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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第6話 征服者より愛を込めて
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その1


 璃緒が朝、リュークと顔を合わせていた頃……。


 無数の隕石群は、ある一定の軌道上に漂っていた。何も起こらない、漂うだけしか知らない宇宙空間に存在しているだけだった。そこに、ある物体が高速で近づいて来る。破壊され尽くされた、巨大宇宙戦艦だった。大きく傾いたまま突進してくる。やがてその戦艦は隕石群の中に突っ込み、大爆発を起こした。その破壊力は凄ましい。周囲の小さな隕石群を巻き込み、ある変化を起こした。軌道の狂いだ。

 その変化は一定の秩序を崩しながら拡大していく。隕石は互いに衝突と崩壊を繰り返しながら、その幾つかを軌道枠から弾き出した。それらは何かに導かれるように動き始める。

 隕石群の遙か背後で、ある謎の艦隊がそれを見届けていた。


「アルベルト隕石群の一角に一巨大戦艦が衝突し、大爆発を起こしました」


 リュークは璃緒にも解りやすいように、砕いて説明している。が、その目は点になっていた。


「衝突によって隕石は崩壊し、粉々になりました。その時に生じた破片の幾つかが、隕石群の軌道を外れています。行く先を計算しましたところ、一つが太陽系に達しています」


 アデンはメイラムに躰を支えられて、辛うじて立っている。


「それが地球に降ると言うわけだな」


「いかにも、ご推察の通りです」


 アデンの顔が訝しげに頷く。


「隕石の大きさは?」


 リュークは小さく咳払いをし、一担璃緒に視線を配った。そしてアデンに向き直る。


「ラベウル級です」


 その言葉に、大きな瞳を更に開げて彼女は仰天した。


「隕石なんて、地球には毎日幾つかは降っているって聞いたけど。みんな大気圏で燃えて無くなっているんだよね」


 璃緒は戯けたように笑ったが、その場は乾いたまま不穏な空気だ。青ざめたアデンの表情に尋常ではないと悟る璃緒は戸惑う。


「な、何よ、そのラベリーキューって?」


「ラベウル級です。隕石の大きさを示す俗称とも言いますか。およそ直径四百キロの隕石です」


 それだけ聞いいてもやはり何が起こるのか、さっぱり璃緒には理解できていない。


「地球がいったいどうなるの? それって燃えてなくならないの?」

   

 もう一度アデンに男は視線を戻した。彼女はゆっくり頷く。


「そのまま衝突すれば落下地点の地表が捲り上がり、その影響は地球のマントルを突き破ります。コアからの溶岩の噴き出しは大気圏まで達し、その量は地球の半分を覆い尽くす量と考えられます。その後地球全体は灼熱化し、三日で丸焦げの状態となります」


