その7
『なかなか、威勢がいいじゃないか』
投影されるホログラムに似た物々しい男は大きな椅子に座っている。リュークは背筋を伸ばした。
『よい女に育っておる。それでこそ、我が娘よ』
「ザベリン王」
畏まるリュークはホログラムの男に向かって、深く頭を下げる。
『しかし、手こずっておるな、リュークよ。最高戦闘指揮官として名誉なおまえも、あのようなじゃじゃ馬では形無しだ』
スクリーンから軽快な笑い声がした。
「返す言葉も見あたりません。私のこれまでの常識なぞが通用いたしません。なにぶんにも、この惑星での生活が長すぎたせいかと」
苦しい言い訳にしか聞こえない。
『まあ、よい。いずれはこの星を拠点として、辺境惑星の統治をせねば成らん。おまえの真価は、その時にでも発揮すればよい』
「御意」
再びリュークは、頭を下げる。
『それよりも、リオンとゆっくり話がしたいが』
嵩だけ強い王の顔が、少し柔和になった。
「わかっておりますが、今暫くお待ち下さい。姫は微妙な感情でいらっしゃる故、私めが少しご説明しないと納得がいかないものかと。リオン姫との御対面は、早急に準備致していきます」
『全く、あの娘の亡き母『カレン』に、よく似ておるわ』
孤高の声のトーンが下がる。リュークはその訳を痛いほど知っている。
『リュークよ。リオンを姫として迎えるには、高老院たちを認めさせなければならん。面倒だが、頼んだぞ』
「肝に命じております」
ホログラムが消えてもリュークはもう一度目を伏せ、敬礼した。
「さてと……」
彼は璃緒が出ていった扉を見る。
「姫は本当に、高老院の者たちを納得させられる器があるのだろうか」
*****
走り抜けるフロアーは、どこまでも続いていた。
「宇宙船の中って、こんなにも疲れるものなの?」
璃緒は体力と精神的な疲労も重なって、足が絡んで倒れる。彼女はそのまま動かずに、そのままじっとしていた。
置かれている状況の把握は出来ないが、地球にとって最悪な脅威の存在がここにあることだけは認識できていた。
「いったい、どうしたらいいの……」
壁に寄り添い、肩を擦り付けながら体を起す。全くの無機質で鏡面な廊下や壁は、魂すら吸い込むのではないかと思うくらい長く伸びていた。璃緒は立つ気力が出てこない。
ふと前方左側から人の気配を察し、行き場のない壁の表面を慌てて擦った。
指尖に一ヶ所凹凸面を感じ、焦り気味で押し込む。
何もなかった壁に筋が入り縁色に光かった。すると突然、璃緒が押し付けていたの背中の壁が消え空間となる。
思わず倒れ込みそのまま、落ちてしまった。
「ゴミ箱!」
長い空間はダストシューターになっていて、どこまでも彼女を運ぶ。ついに大きな空間へ飛び上がって押し出された。
弾き出された先のゴミは、ちょうど良いクッションになって彼女を巧く留まらせる。埃が舞うその上で璃緒は笑った。
「おかげで助かった。ここでリューク以外の人たちも生活しているのかしらね」
*****
「だ……、誰か……」
微かに振動のような声が頭の中に飛び込んでくる。周囲を見渡し、辺りに人がいない事を確認した璃緒は瞳を閉じ、もっと気配を探った。
「僕は、自由に……、もう動け、ない……」
璃緒はその言葉にギクリとする。
「誰かいるの?」
ゴミの山から這い出て、彼女は壁に更に耳を押しつけて言葉を聞きとろうとした。
「た……、助け、て……」
絞り出しているような、呻く苦しそうな声のみが聞こえている。そのまま璃緒は耳と手を壁に押し当て、周囲に警戒しながら声の元へ歩んでいった。
「一旦、ここから出なくちゃ」
非常口のような扉を見つける。どう見ても頑丈そうでひと筋なわではいかないと思われたが、手を翳すと何事もなく静かに開いたのだ。
「姫様のフリーパス?」
苦笑しながら廊下に舞い戻る。
しかしここもまた、歩を前に進めてもひたすら長く伸びる通路だけしかなく、拘束されているような場所が判らなかった。フロアーと同じ透き通った無機質な金属色の壁と、淡く灯る赤い照明だけが続いている。
「どこ、どこなの。どこにいるの」




