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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第4話 双子の姫と様々な過去
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その2


「い、いったい、ど、どうやって」


 彼は泣きそうな顔をしながら、手にある『オメガ・テン』を慌てて回す。


「すまん。こいつには止める方法を教えていない」


 クルスは大笑いした。


「じゃあ、潰しちゃえ!」


 関口に向けて、早紀はソファーにあった大きなクッションを投げ突けた。

 顔に命中し、彼の手から光る『オメガ』が床に転がる。関口は慌てて、拾い上げようとして手を止めた。


「関口、早く『オメガ』を持て!」


 クルスは叫んだ。

 早紀は何食わぬ顔でそこまで平然と歩いていき、転がっている物を一気に踵で踏み潰した。

 

 『オメガ』に亀裂が走る。


「関口、女を止めろ!」


 関口は筋の入った『オメガ』を見た。光が未だ衰えていない。


「い、今なら間に合う。早く拾い上げろ」


「嫌だね」


 そう言うと、彼も踵で何度も踏みつぶした。やがて、いくつかの破片に分離し散らばっていく。


「お前、何ということを!」


 奇声を上げるかの様な金切り音を残して、『オメガ・テン』は破壊された。


「早紀さん、関口君……」


 カオスは絡み合う糸の間から、薄目で二人の行動を見ている。


「関口、お前、一度ならず、二度までも……」


 クルスはすぐ隣に気配を感じた。



「言いたいことは、それだけか」


 彼の頬に冷たいものが当たっている。それは鈍い色を発し、床まで伸びていた。



****


 アデンは薄く目を開ける。重く伸し掛かっている者に気づいた。璃緒の顔がすぐ近くにある。


「リオン。わらわを助けてくれたのか、リオンよ」


 彼女は璃緒に問いかけた。


「そちは凄いな。姉として、礼を言うぞ」


 だが、反応はない。


「おい、リオン。返事をせい」


 アデンはゆっくりと、璃緒の体を持ちあげた。その躯体は脱力している。その顔は白く青ざめ、唇は紫色になっていた。


「リ、リオン……」


 アデンは璃緒の体を揺さぶが、瞳は開かない。


「リオン。起きろ、リオン!」


 アデンは璃緒の頬を叩いた。そして、何度も体を揺り動かす。


「リオン、目を開けろ! リオン!」


 アデンは璃緒を抱きしめし、立ち上がった。


「ば、莫迦者! そちのために来たのだぞ。何をしている、早く目を開けんか!」


 その場の誰もが、アデンの悲痛な声を聞く。


「アデンちゃん」


 早紀がアデンの側に、ゆっくりと近づいた。彼女は璃緒の顔を見て驚く。


「り、璃緒……」


 早紀はそれでも心を落ち着かせて、言葉を発する。


「きゅ、救急車、呼んでくる!!」


「アデン姫!」


 メイラムが駆け寄った。


「このメイラムに、ご容態のほどを」


アデンは璃緒を抱きしめたまま、離そうとはしない。


「メイラム、リオンが目を開けないのだ」


 彼女は璃緒の頬に、顔を付けていた。瞳から涙が幾く筋も流れ落ちている。


「アデン姫、お気を確かに」


 メイラムは璃緒のその顔を見るや驚愕した。あまりにもその容態は、命を落としているとしか見えなかったからだ。

 彼女は動揺した声を出すまいと口を押さえる。



****



「姫!!」


 リュークの刃は、クルスへの殺気を失い床を突いた。


「リューク! お願いです、僕からこれを取って下さい! 早く!!」


 力を失っていたカオスは、もがきながら必死の形相で叫ぶ。

 リュークの行き場が無くなった剣は、カオスを絡めている糸を断ち斬った。力無く落ちた男は、這いずって璃緒に向かっていく。


 アデンが号泣していた。


「『オメガ』が……、リオン姫を」


 その場に佇むクルスは呟く。


 クルスは突然、胸ぐらを捕まえられ頬に衝撃を受けた。その勢いのままクルスは壁にぶつかる。


「気が済んだか」


 関口は声を殺した。


「あ、あの姫が……、死んだ……」


 クルスは視界に彼を入れていない。


「おい、聞いているのか、クルス!」


 関口はもう一度、クルスを起こした。


「あいつを死なせて、気が済んだのかよ!」


 彼の声が響く。


「もう、終わったんだよな。これで地球は救われたんだよな!!」


 クルスは答えない。いや、彼の口は震えていて、答えられない状况にあったのだ。


「クルス、もう、いいんだな。もう地球から出て行ってくれ」


 関口はその場で床に膝をつく。アデンの非痛な声が、彼の耳にこびり付いて離れなかった。


「俺は……、百瀬を守りたかったはずなのに」