「つまり……」


「あと二日後で地球上のありとあらゆる生物は全て絶滅し、完全に消滅します」


 璃緒の想像を越えた出来事が、そこにあった。どう反応していいのかわからず、戦慄く彼女の唇が震える。


「ど、どうすればいいの。ねえ、リューク、どうすれば地球は助かるの」


 苦虫を潰して、男は頭を垂れた。


「どうすることも出来ません」


「何故!」


 璃緒は怒鳴って詰め寄って、服を引っ張る。


「時間がありません。ここまで我が艦で二日も掛かっています。今からどんなにジャンプを繰り返しても、一日半以上必要です」


 さっきの幸福だった気持ちが、一瞬にして奈落の底に突き落とされた。璃緒の全身が震え出す。


「着いた頃には、地球に隕石は衝突しています」


「そ、そんな……」


 彼女の縋る手が緩まる。


「仮に衝突前に間に合っても、事態を回避させることはほぼ不可能です」


「いやよ、いや、いや!」


 だだこねる子供のように、璃緒は首を横に大きく振った。


「何故、そんなこと言うの。ザベリンの力でなんとかなるでしょ。あなたたちには、星を征服する高い科学力があるんでしょ! ねえ、アデンも何か言ってよ!」


「リオン……」


 事態を飲み込んでいるアデンは頷けない。


「みんなを失うなんて出来ない!!」


 璃緒は床に泣き伏せた。


「……ザベリンの力か。大いなる宇宙にとってみれば、我々の技術力など他愛もなく、こんなにちっぽけなものだ。我々は今まで何をしてきたのだ」


 今のリュークには震える拳を作るしかない。


 目の前に、細長い尖塔が映る。


「『ゼブラ』……」


 伏して手を付いている漆黒の透き通る甲板を、璃緒は凝視した。


「この『ゼブラ』だったら、何とか出来るの、リューク」


「い、いえ……」


 縋る彼女の眼差しに男は口ごもり、考えを打ち消すように頭を大きく振る。


「無茶です。幾ら『ゼブラ』でも限界があります。ましてや、まだ姫が充分にこれを動かせるかどうかも判りません……」


 だが璃緒は引かない。


「これで間に合うのなら、今すぐに行く」


「しかし『ゼブラ』を動かすことに、高老院が許しません」


 その答えに、半ば呆気にとられる彼女は反発した。


「そんな、高老院とか知らないし、関係ない! 地球が危ないのよ! 私の星が!!」


 口から出そうになる言葉を堪えて、リュークは沈黙する。


「リューク!!」




「リオン、高老院は我が国王でさえ、一目置かざるを得ない存在。それを無視することは、やはり出来ぬ」


「アデン、あなたまで……」


 璃緒は呟きながら、しがらみのような講釈などを聞きれる気は無かった。


「最初から諦めていては、何も出来ない。それはあなたたちが教えてくれたことよ!」


 彼女は立ち上がって翻る。


「『ゼブラ』を動かす」




 璃緒の前にメイラムは両手を大きく広げて、立ちはだかる。


「邪魔しないで!!」


「無理です。ある意味、『ゼブラ』とリオン姫が生きてここにいらしゃるだけで、高老院はいいのです。たとえ、辺境の一惑星が滅びても」


 彼女を睨み付け、リュークが言えない台詞を吐いた。


「それが本当だとしても、変わらないんだったら変えてみせる。無くなっていい星なんて、絶対ない」


 一旦口が開いたものを堪えて、璃緒は前進する。


「しかしリオン姫。この宇宙に散らばる星々をすべて救えることなど、出来るはずなどありません。それは神をも恐れぬ所業です」


 彼女は璃緒の前に仁王立ちして引かない。


「そんなことくらい、わかってる」


「では、お察し下さい。ここでどう動いても結果に変わりはありません」


 璃緒は歩を止めた。


「カレン王妃は、それでも瀕死のカイザル星に行った」


「そ、それは」


「ザベリン王や王妃のこの星やカイザル星に向けていた気持ち。それが本当ならば、そして、私が彼らの娘ならそうする。わかっているなら尚の事」


 再び璃緒は塔に向かって進み始める。


「リューク、リオン姫を止めろ!」





「そうだったのか……」


 その璃緒の言葉にリュークは愕然としていた。


「王妃やルン大佐が、最後まで諦めなかったあの時の意志。それは姫のこと……」


 戦慄く男は一歩踏み出す。


「今まで生き恥を晒していたのは、この日、この時のため。己だけがのうのうと生きるという、空虚な日々では決してなかったのだ。それは姫の存在が証明してくれる」


 リュークは震える歯を食い縛る。これまでの考えが、実に浅かったことを悔やむように、そして確認するように呟く。


「我の使命は、そしてこの瞬間のため」




「リューク、わらわは何も言わん。おまえのしたいようにしろ。リオンを支えるのだ」


「ア、アデン姫、それでは……」


 驚きの顔を見せるメイラムはその場に立ち竦んだ。


「メイラム、おまえも大佐の娘ならば、もうわかっているはずだ。何が大切なのか」


「しかし……」


 彼女は未だ当惑する。


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