その3
隕石は確実に、地球への衝突軌道を辿っている。リューク艦隊は迎撃のために次々と地球から離れ、火星へ集結し始めた。観察艦からの知らせは、地球に残ったカオスに伝えられる。昼間の学校で休憩時間にそれを聞いた男は絶句しかなかった。態度の変化に早紀はいち早く察する。
「一ノ瀬君、璃緒の身に何かあったの?」
「早紀さん……」
璃緒が『オメガ・テン』で負傷し、地球を離れている間は、実に十日間にも及んでいた。その間カオスは百瀬家に居候になりながら、璃緒たちの連絡を待っていたのだった。無論、百瀬家の心配を減らす目的でもある。
璃緒が『オメガ・テン』で倒れた後のクルスとの対峙にて、自己の気持ちを押さえきれなかったことを悔いもし、奇妙に感じていた。
「安心して下さい。姫を心配することは、何もありません」
笑みをカオスは浮かべる。だが元来、そんなことをする種族ではない。不格好な引き吊った笑いにしかならなかったのが現状だった。勘の良い早紀には、あからさまに判別出来る。
「一ノ瀬君、もう何があっても驚かないから」
カオスは、彼女がいたからこそ、あの時正気に戻ったと考えている。百瀬璃緒の片腕とも言える存在なのだ。
「もし僕が力を解放し、増大させていれば、きっと早紀さんはおろか、地球人類の全てを傷つけていたかも知れない……」
彼女はスリッパで頭を叩くことで男を正気に戻し、その窮地を脱したのだった。
「『オメガ・テン』が彼女に効かなかったのも幸いだった」
「ねえ、一ノ瀬君。どうなの?」
目前の早紀に作り笑いを崩したカオスは、少し躊躇する。
突然、教室に関口が血相を変えて走り込んだ。
「おい、一ノ瀬!」
「関口君、ようやくですか」
カオスに駆け寄るや否や、男は胸ぐらを掴み締め上げる。
「ちょっと、関口! 乱暴はやめて!」
早紀は怒鳴って彼の腕を押さえた。
「どうなっているんだ。百瀬は大丈夫なのか?」
「関口君、姫なら心配無用です。先ほど連絡を受けました。お元気でこちらに、向かっているようです」
関口はカオスの返事に幾分か興奮を沈めた。ゆっくり掴んだ手を緩めて放す。
「向かってる? あいつはリュークとかの戦艦の中じゃないのか」
「経緯はわかりませんが、そこから離れて、別の惑星に行ったみたいですね」
「はあ?」
宇宙を知るカオスは冷静だが、関口や早紀には夢と想像の世界だった。カオスとの間には大きな隔たりがある。
「その惑星は、姫にとって大変重要な場所だったみたいです」
「宇宙旅行していたのか」
地球離れした会話に気が遠のく関口は、ついふざけてしまう。
「そこで姫は覚醒したようです」
「覚醒。それって我をも忘れる変化するやつか。そして地球を征服が始まるとか言う……」
「クルスの言っていることなど、リオン姫には当てはまりません」
冷血な眼でカオスは断言した。
「そうだな、あいつは規格外だ」
それを聞いて関口は胸を撫で下ろす。
「関口君、そんな事を言いに来のではないのでしょう」
小躍りする男をカオスは窘めた。
「君がどのくらい話を聞いているのか知りませんが、今までとは比べものにならない事態に陥っています」
「ああ。さっき体育館の隅で、クルスがパソコン叩いて怒っていた」
訝しげにカオスは顔を歪める。
「どんでもないことを、してくれたって」
「とんでもないことって?」
男は頭を振って手のひらを天井に向ける。
「僕は地球の危機に関することで、姫が帰ってくると言う情報を持っています」
「俺のは、クルスの仲間がこの地球に向けて、何か仕組んだらしいってこと」
「共通する事は『地球』。つまりこの地球に何かが迫っているって、ことでしょ」
二人を割り入って早紀が口を挟んだ。
「璃緒の地球がね。だから急いで帰ってきてる」
早紀は和やかに頷く。
「そのようです。……リュークからの通信でしたけど」
そこだけ忌々しくカオスは答えた。




