31『新天地で再び』
秋元の配信は既に切ってある。
電車に揺られていると、次第に夜が深くなっていく。もう少しで終電が駅を出発する頃合い。
僕は絶壁勇者に連れられるまま、ある所へ向かっていた。
気絶する松永を隣席に降ろす。
幸いなことに客が少なかったので……あまり気絶する松永が目立つこともなかった。
まあ、この時間帯だしな。
単純に寝ていると、他の客は勘違いしてくれるだろうさ。
『次はー……◯◯駅、◯◯駅』
無機質な車内アナウンスが流れる。
「なあ、これどこに向かってるんだ?」
「ある所よ」
「いや、ある所って言われてもな」
ある所──と濁すしかなかったのは、そう、僕も知らなかったからだ。
今回の国から受けた調査というのは嘘っぱちの可能性が非常に高く、何かしらの策略が勇者に向けられている──あくまでも予想だが、ネオイロス・ライトでそれを感じた僕は事情を彼女に話したのである。
すると秋元は、「じゃあ行かなければ行けないところってのが、あるわ」
なんて言い出して……、挙げ句の果てには、
「貴方もついてきなさい。ついてこないとダメよ」と、付き添い確定の始末。
やれやれ、全く。
……彼女というのは、
実にどこまでツンデレなのだろうか──。
でも言わないぜ。言うと、ビンタとか余裕でかましてくるのが絶壁勇者ってものだから。
「うーんと、じゃあ質問を変えるけど」
「ええ」
「何をするために行くんだ? こんな夜中、男女で二人っきり。僕だって一応健全な男の子でさ、意識しちゃうのだけれど。不可抗力なのだけれど」
「……そうね、取り敢えず貴方は黙っておいて」
彼女は音を立てずに、僕の左足のつま先をグイッと踏み込んできやがった。
「健全な男の子だったら、これぐらいはご褒美なんじゃないの?」
「ごめん、僕は至って普通の男子高校生だからさ──痛覚が当然存在するんですわ」
それでさ、普通の女の子のそういう攻撃ならば僕は大歓迎かもしれないが。
コイツは、勇者は、力が一般的な成人男性の何倍にも及ぶ実力者だから……ダメだ。何トンかの重りを足に落っことした感覚だけが積もっていく。
「そうなの!?」
「……そうだよ、当たり前だろ。それより質問に答えてくれよ」
"何処に行くのか"ではなく、
"ソコへ行って何をするのか"。
「決まってるわ」
「出たよ、お決まりのセリフ。僕にしてみれば、何も決まってないでーす。っ痛ッッ!?」
また足を踏まれた。
「……確認」
「はい?」
「国が本当に私のことを狙っているのか確認したいところだけれど──まずは信頼出来る人の元へ向かうわ」
「信頼できる、かあ。……僕は信用するのに足らない存在ってことか?」
「別に貴方を信頼している訳ないでしょ」
───それまじ?
勇者の口から放たれた衝撃の事実に驚愕する。僕は幼馴染の勇者に信用されていないのか?
一応、幼馴染だし、喧嘩するほど仲が良い(?)から信頼されていると思っていた。
……暁ヒナですら、僕のことを信じてくれたんだぞ?
「幼馴染にその対応は冷たくないか」
「冷たくないわ。むしろ暖かいわ」
「それはない」
断言出来る。
「因みにだけれど、もうすぐで着くから覚悟しておきなさい」
「ういーっす……って、おい」
その時に勘づく。なるほど、目的にはココなのか──と。いや別にそれは具体的なものじゃなかったが。簡単な話だった。この電車が"上り"だって分かった時点で、本当は秋元に質問なんてせずとも察せたのだ。
もうすぐです着く、
大体此処から数駅先。
となるとそれは、日本の首都でもある──東京に入る事を意味していた。
「わざわざ命狙われている中で東京に行くのかよ、危ないだろ」
「仕方がないじゃない。そこにしか信頼に値する地位のある人間はいないし……なにより、」
……ああ、なるほど。
「灯台下暗しって言うじゃない? まさか命を狙ってる相手が、逆に自分の領土に訪れてきたとはあんま思わないのじゃないかしら?」
「──なるほどね」
それからまた電車に揺られて数駅、僕たちは東京のとある駅で降りた。東京か……とても久し振りに来た気がする。
最後に行ったのはいつだろう。
思い出せない。待って、感傷に浸る僕よ──僕はまず今までで、東京に足を踏み入れた事は無いんじゃないか?
何が久し振りだ。そんなわけあるか。
今日が初めてだ。
「うお、これが都会ってやつか」
人々が交錯しあう、夜の街。
ネオンライトではないけれど、人工の光が人工建造物を照らし……音も途切れることなく賑わっている。
流石は日本の首都で、過密地域だけあるな。
「ほら、見惚れてないで行くわよ。この田舎者」
「おい、僕は田舎者だけど……それよりも冒険者だ」
「はいはい。そんな言い訳いいから、東京は人がごった返しているから……ちょっとでも距離空けたら、はぐれるわよ」
「分かってるって」
アンタは僕の母さんかよ。
駅から徒歩十五分ほどだろう。
そんな距離にポツンと、一つの洞穴が不自然に立っていた。洞穴と言っても──かなり大きく隆起した岩山に、入口のように大きく穴が空いている……洞穴以上の穴である。
でも、これは、間違いない。
「……ダンジョン?」
「ええ、そうよ」
「なんでさ、なんで僕はいつ起きるかも分からない松永を背負って、東京に来てまで、ダンジョンに潜らなきゃいけないんだよおおお」
泣きそうになった。
此処に来ても、ダンジョンかよ……っ!
でも違うらしい。
「違うわよ。此処は確かにダンジョンだけれど、貴方が知っているようなものじゃないわ」
「どういう意味さ……」
「此処はダンジョンを人工的に作り替え研究施設にしたところ。
日本唯一の国際ダンジョン研究所よ──」
「は?」
驚くの束の間、更に驚くべき事実が花開く。
「ようこそなのじゃ。二人とも」
「紫髪の幼女だと!?」
淡い紫の髪がツインテールになった──ライオンの着ぐるみで着飾る(フードのみ被ってない)幼女がそこにはいた。
洞穴から現れたことから、その研究所の関係者と見て良いだろう。
にしても、うん。
低身長コンプレックスの自分が、高くなったように感じる。
「勇者は久し振り、お主は初めまして……いいや」
幼女が続ける。
「久しぶりじゃの?」
……え? 僕はこんな可愛い幼女に今までの生涯で、出会ってきた事があるだろうか。言うなれば紫ロリ。紫ロリとの出会いを、僕は忘れたっていうのか?
いや、無い。断言出来る。
だからこんな美少女幼女とは初対面だ。彼女は何か勘違いしているのでは無いだろうか。
「いや、初対面だと思うんだけど……」
「違うじゃろ。ワッシだよ、ワッシ」
「はあ」
「ネオイロス・ライトじゃ」
……………………は?
唖然としてから、理解不能になって、僕は叫ぶ。
「はああああぁぁぁぁぁあああ!?!?」
ロリは世界を救う。
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