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47『神代魔法《アルク・マギア》』

 


 ダガーナイフによる斬撃が火山をx軸で切り裂いた。そのままの勢いで火山上部は崩れ落ちて行き、火山岩が瓦礫のように次なる山をつくった。


 ──崩れた岩はまるで水のように薄く広がっていく。



 ーーーー


『聞きたいんだけど、冒険者ホワイトって人間?』


『本当にやばすぎて笑う』


『もうこの人一人で良くないですか?』


『希望すぎる』


 ーーーー


 山を斬ったら、コメントは大盛り上がり──秋元が溜息を吐きながら、僕の肩を叩いた。


「なにさ」


「本当アンタってやつはね……」


「なにさ?」


「呆れるわ、それをスキルとか無しの体術のみでやっているなんてね。意味不明すぎて」


 どうやら褒めてくれているらしい。

 振り返って、残り二人を確認する。

 黒町は少し遠くで、腕を組みニヤニヤと満足げにこの結果を見届けていた。

 三宮は純粋に驚いている様子。


「話題になるだけの力……なんてもんじゃないの。凄いの! エグチ食べたくなってきたの!」


 それは違うだろ。


「まー、流石だ。俺の後輩、最強コンビだけある」


 そりゃどうも。


「これなら、中にいる魔獣ごと巻き込めたんじゃねぇかな? ダンジョンぽいし」


 ……あくまでも今は配信しており、この中から脱出したことを視聴者たちは知らない。

 ダンジョンという事しか知らないという程で、配信内では話を進めていく。


 だから。

 黒町がわざとらしく、そんな発言をした。


「どうだろうな」


 あの中にいたのは……神の子と、名前も知らない国指定冒険者アレスターだ。

 どちらも僕の命を狙ってきている奴である。


 瓦礫いわの山から、人の姿は見えなかった。


 あったのは、

 赤髪の男の姿。

 あくまでも人の形をしている神の子が、壊れた火山の跡地で立っているだけ。


 この火山の倒壊程度では傷一つ付いていなかった。


「まあ流石じゃな」


「あの火山の崩壊に巻き込まれても死なないとか……終わっているでしょ」


「ま、オレらと同類ってわけだ」


 ──三人はそれぞれ、三人のリアクションを取る。

 ダンジョンから地上へ突然、魔獣が溢れ出す惨状──その惨状には主犯となる魔獣が存在し、

 ソイツと倒すと辺り一帯のダンジョンと魔物が消失する。


 つまりこの惨状をどうにかする=主犯となった魔獣を殺す、の関係が成り立つ。


 それこそが北海道で起きた同様の……最悪の事態から最強頭脳クロマチが考察した答えだ。

 考察は彼の専門内だが、戦いは違う。

 戦いは僕の専門内だ。


「さて、もう一回……本気を出させてもらおう」


 ダガーナイフを握りしめ、今にもコチラを襲おうとして来る神の子を凝視する。


 のだったが……、


 不意にポンと肩を叩かれた。

 またか、また秋元か?


