その4
「おい、みんな! 面白いもの見つけたぞ!」
クラスの男子が、関口と全く同じように教室に飛び込んで来る。
「な、何だよ急に。驚くじゃないか!」
男子は片手に持っていたタブレットを掲げた。彼は音量を上げる。液晶画面に、動画共有サイトの映像が動いていた。
「なんだそりゃ?」
「地球がやばいって話! ライブ映像だぞ!」
画面では、年老いた老人が英語で身振り手振りで話をしている。自動翻訳の字幕ボタンを男子が押した。『私は、独自の宇宙研究所で、地球危機管理研究を続けているトラン博士です』と、画像の下部に文字が流れる。
その指さす方向に楕円が二つ。円には小さな点が描いてある。一つは地球。もう一つは、茶色の岩。それが、ゆっくりと回っていた。そしてそれは、ある場所で一致する。
『これは計算上でありますが、昨日から観測された隕石の軌道です。これから言えることは、間違いなくこの隕石は地球に到達するということです』
映像の一致する場所が、オレンジ色に点滅した。カオスと関口は沈黙して聞き耳をたてる。
『この隕石は現在の計算上、推定直径四百キロ。ここに辿り着くまでには質量は変わるものと思われます』
「四百キロ!!」
思わずカオスは素っ頓狂な声で叫んだ。周囲の誰もが、クールな面しかなかった男の表情に驚く。
『つまり、この事態は回避できず、人類は未曾有の危機に直面しました。直径百キロの隕石が衝突した場合、人類が生き残る確率、いや、ありとあらゆる生物が生き延びられる可能性は、ゼロパーセント。もはや宇宙以外、逃げ場所などありません』
「おいおい、ここまでくると信用出来なくねえ?」
「NASAは知ってんのかよ、これ」
「あれだよ、SF洋画の宣伝。プロモーションビデオか凄い素人作品!」
「イベント用かなんか? 結婚式とかに使われるやつ?」
一人の男子が言い放つと、次々に文句が教室を埋め尽くした。通常の理解を超える出来事は、日常生活に不要な情報としか取れなくなる。創作物扱いになっていた。
「何よ、最近流行ってんの、これ?」
「これってライブだって」
女子から笑いが起こる。
「馬鹿らしい」
「いい年老いて、目立とうとしているだけじゃね」
教室は嘲笑と失笑の嵐で湧いた。
『地球生物の運命は、もはや無い……』
台詞に飽きたクラスメイトたちは、次々と自分の机に戻っていく。
『これからは神のみぞ知る世界です。私たちは祈るしかありません、奇跡を。これから先は一番大切なひとと過ごしてください。記憶に残る出来事を……』
突然、身を乗りだしたカオスは、男子生徒からタブレットを奪い取る。そのまま液晶画面を凝視した。
「……姫」
「一ノ瀬君と関口。地球の大変なことって、このことだったの?」
早紀は小声で問いかける。二人は口を噤んだ。
「本当、なの……」




