その1
「君にしては、いい出来じゃないか、関口くん。見込んだ通りだよ」
拍手をしながら、クルスは異次元から現れる。
「しかも、どうしたことだ。憎むべきザベリンの娘が二人もいるではないか。リオン姫にそして、アデン姫」
関口はクルスに駆け寄り縋った。
「こんな事、もうやめてくれ! 百瀬とアデンさんに手を出すな」
「おまえの手柄だ。俺は何もしないさ、と言いたいところだが、こんなおいしい状況では難しいな」
男は不敵に微笑む。振り被って関口は睨んだ。
「ここから、た、立ち去れ、クルス!」
クルスは関口の両頬を左手で掴み、ひょっとこ面になる顔を締め挙げる。
「関口くん、何か勘違いしてないか。俺が主導権を握っているんだ。おまえじゃない。それにこの機会を逃したら、もう二度とこの場面に巡り会えるかどうか分からないからな」
そのまま腕を挙げると、関口は一緒について持ち上げられた。白いヘルメットが不気味なほどの鋭い光を放つ。
「やはり貴様、あの時の男か」
リュークは唇を噛んで剣を鞘から抜き、メイラムも拾い上げた棍棒を向けた。だが二人とも手足が震えている。
「おやおや、これはまた珍しいお客さんだな。女性までとは愉快だ。いくらおまえらが気鋭の強者だとしても、この『オメガ』には勝てんさ」
敵意を持って、烈しく二人を男は睨みつけた。
「リューク、こ、こいつがカイザル星の生き残りか」
よろめきながら、彼女は歩み進める。
「やめろ、メイラム」
「ほう、我が母星を知ってるのか。だったら話が早い」
男はメイラムを見つめた。苦しむ彼女の棍棒の先端は、焦点が定まらず縦横に楕円を描いている。
「おまえの星は、死にゆく運命だった」
メイラムは必死で声を吐き出した。
「死への引き金を引かせたのは、どいつだ」
震える棍棒の先を、クルスは掴む。
「父上はお前の星を助けようと思案した。だが貴様等の政治家や上官どもは、他の惑星の者の意見など、何も聞き入れなかったではないか」
先端に込められる気が薄くなり無くなっていた。
「減らず口を叩くな。実際、我が母星から採掘されていた鉱石を自国の動力エネルギー財源としていたお前らが、多くを求めた結果だ」
掴んでいる棍棒の先端をそのままにクルスはメイラムを睨んだ。
「待て、お前の父親……、そうか交渉者ルン大佐か」
「そ、そうだ!」
メイラムは怯まない。棍棒をゆっくりと、再び持ち上げていく。
「おまえの母星の崩壊時に遊爆に巻き込まれた」
クルスの手の力が瞬間抜けた。
「カイザル星。エクティーヌ星とはその昔、友好関係を築いていた。互い求めるものを持っていたからだ。カイザル星はエネルギー鉱石を、そしてエクティーヌ星は開発軍事力技術を」
リュークは語る。
「軍国政治が力を伸ばし始めた頃、お前らのような血にまみれた輩が出入りするようになったのだ。確かにお前たちの技術はカイザル星の進歩に大きく関与し、財政も豊かになっているように見えた。だがそんなものは官僚たちが甘い汁を啜っているだけで、一般生活者には皆無だった」
酷く戦慄く怒りに満ちた、クルスの声が響く。
「カイザル星は軍国主義国家に変わり果て、エネルギーの奪い合いになった。やがてそれは枯渇し、星の寿命を縮めた」
「それは貴様等の責任だ」
メイラムの棍棒はなおも震えていた。
「父上は、その打開策を何度も提案してきた。また星が危ういことも、警告していたはずだ」
「民衆は知らなかった。何も知らされてはいなかった。星が砕け散る、その時まで」
「何ということだ……」
リュークは歯を鳴らす。
「しかし根元はお前らにあるのだ」
クルスは言い切った。
「責任を、すり替えるな……」
メイラムは棍棒の先に意識を集中する。
「無駄だ。今のお前の力なぞ、全く通用しない」
彼女のふらついた動作からは、意識が次第に朦朧となってきていることが伺えた。
「メイラム……、しっかりしろ」
リュークの声も途切れだす。彼は剣を杖代わりにした。ついに腰から崩れ落ちるように、メイラムは床に倒れ込む。
「カオス、姫を守れ」
早紀をその場に残し、カオスは飛び出した。
「サイコパスの者には、これをやる」
クルスの手から放たれた玉は、やがて蜘蛛の巣状に広がる。
「これは!!」
「一ノ瀬君!」
早紀が叫ぶと同時にカオスはその糸に飲み込まれ、壁に張り付けられた。もがけばその分糸は絡み付いていく。やがて彼はその糸によって動きを封じ込めらた。
「この糸はお前のエネルギーを吸い込みより強固な糸になる。ジタバタすれば体力を消耗し、動けなくなるぞ」
華奢な体から精気が抜けていき、カオスは次第に悲痛なほど痩せていく。
「俺がお前の対策をしてないはずないだろう。でも驚いたね、リオン姫の配下にいるとはな」
クルスは愉快そうに言い放つ。
「関口君、その『オメガ』を止めてくださ……」
力絶えていく、カオスの細い声が聞こえた。