 クルスの横に長い人影が立つ。


「失せろ」


 ゆっくり顔を上げると、リュークの剣先が向いていた。


 男は狂ったように笑い出す。

 室内のアデン以外は、その笑いの方向を見た。ゆらりと立ち上がったクルスは壁にもたれている。


「生かしておいていいのか。俺は、お前らの姫の命を奪ったんだぞ」


 笑い脱力するクルスはリュークを睨み付けた。彼の刃が動く。


「そうだよ、その目だよ。それがお前らの本性だ!! 殺気立って、イカれて、俺を一太刀すればいい!」


 向けられた鋭いが光を失っていた刃は、やがて静かに床に落ちていった。


「姫は……、姫は、そのようなことを、望んでいない」


 リュークの沈んだ声は、一点を見つめまま動かない。


「破壊と破滅、侵略を繰り返し、土中の蟻一匹まで従わせ続けてきたのが、お前らだろうが。何を今更、そんな戯言など聞きたくもないわ!」


 クルスは歩き出した。そして床を突く剣を持ち上げ、その刃先を胸に当てる。


「この刃も、何人もの血を吸ってきたのだろうが!!」


 彼の目が血走っていた。


「クルス! もう、やめろ!」


 関口は彼の腕を掴む。クルスは彼を足で蹴り倒した。


「殺して見せろ、リューク。あの姫の前で俺を切って見せろ!! そして、叫べ。姫も征服者だ、って」


 リュークの眼光は、一向に衰えてはいなかった。だが剣に生気はない。


「闘将リューク。お前がこれほど、名ばかりの腰ぬけとは、知らなかった」


 自暴自棄に近いクルスに向け、メイラムの長い棍棒が目の前に届く。


「リュークを侮辱することは、これ以上許さん」


 彼女は揺れているクルスに向かった。男はそれを掴む。メイラムは微動だにせずそのままにした。クルスは両手に剣と棍棒の先を掴んでいる。


「嬉しいね、あんたは、あのリオン姫様の部下じゃないらしいな」


「メイラム、やめろ」


「女、俺が憎いか。だったら、俺を殺せ。それがお前らの本来の姿だ。遠慮することはない」


****


「ちょっと、二人とも! 何をやってのよ! 璃緒のことを考えてよ! そんな奴なんて、放っておきなさいよ!」


 早紀は救急車への連絡が終わったと同時に叫ぶ。抱き抱えているアデンは彼女を見た。


「アデンちゃん、璃緒大丈夫だから。私はこの子とはつき合い長いのよ。こんな病気より、もっと大変なこと色々あったんだから、すぐに治るわ」


 手足が白く冷たくなりかけている璃緒の体に触れ、髪を早紀は撫でる。


「早紀よ、お願いだ。リオンを助けてくれ」


 今でも流れる幾筋の涙は、もはや気丈な姫ではなく、妹を心配する顔だった。


「……アデンちゃん」




 リュークはその剣先をクルスに掴まらせたまま、柄を離す。主人を失った剣は力無く床に響いて柄を付けた。


「なん、なんだと……」


 クルスの手は血を滴り流している。


「リューク……」


 メイラムは彼を目で追った。リュークはクルスに背を向ける。


「リューク、貴様! それでも軍人か!!」


「俺は、リオン姫の家臣であり、姫を守るものだ」



 そう言い残し、彼はアデンのもとに歩んだ。


「早紀殿、この地球での治療は無理かも知れません。私の艦の医療部に転送します。地球での生活体系によって変化した姫の体は未知数だが、手だてを全力で講じてみます」


「アデン姫」


 アデンの切ない瞳がリュークを見つめ、動きを止める。


「必ずやリオン姫は助けます。どうぞ、姫をお放し下さい」


 アデンの腕に包まれている璃緒を彼は見る。目を見張るリュークは言葉が出なかった。


「こ、こんな姿に」


 彼はそっと、アデンから引き離そうとした。だが彼女の手は最後まで璃緒を掴んでいる。


「アデン姫、どうぞこのリュークめを信じてお任せ下さい」


 戸惑うアデンはやがて頷いた。


「リューク、わらわは何も出来ない。助けてくれ」


「仰せのままに」


 深くリュークは頭を下げる。彼は地球軌道上に停泊している鑑に応答した。


「緊急事態だ。転送装置をこのポイントに設定しろ。至急救護班の準備を!」


 メイラムは今だクルスを睨んでいた。


「メイラム、そんな者に関わっている場合じゃない。こちらを手伝ってくれ」


 フロアーに緑蛍光色の円形が浮かび上がる。リュークは再びクルスに向き合った。主を失い転がっていた剣を持ち上げる。


「ようやく、殺す気になったか」


 リュークは冷静な顔の眉間に皺を寄せた。両手で剣を大きく降り上げ、クルスの前の床に深く突き刺す。


「この剣で死にたいなら、くれてやる。この剣で俺を刺したいなら、そうするがいい。俺はリオン姫の意志に従い行動する」


「リューク、逃げるのか」


 クルスは狼狽していた。


「俺の知ったことではない」


「この、腰抜けどもめ!!」


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