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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第4話 双子の姫と様々な過去
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その3

 床で這い蹲っていたカオスは、ようやく立ち上がりクルスに近づいた。


「お前もこんな奴らに、今まで従ってきたことを恥じるがいい」


「あ、あなたの正義は、何ですか」


 ふらつきながら訊ねるカオスの言葉に、クルスは口を閉じた。

 カオスの体力の消耗は激しく、立っているのが精一杯だ。だが口調はいつもの冷静さを取り戻そうとしていた。


「あなたは、ずっとザベリンを憎んでいたのだと思います。自分の母なる星が破壊されたならば、至極当然のこと。だからこそ、この地球を目指して来たのでしょう」


 カオスの声は、早紀に支えられているアデンにも聞こえている。


「あなたはこの地球にザベリンの娘がいること、まだ覚醒していないことを知っていた? 誰からそれを?」


「うるさい! お前に何が分かっているというのだ」


 クルスは言葉を吐き捨てる。


「いいか、そいつらが覚醒すれば、この地球という星も亡くなってしまうのだ。それを俺は助けに来たんだ。関係のないお前に、とやかく言いわれる筋合いはない。所詮お前の星も同じ運命だっただろうが」


「確かに、あなたが言う通りです」


 彼は冷静に答えた。


「ならば目的は同じなはずだ。俺と手を組め。この地球からやつらを追い出すんだ」


 涼しげな漆黒の闇の眼が甦り、彼の力が放出されていく。


「その姫の言いつけを、守るってか。馬鹿らしい。お前の能力を持ってすれば、こんな星などザベリンでなくても支配できるはずだ」


 クルスはカオスの能力を封じ込めようとした。彼の放出されるエネルギーをまともに受けては、クルスの思考は支配されてしまうからだ。


「僕はリオン姫に、全てを捧げました」


「聞いて呆れる。その姫が覚醒すれば、お前など眼中から消えるぞ」


「そうは思いません」


 カオスはクルスを正面から見据える。


「馬鹿な。あのザベリンの娘だ。この世界を揺るがす存在になるのは、歴史が物語っている」


「あなたはリオン姫と逢って、話しをして、どこかで違和感を持ったはずです。あの隔離された職員室であなたは驚いていました。それまでの歴代のザベリン家の姫たちと違う、言動と態度に」


 カオスの視線は淀みがなかった。その真摯な眼差しはクルスを惑わせる。


「だからどうしても、否定、拒絶しなければならなかった」


 彼の口調は、いつもよりもっと冷静だった。クルスの額に汗が吹き出る。


「何が、……言いたい」


「あなたが死にたい、いや、死ななければならないと、考える理由のことです」


 クルスは手を振り払った。


「理由は、一つしか有りません」


「俺の心を読むな」


 彼は目の前のカオスから、体を避けようと仰け反る。


「俺には効かん」


「ザベリンという悪から救い出すために、あなたはこの地球に来ました。あなたの正義とは、悪と闘うこと。それがここにいるあなたの、唯一の存在理由です。そこで生きようが、死のうが、そんなことは、関係ありません」


 クルスは胸のペンダントを握りしめた。眉間に皺を寄せる。


「ザベリンが悪になる構図さえ有れば、あなたの正義は貫かれる。存在理由も明確化する」


 カオスの体は微動だにしない。


「そのためには、あなたは手段を選ばない」


 彼の視線は捕らえた獲物をまるで愛撫するかのように、ゆっくりと締め上げていく。


「今回もあなたが仕組んだものですね。関口君が『オメガ』持っているはずなどありえません。巻き込まれただけ。互いの立場の構図さえ揃えば、あなたは姫たちを倒しても、リュークとメイラムに殺されても、どちらでもいい。存在理由が明確化さえすれば」


 カオスの中に、クルスのこれまで過去の様々なイメージが入り込んで来た。

 彼の正義、彼の悪とは、愛する星、そして愛する人とはと言う信念たる感情の根元が流れてくる。


「だが姫は違う。この地球に危害を加えることや、皆を危険に晒すことなど、望まれていません」


「そんなはずはない、そんなはずはない! あの姫にこの星など!」


「嗚呼。あなたのイメージに姫の姿が大きく映っている。優しい瞳であなたに微笑みかけている。そして、手を差しのばしている」


 カオスも憧れに近い感情の想いで言葉を洩らした。


「何故だ……。何故、ザベリンの罪を認める、リオン姫よ」


「地球にとって、本当に招かざる客はどっちだったのでしょうか」


 その言葉にクルスの目が見開いた。彼は胸を掻き毟るように息を上げる。


「俺が、俺が、悪なのか……」


「今までも姫の気持ちは変わらないと思います。ここは姫にとって、あなたが想うのと同じ、愛する人たちがいる母星なのですから」


 カオスの中のクルスはバランスを崩した。足元が緩み、底なし沼に変化している。


「クルス、これ以上はあなたがこの星にいることには意味がありません。終わりにしましょう」


 カオスの冷ややかな感情の裏に閉じこめられていた、僅かな悪意が膨張し始めた。そしてそれは怒りとなってクルスを取り巻く。やがて彼の精神は、懺悔というは底なし沼に足を取られ沈んでいった。


「あなたはこの星を、この地球など救おうと思ってない」


 怒涛のように彼の中に、かつて宿していた殺戮の感情が沸き起こる。


「僕の姫を、僕のリオン姫を……」


 カオスのその言葉の後クルスは放心し、膝を付いたまま口から泡を吹き出した。彼の瞳が白目を向いていく。


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