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異世界で俺は生きていく  作者: ちこくはん
第一章 全ての始まりはここから
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第八話 『始まり』


「おい、兄ちゃん?どうした?頭打ってやっぱおかしくなっちまったか?」


「は?」

 

 その目が映し出した世界は筋肉質な髭がトレードマークでありそうな青年をはっきりと捉えていた。思わず間抜けな声が吐き出されてしまう。


「大丈夫か?兄ちゃんよぉ。ほら、びっちょじゃねぇか」


「あ、あぁ。大丈夫…大丈夫だ。おけまるまるまる」


「やっぱダメか…」


 恐らく見立てが間違ってなければリハンが噴水から落ちてきた自分を助けてくれたらしい。

 聞く者の感情を同期させようか、といった負の感情全開のため息。そこにはレンが無事で良かったといった感情も含まれてはいたが。


「じゃあ俺は武器屋に戻ってるからな。無事で何よりだ。元気でな、少年。わっはっは!」


 頭をポンポンと叩かれて青年は背中を向けて去って行ってしまう。


 周りの野次馬達も徐々に少なくなってきた。そしてレンはーー。


「え、は?ど、どゆことですか?」


 今置かれた現状を飲み込む事に精一杯であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「俺は死んだんじゃねぇのかよ…まさかあの声の主が時を戻したとかふざけた話じゃねぇだろうな」


 頭をかきながら噴水近くにあったベンチに腰掛け、ぶつぶつと呟いて状況を整理する。


 あいも変わらず日差しが眩しくレンを照らす。街中には人が溢れかえっていて、息苦しさを感じるようになった。見るに耐えなくて空を見上げると大きな鳥の様な何かが人を引いている。あれはさながらペガサスのようで疲れた目を癒してくれた。


「田舎から出てきて都会を見たみたいな感想言ってんじゃねぇよ俺!?」

 

 首を左右に振動させ、脳内リセット。誰もがわかる苦悩のポーズを掲げて呻き声を上げる。その声を耳にした奴らが視線をレンへと集中させる。

 数時間前だろうか、似たような事がさっきもあって、デジャヴを感じて…


「数時間前…。確かに俺は首を自分で切ったんだがなぁ」


 恨めしげに自分の首を摩り、何もない、ただの男の首である事を確認。

 認めたくないものだが、確かに自分は首にナイフを突き刺した。あの惨劇を見て発狂してか、思考が出来なくなったのか、あの時は『確かに体が自分のものでは無くなった』のだ。


 ……思い出したくもないあの惨劇。何も出来ずにただ一人の少女を見殺しにした。終いに自分も自殺とは全く持って面白おかしい話だ。


「本当っ、嫌な話だぜ…」


 ポケットを探り、二度目の手荷物確認。

 中にあった物は水没したスマートフォン、「平成十四年」と貼られ、眩しいくらいの日差しを反射するほど輝かしい五百円玉。パラパラと溢れ出る塵。


 全てが召喚時の初期状態になっている。一体どういう事が起こっているのだろうか。


「巻き戻し?それがこの世界じゃ日常茶飯事とかか…?いや、んなことが良くあるとかふざけてるな。アリシアが俺を治した…?いや、アリシアもあれは致命傷だった。俺も死んだ…」


 正直、頭が一杯一杯だ。あの場でレンがした行為を治せるのはアリシアを除いて誰も出来ないはずだ。そもそも、死傷を元通りまで治せる魔法自体があるのかも甚だ疑問だ。


 つまり、


「数時間…巻き戻ったってのがやっぱ正しいって事に何のかな…はぁ。俺がピンピンしてるんなら…アリシアは…」


 彼女の安否も自然と心配する。


「そうだ!アリシアは!?」


 あの状況で彼女を見殺しにし、救えなかった命。自身が彼女に関与した事によって切り替えられてしまったかもしれない運命。もし、レンが関わらない事で彼女の運命が良い方向へと進むならば。

 …もし、関わらない運命の先に同じ展開が待機しているならば。


「知っている俺が、助けなきゃならねぇ。たらればで話をすんな」


 レンが時を遡りして初めの地点へとたどり着いた。だが、アリシアはどうなったのだろうか。それすらも巻き戻っているとするならば。

 今度こそ、救わなければならない。それがレンが背負ってしまった業だ。

 

「とにかく、アリシアを探して…」


 ーーいや。自分ができる事をするまでだ。


 もう、目の前で何も出来ない思いを噛み締めるのは十分だ。死んで欲しくない。そんな残酷な未来の想像を拒絶するかのように首を振る。


 ーーー俺が、なんとかしてみせる。行こう、あの場所へ。


 ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※     

「つ、ついた…」


 歩いて二時間弱、道中何者にも会う事なく無事にこの古小屋まで着く事ができた。道を覚えているかどうかだけが唯一の不安要素であったが、体が自然と正確な道を選んでここまで来れた。


 ーーー感じる。

 

 禍々しい何かを。レン達を死に追いやった声の主だろうか。

 汗が頬を伝う。その汗をペロリと一舐めして、『扉』の前へと進み、大声で叫んだ。


「俺の名はシノハラ•レン!天上天下の無一文!来いよ!お前を倒しやる!」


 出だしよく一丁前に格好をつけてみせる。が、それはただの虚勢に過ぎなかった。その証拠と言っては何だが、膝の震えが止まらない。いや、全身から震えている。当然といえば当然だろうか。


 …………何も起きない。


 もしかして時間がかなり経ってから来ないと奴は出てこないとか、条件が付いているのだろうか。生憎、レンには『扉』を閉じるという能力や、魔法などは何もない。

 やはり扉を閉める行為をしなければ現れないのだろうか。


 ーーーーいや。


 来た。分かる。この俺でも分かる。自分ができる最大限の警戒を即座に促したのを感じる。

 それ程までに今までの相手より、規格外という話だ。即座に逃げ出したいという考えは切り捨てた。恐らく逃げきれないであろう。


「ええい、ままよ!」


 来る。鬼が出るか蛇が出るか。


 その目が映したものとはーーーー。















 

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