちはあまりにも優しく、

 どれだけ人を殺してきたか分からない母親を──赦し、人類を代表し城村みやこむらが握手を交わした。


 奇跡にも等しいコトで、私は思わず感動したのをよく覚えている。


 ……だが、神は違った。

 母のことを裏切り者だと、その日の暗夜の刻に強襲し殺した。城村みやこむらが気付き止めるまでに、私の兄弟もほぼ殺された。


 運良く城村が助けに来て、生き残った共同体は──私と、スカルアローと、ボンディージャの三体だけ。


 三体は既に死んでいるかと思ったネオイロスを見た。


「母さん……」


「神ガ」


「──」


 でも奇跡的にまだ少しの命があった。死にかけであることには依然変わらない。

 消えかかっている命の灯火の中で、彼女は遺言を私たちに伝えた。


「やっぱり私は間違っていた。どちらかなんて愚かだ、……だから神と人類が共存する道を探してほしい──子供たち。ああ、どうか殺されずに」


 仰向けに倒れる彼女は、ゆっくりと手を上げる。私たち三人にそれぞれ触れ、彼女が遺した力を三等分して分けてくれたのである。


 それからダランと腕は地面に倒れ、ネオイロスの瞳からは光が失われた。


 私たちは城村みやこむらに保護され、

 まもなく彼ら人類は神をほぼ駆逐することになる。


 私たち神々の統括として権威を振るっていた十二の神たちは、人類共存派と人類殲滅派に分かれて対立し内乱を起こし、自滅したそうだった。


 全能の神『ゼウス』が聞いて呆れる。


 そして結局、

 ──私たち共存の道を選択できなかった。


 私たちの他に一人の神が生き残り、戦いの最中で逃げたと聞かされた。

 名前はプロメテウス。


 ソイツが今、私の、ワッシの前にいる。

 プロメテウスの共同体が此処にいる。


 今や人と共存するワッシらの生活を脅かすプロメテウスの子は──敵じゃ。


 だから、ワッシは剣を振るう。



 ◇



 現法魔法を駆使し、彼の殴りや蹴りを回避していく。此方からの反撃──水の刀でこの男の右腕を切り落とした。


『オー……』


「まだ驚くには早いの」 


 一撃一撃を重く保ち、攻撃を加えていく。


 この刀『穿滝月うがつたきづき』は、自分以外が刀身に触れると接触部分が水に変換されるという能力を持つ。


 つまり相手がどんな硬度であろうと関係なく、ただ正確に当てることさえ叶えば切り刻めるのだ。


 だが当然の如く、相手は右腕を生やす。


 だが、ではなく当然だ。

 神の子はもちろん人間ではない。

 体に循環する魔素を利用すれば、腕を生やすなんて容易である。


 しかし体内の魔素が尽きれば、再生は不可能。


 瞬間移動。

 穿滝月。

 現代魔法を用い、


 的確に奴の体を破壊し、再生させ、魔素を消費していく。


『オー、ヤルじゃん?』


「黙るのじゃ」


 斬り、斬り、斬っていく。

 だが相手は何度も再生する。


 久しぶりの戦闘──ワッシも疲れてき……


『隙ダラケ』


「かはッ!?」


 あ、駄目だ。

 意識した時には彼の拳は、私の腹へと到達しており、更に気がついた頃には、宙へ待っていた。


 お腹を殴られ飛ばされて、息ができなかった。


「……ぁ」


 死の感覚。


 ───ワッシの負けか。

 そう思った刹那、一人の少年が飛び込んでくる。


 ……城里かの?


「へばってんじゃねーよ、あれだけ息巻いてた割には瞬殺じゃねぇか」


「む」


 違う。

 宙で私を抱き抱えそのまま下に降りる"赤髪の少年"は、黒町であった。

 知的な彼がここまで動的になるのは、研究所ではあまり見てこなかった。


「人を助けるなぞ、珍しいの」


辣腕らつわんを失うのは痛えからな。お前の私情的には此処で殺された方が良かったのかもしれぇが、俺は嫌だね。……俺様は俺様の言う通りにならなきゃ、嫌なんだよ」


 それにと、


「テメェは戦うのには向いてねーよ。小難しく考えなくて良いのさ、勝負ってのは。……それは命を賭けた戦いでも、何も変わらねえよ」


「その通りだよ」


 黒町の隣に、城里が現れる。


「そういうもんかの……」


「そういうこっだぁ、お前は此処で休んでろ。いま、私情は片付けなくて良い。無理すんな、想いは充分に伝わった」


 だからと、クロマチはニヤける。


「さあ、第三ラウンドだぜ。覚悟しろよ、神の子。俺と城里のタッグに死角はない」


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