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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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そしてお姫様と王子様は幸せに暮らしました

タイトルでお察しの通り、最終回です。

十一月になった。週に一度教会へ通い、改めて夫婦とはを二人は考えた。


「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


「はい、誓います。」


二人はそう答え、神に応えようと思った。


教会で薫陶を受けた二人は、太陽神は愛する女神を囲い、自分だけのものにしたわけではないことを知った。女神の力が十全に発揮できるのは、太陽神の御許だけ。二柱の神は、教典には女神は神ではなく神使と言われているが、互いを必要とし、支え合う関係なのだと教わった。


眩い光を煩わしく思うことも、全てを隠す闇をつまらなく思うことも、神にだってある。


けれど、互いの価値を認め合い、光は明日への活力を、闇は今日の癒しをそれぞれ担うことで、この世界が成り立っているのだ。


祭壇の中央にある像は、そのことを教えてくれる。


「おめでとう!」


「おめでとう!」


「ぼべでどゔ〜!」


「ちょ、テレサ!きたない!」


「ママ、お顔がぐちょぐちょ〜!」


「ぐちょぐちょのママも可愛いだろ?」


「もちろんだよ、パパ!」


「ちょっと、ぶぶーっ!ロジャー!!!」


「フツー、人様の結婚式で、しかも花嫁の前で鼻かむ!?」


二人の式は、本当に身近な者だけを集めた式だった。


両家の家族に、テレサとロジャー、息子のトマス、リリとその子どもたち、ついでにリチャードがクラリスに堂々と寄り添っている。


わざわざ支店から駆けつけてくれたサムとマイケルも、休みを取って家族で来てくれた。あの海の見える街で、エリオットが関わったたくさんの人たちからのお祝いを携えて。


「テレサが一番長いことレベッカを支えてくれたから。」


「そうよ。私がレベッカの一番だったのに!」


「ちょっと、アタシのこと忘れてない?」


「付き合いが長いんだからそれくらい譲ってよ!」


「おんぎゃ〜!」


「あらあら、泣いちゃったじゃない。ママったらこわぁいわよねぇ?マリア?」


「リ・リぃ〜!?」


九月の末に産まれたロジャーとテレサの第二子は女の子だった。フィリップの興味はレベッカから自分より小さいマリアに移り、今はマリアの騎士になるのが目標だそうだ。宝飾職人はどうするのだろうか。


「ハイハイ、親友の結婚式でモメないの!マリアもよちよち、ほぉら、花嫁さんだよ。ママの次に綺麗だね〜。」


「なに言ってんの、今日のレベッカは誰よりも、お姫様よりも綺麗よ!エリオット!レベッカを泣かせたら絶対に、ぜぇーったいに許さないんだからね!」


「それはうれし泣きでも?」


「うれし泣きでも一発は殴る!」


「テレサは相変わらず物騒だな。」


「レベッカ過激派だからね。」


「そこがかわいいんだよ。」


自信満々に語るロジャーに、エリオットとレベッカは苦笑した。


「おめでとう、エリオット。」


「母さん。」


「レベッカ。しっかりとエリオットを支えてちょうだいね。私がマックスにそうしたように。女神様が、太陽神を支えているようにね。」


メリーは車椅子だった。またこちらで入院することになって、今度は自分が歩けなくなったと思っているらしい。今はマックスの励ましで、()()()()をがんばっている。本人はそんなつもりもないのかもしれないが、たまに転んでマックスがそれを受け止めると喜ぶのだ。マックスはそれを、メリーが見せた初めての甘えかもしれないと何故か嬉しそうにしている。


マックスはメリーの()()()()が終わったら退院して、郊外に買った家で二人で暮らすことにした。メリーも退院できる日を心待ちにしている。


マックスはその日が来たら、また籍を戻すつもりだ。


結婚パーティーは、テレサがまだ産後直後なのでやめておいた。自分のために気を遣わなくてもと言われたが、祝って欲しい友人はリリとテレサだ。この二人なら、いつでも会える。祝福の気持ちは、十二分に伝わっている。


二人は朝一番に、婚姻届を提出してきた。式を終え、神に、法に、家族に、友人たちに、二人が夫婦であることを認められた。


その夜、エリオットとレベッカはようやく二人の夜を迎えた。ただ消費するだけの欲とは違う、温かな愛が二人の間に横たわっていた。


二人は奮発して買った大きなベッドに座って向かい合った。レベッカはエリオットに促されて座らされたので、どうすればいいのか分からず緊張で固まっている。


なにせ初夜だ。エリオットとは違い、正真正銘の初めての夜なのだ。そのことを考えると胸がちくりと痛む。それでも、愛する人とふれあえることに胸が高鳴ってもいた。


いつかは、二人の子どもを産めるだろうか。マリアを見たからか、余計にそう期待してしまう。


「一生かけて幸せにし続けます。これからどうぞ末長くお願いします。」


エリオットが頭を下げるとレベッカは目を丸くした。


「えっ……と。こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします……?」


頭を下げたままのエリオットに向かって、レベッカも頭を下げる。沈黙が流れると、エリオットが吹き出した。自分から始めたことなのに、と少しムッとして顔を上げると、いつか、ジョンのアパートメントで見た、知らないエリオットの顔があった。