 と一瞬、背後を見ると──。


「三宮?」


 険しい顔をする彼女がそこにはいた。考えれば彼女の様子はちょっとおかしい。口調はいつも通りだが、なんというか、なんつーか、口数が少ないような気がしたのだ。


 いつも通りというほど、僕と彼女は出会ってから期間が経ったわけではないけれど。


 重要なことかもしれないと、配信のマイクをオフにする。


「お主よ、此処はワッシに任せて欲しいのじゃ」


「あー、えっと」


 唐突すぎる提案だ。


「それはつまり、此処はワッシが食い止めるから先に行け……的な話か?」


「違うのじゃよ、というか、行くも何も此処がゴールじゃろ」


 そりゃそうだ。

 ……火山で僕たちを襲ってきた国指定冒険者アレスターは見当たらないし、まずは"あの炎男"を倒すことがこちら側の勝利条件である。


「じゃあ何さ」


「人の敵はワッシの敵という事じゃよ。ワッシは今までネオイロスの遺言を守って、ここまで長年生き抜いてきたのじゃが」


 白衣を着た紫の幼女は、薄く唇を噛み締めて相手を睨む。


 かつて人類を滅ぼそうとした神……ネオイロスの子供の一人が此処には立っていた。

 最後の神の子を見つめながら、


「遺言」


「そうじゃよ。人類の敵であったワッシや包帯がなぜ、今や人類の味方についているのか。その理由じゃよ」


「……なるほどね」


「死に際に"彼女"は、ワッシらに意志を遺したのじゃよ。継がせたのじゃよ『私は間違っていた、どちらかなんて愚かだ、……だから神と人類が共存する道を探してほしい』とな」


 辺りを囲う炎は火山が倒壊した衝撃によって消えたはずだが、再燃するところが出てきた。


 火花が散る。


「もっとも今はその遺言だけでなく、単純に楽しいから、仲間との空間が心地いいから……も、あるがの」


 三宮は両手を天にあげた。


「つまるところ、共存の道を探しとるワッシらの邪魔をするなと──怒っとる」


 これはエゴだ。

 共存の道を探すには、彼を殺してはいけない。戦ってはいけない。

 だが、それは無理な話である。


 だからこそ、ソレを潰す。


 それは遺言から少し離れた行動だが、僕が介入する話でもなかった。


 ただ見つめる。


『オー……? 同じカ』


「ワッシとお主を同じにするなぞ、どれほどの不敬と弁える?」


 そして、彼女が唱えた。



「──原初の水漆みずうるはを以て、極み、嘆き、憂い、ほどき、全てを流す」



 天に上げた手の空間に、裂け目のような物が浮かび始める。透明ながら青々しい水が裂け目から重力を無視して溢れ、浮き上がって来る。


 水は徐々に形を整えていき、



「──裂かれ、穿滝月うがつたきづき


「裂けよ」



 瞬刻、空間の亀裂から水が溢れ出し僕たちを巻き込んだ……かと思ったら、其処には何も無かった。


 幻覚魔法か?


「これは現法でも古法でもないのじゃよ。

 言うなれば……"神代アルク"魔法マギアじゃ。

 さて、やるのじゃよ」


 ──幻覚ではない。


 三宮は、半透明で水色の刀を握りしめていた。持ち手と刀身に境界線がないタイプである。

 刀は長く、僕の身長ぐらいあった。

 にしても、だ。

 ……これが神代魔法アルク・マギアか。

 通常の五種でも、現法でも、古法でもない、神のわざにして力。


 


『面白イ』


 崩れた岩の頂上。


 男が笑う動作をするのと同時に、これまで見たことない、とてつもない身体能力で三宮は男に近付くっ!


 いいや、違う気がした。

 点と点は繋がっていない。


 瞬間移動みたいな感じであった。


「一応、ワッシも神の子だからの」


『ネオイロス……カ。裏切り者の末裔メ』


「喋らなくて結構じゃぞ? すぐに死ぬ」


 もはや見えない剣撃というわけではなく、実にゆったりとした攻撃を三宮は繰り出していた。しかし一撃一撃が重いのだろう、それに半透明であることも相まって、


 男の体は豆腐を切る如く、流れるように切り裂かれていった。


「す、凄い……何がなんだか、分からないけど」


 僕と秋元は見惚れていた、その美しい水のような戦い方に。


「流石は神が遺した力ってわけか」


「でも後輩よ、戦っている時はお前もこんぐらいつえーぜ。あんま落ち込むなよ」


「落ち込んでないから」


 ともかく僕たち三人は見届けることにした。

 ──三宮に言われてしまったから、というか、しなければいけなさそうだったから。

 彼女の想いが伝わったから。


 だから僕はこの戦いを、三宮旅路に任せることにしたのだ。

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