32『SIDE:???』
東京の夜は明るい。
煌びやかで華やかで、喧騒が俺の髪を靡かせる。……っと、俺はスキンヘッドだから、靡かせる髪なんて無いんだった──。
「電話か」
東京の街をロングコートを羽織り、俺は一人で歩いていた。
梅雨を過ぎた夏前の季節は──夜でも暑いが、しかしオレはロングコートが好きだから暑いのを我慢して平然と着こなす。
平然と着こなしている様に、見せる。
「もっしもーし……繋がってるー? 繋がってマスターキー?」
……奴だったか、最悪だ。
電話に出なければ良かった。
「繋がっている」
淡々とこなす。
「で、何の用だ? ノノコ──」
厚井ノノコ。
軽快な喋り口をくる、実際に何もかもが軽い……電話先のこの女。コイツと話す時は出来るだけ用心しなければならない。
何をスッポ抜かれるか、分からないからな。
「やっだなあ、堅苦しい返事だなあ。勘弁してチョンマゲだって、松丘クン」
「だから、何の用だと聞いている」
「私と君は、共に国指定冒険者の仲じゃないですかあ」
「早く要件を言え」
俺の言葉を無視する厚井ノノコと、厚井ノノコの言葉を無視する松丘武。
……くそ、これだからコイツは嫌いなんだ。
仕事関係だとしても、割り切る事が出来ないぐらいには。
「吉良川クンからの伝言ね」
つまり、国からの命令ってわけか。
どーせ碌な仕事じゃねえ。俺はポケットからスマホを取り出して、ニュース記事を読み出す。
トップに出てきたのは、最近話題の『冒険者ホワイト』についてだ。
松永の監視情報共有によると、魔素を持ってねえとかいうフザけた体質みたいだが……。
実際どういう奴なのかは知らん。
「なんだよ、早く言えよ」
「いや、喜ぶかなってニヤニヤしててさー。シーサーパンダっさ」
「なんだよ」
「冒険者ホワイトに対する任務でさ」
その名前が出て、微かに震えた。冒険者ホワイト──勇者の幼馴染である現在話題沸騰中の一般冒険者であり、俺たちが命じられた仕事の標的だ。
「ああ」
「松永クン、どうやら負けたみたい。……任務遂行なら午後八時までにはメールを送る話だったからね」
「メールが来てないのか」
「そーいうこと」
俺たちが国から受けた命令は──『計画の邪魔になる異分子、冒険者ホワイトを手段を選ばずに抹殺しろ』というもの。
これは国指定冒険者全員に課せられた仕事だ。つっても、基本的には誰もやりたがらなかったが。
なにせ標的は一般人だ。
殺しに行った所で、労力の割に楽しくなさそうだったから。
そこで先陣を切って松永が行ったわけだけれども……負けた、ねえ。
もしかすると俺は、冒険者ホワイトを過小評価していたのかもしれない。
なるほど、この感じだと次は俺ってワケか。
「どしたの松丘クン」
「同じ"松"仲間がやられるとは思ってなくてよお、泣きそうだ」
違う。見なくても分かる。
俺は満面の笑みを浮かべている。
──アイツは決して強くはないが、一般人に負ける程度のカスではなかった。
少なくとも実力者という立ち位置だった。
しかし、事実アイツは負けたのである。
「嘘つかないでよ。ねー」
「なんだよ」
「だって今の松丘クンは、すっごい嬉しそうだったモンスター」
「ハハっ、良く分かってるじゃねえか」
ここは人の行き交う数が多いので、コチラから深い発言はできない。一般人に聞かれる可能性がある。
だから、俺は待つ。
「冒険者ホワイトは勇者ちゃんと……国際ダンジョン研究所に今いるって話だよ」
「……」
直接、言われるまで。
「君がやってよ──。君なりの方法で良いからさ。部下……下位の国指定冒険者なんてジャンジャン使っていいから」
……自然と自分の口角が上がるのを感じた。
「了解した」
「ああ、あと」
まだあるのかよ。それ以上とやかく言われると興醒めだぜ。
「あの子達、ネットで配信とかしてたりして……松永クンは偶然映っちゃったみたいだから。そこら辺の対策とかしといてよ?」
ネット──そうか、奴らは配信者でもあったな。確かに国家秘密のこの計画で俺たちが動いている、それが一般人も見る配信に映るのというの放送事故も放送事故。
有り得ちゃいけねぇ話だ。
松永はやらかしちまったらしいから、より気をつけろとつーことか。
まあ、そんなヘマはしない。
「誤魔化すの大変なんだからさぁ」
「問題ねえよ。俺はそこら辺、キッチリ詰めるタイプだからな」
松永は細かいこと気にせずに、力技で押し切るタイプだからな。……そんなミスを起こすのも、容易に想像できる可能性の一つだった。
「そう? それならオーケーだけど、よろ四苦八苦」
電話を切る。
にしても国際ダンジョン研究所ねえ。……なんて攻略しがいのあるダンジョンを用意してくれたのか、奴は。
……面白くなってきた。
ダンジョンの主が冒険者ホワイトか?
「よし。じゃあ一仕事いっちゃう? いっちゃうか。殺っちゃうか!!」
城里学──通称・冒険者ホワイト。
その男は魔素を持たず、剣と体術だけで他と渡り合う──どころか追い越していく最強。
その強さはともかくだが、
魔法を使わないという戦闘スタイルで言えば……松丘武は城里学と共通点があった。、
松丘武。
国指定冒険者の一人である彼は、『拳と狡猾な戦術で戦う』という独特の戦闘スタイルを持っていた。
明日から2話ずつじゃなくて、毎日1話投稿にします。
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