目は熱がこもり、欲をたたえているが、その瞳の奥には確かな愛と優しさを感じる。


「愛してる。絶対、大切にする。」


少年のような笑顔でレベッカを抱きしめた。飛びつくように抱きついてきたので、勢いに押されてレベッカはひっくり返ってしまった。


「愛してる。レベッカ、愛してる。」


「うん……愛してる、エリオット。」


目を閉じて人の重みの心地よさを感じていると、ふと熱が離れて軽くなり、目を開けてみれば、唇が近付いてきてまた瞼を下ろした。


痛みさえもひどく甘く、とても優しい夜だった。


翌朝は、エリオットにお姫様のように傅かれ、労られ、気恥ずかしい気分もしたが、甲斐甲斐しいエリオットの様子は紛れもなく絵本に出てくるような優しい王子様だったので、自分はお姫様になったのだとなんとなく思った。


レベッカは、これ以上ないほど、幸せを感じていた。


そして、十年後。


メリーが亡くなった。現実が曖昧になったまま、メリーは天国へ昇って行った。あれから精神が安定したと思っていたが、同時にどんどんと老け込んでしまい、衰弱して逝ってしまった。


彼女の時間は、現実の流れとは違ったのだろうとマックスは葬儀の終わりにこぼした。年上女房とはいえ、こんなにも早くいなくなるなんて。あのマックスが、寂しさを隠さないでいる。そんな彼もまた、昔より老いを感じさせた。


「おじいちゃん、元気出して。」


「おばあちゃんは幸せだったよ。おじいちゃんといられて、幸せだったんだよ。」


「そうだよ。おばあちゃん、笑ってたもん。」


エリオットとレベッカは、あれから一男一女をもうけた。一人目が男の子だったことをメリーは大層喜んだ。跡継ぎが出来た。そう嬉しそうに笑った。


商会はきっと、サマンサの子が継ぐだろう。本人もやる気だ。


二人の子どもたちは、それぞれがやりたいことを見つけられればそれでいいと思っている。


「確かに幸せそうだったわ。こっちに戻って来てから、ずっと。」


「そうだね。父さんがずっと、そばにいたから。」


「お義母さんは、もしかしたら、自分の生き方を肯定してもらいたかったのかもね。」


ふと、サマンサの夫、テッドが漏らした。


「肯定?」


「そう。あの人は、ずっと必死にもがいてたんだ。幸せになりたくて。自分を認めてほしくて。だけど、商会ではみんなに否定されて、それがお義母さんをおかしくさせたんじゃないかって……まあ、死んだウチのじいさんが、前にそう言ってたんだけど。」


死んだ祖父というのはニールのことだ。否定され続けることはつらいことだ。レベッカにも経験がある。それが悲しみとなって自分を傷つけるか、怒りとなって他者を傷つけるか。二人の違いはそれだけだ。それが大きかったのだけど。


「なんにせよ、愛情を求めて、不器用な人だったんだと思うよ。この十年は、お義父さんからたくさん愛情をもらって、本当に、人生で一番、幸せな時間だったんじゃないかな。」


それならば良い。もう、誰もの声もメリーには届かない。


こうして家族に囲まれて、笑いながら旅立てたことを喜べばいい。


埋葬が終わり、皆、それぞれの家へと帰った。子どもたちを寝かしつければ夫婦の時間だ。海の見える街で二人暮らしの頃に故人が好んで食べていた海老のカクテルをエリオットが作り、帰り際にマックスから渡された最期、メリーが好んでいたという白ワインで盃を捧げた。


この十年で更に世の中は発展し、こうして海の幸を内陸でも味わえるようになった。目まぐるしく動く時代の中で、二人がしっかり立てていられるのは、お互いが支え合っているからだ。


二人は伴侶のありがたみを改めて感じている。


「私が先に死んだら……」


「あ、やめて。例え話だけでも泣きそう。」


「もう!真面目に聞いてよ!」


「ごめんごめん、でもホント。だけどさ。俺たちは……」


グラスの中で揺蕩う黄味がかった白は、亡くなる直前のメリーの髪色を彷彿とさせた。エリオットの太陽のような金髪は、母譲りだ。


「俺たちなら、どっちが先に逝っても、笑っていられると思う。お互いに。」


「そうね……そう、思うわ。」


レベッカは、結婚してからずっと幸せだ。ずっとずっと、幸せだった。だからこれからも、死の間際にも、幸せで居続けるだろう。


エリオットもそうなるように、レベッカは努力し続けるつもりだ。


その日は夫婦で寄り添って眠った。いつもよりそばで、誰よりも近いところで。


いつかジョンのアパートメントで、海の街のエリオットの部屋で。未来に不安を抱きながら、それでも互いを得るために前へ進むのだと、決めたときのように。


レベッカは幸せだった。それは、エリオットが彼女のそばにいる限り、ずっとずっと続く、幸せを信じているから。

足掛け二年。半分以上おやすみしてましたが、初めての連載を完結することが出来ました。


私事で申し訳ないのですが、自分の体調不良だったり、子どもが不登校になったりと色々あった二年でして、筆を取れないもといキーを打てない日々もありました。


今も全てが解決したわけではありませんが、幸せをあきらめなかった主人公二人を見習って、私もまた歩み続けようと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

他にも作品を掲載しておりますので、よろしければそちらもご覧いただけると幸いです。

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