その3
「姫、出航のお時間です」
リュークは璃緒に声を掛ける。新しい学生服に着替えた彼女は、振り向いて微笑み頷いた。
「急ぎ早で母星へ戻ります。皇族との接見と高老院の審議がございます。その後……」
男は息を飲む。赤褐色の瞳は澄んでいて、とても美しかった。
「いえ、何も問題はありません」
その瞳の視線は、真っ直ぐに未来に向かっているように見えた。
「このような素晴らしいお方を、継承者に迎えなくて、誰がなるというのだ」
緑楕円の転送装置が足元に光る。そこにはアデンもいた。
「リオン姫は、『ゼブラ』へ」
「リオンよ、向こうに着いたら、王国を案内してやる」
アデンはその楕円の上で直立する。
「皆の者、世話になった。ありがとう」
ゆっくりと足元から薄く消えていく。
「アデンちゃん!」
関口とカオスの間から、紅潮する顔が覗いた。
「サキ」
「向こうに行っても、ずっと友達だよ!」
表情を柔和にして微笑んだアデンは手を大きく振る。
「わらわも『トモダチ』の称号を得たぞ、リューク」
「大変、素晴らしいことです」
振り返るアデンの顔は、この上なく上機嫌で満足気だった。
「御意。では、リオン姫。後ほど」
今度はリュークが転送される。君子と光太郎は手を取り合った。
「百瀬家のご両親、私が責任を持って、リオン姫を母星までお送りいたします」
リュークは胸に手を当て、拳を握る。
*****
「ゼブラ、お願い」
空間の狭間から白いもやが出現し、静かに黒い装束に白コートの男が宙を舞って現れる。
「あれが『ゼブラ』か」
カオスは呟いた。男と『ゼブラ』の眼が合う。二つの異なる関わりが溶け合った。
「征服要塞『ゼブラ』を従える、強大な力。『時の番人』から託された光の粒『ビッグバン』を持つ力。真の意味で姫は宇宙の『後継者』になる」
青白い円が璃緒を囲む。やがて白いもやが身を包み込んでいった。
「璃緒!」
早紀が声を掛ける。璃緒を囲むように、光太郎、君子、早紀とカオス、そして関口がいた。
「頑張ってね」
口元を引き締め、璃緒は頷いて言う。
「みんな、ちゃんと地球を頼むわよ。私が帰ってきた時、変なことになっていたら」
「なっていたら?」
早紀は問いかけた。
微笑む表情の中に不安な瞳を宿す。
そう、遠くても近くても、黙っていても騒いでいても、必ず自分の未来はやって来る。そしてそのやるべきことは、自分しか決めることが出来ない。私たちは良くも悪くも、常に何かを選びながら生きていくのだ。それは辺境の惑星『地球』自身も、いつかこの地のあらゆる生物の生死を選択しなければならない日が来る。
「いや、もう決めているかも……」
これから先、想像もし得ない色々な出来事に立ち向かうことになるだろう。自信はないが、立ち向かう勇気と覚悟を持とう。
両手を腰に当て、璃緒はいつもの仁王立ちとなって構えた。
「変なことになっていたら、その時は『百瀬・ザベリン・ミリディア・ア・リオン』が、マジで地球を『征服』しちゃうからね!!!」
そう言い放った後、璃緒は部屋から去った。
天空から轟音が鳴り響く。カオスは窓から空を見上げた。早紀が窓際に駆け寄り、空に眼を凝らす。夕刻迫る空には、白い雲が筋を一本作っていた。
*****
膝を抱えてスクリーンに映る青い地球を観ていた璃緒は、大きく息を吸う。
「さあ、急ぐわよ。早く終わらせて帰って来なきゃ」
白いコントロールフロアに佇む男に、玉座から立ち上がり、大きく号令を掛けた。
「ゼブラ、ジャンプして!」
「承知」
瞬く間に星たちが流星群のように後方へ流れ、別空間へ飛び越える。
最果ての深宇宙『時の番人』から授かった手掌の光粒『ビッグバン』を、宇宙の『後継者』は握り締めた。
そうー。
私の無限大の未来は、私が決めていく。
おわり




