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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第3話 双子姫、アデン登場!
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その9


「で、どうしたらいい?」


 カオスを目の前に璃緒は尋ねる。


「ここはひとつ、関口君としっかり話しをされてはいかがですか」


「それが一番よね。さっきは頭ごなしに怒ったけど、よく考えると何故、アデンと関口が一緒に居たのかしら?」


 早紀が背後からいつもの様に思いっ切り覆い被さった。


「そんなことも気づかないの、璃緒姫」


 カオスの視界から璃緒が消える。


「璃緒が気づかないから、一ノ瀬君とずっといるから、関口は決心したのよ」


「何故、私が関係するのよ」


 背中に彼女を背負う形になっている璃緒は、床を見つめながらぼやいた。


「むしろ、アデンちゃんと関口を関係づける方が大変だし」


「どういう?」


「アデンちゃんと璃緒は双子で、髪隠したら同じ顔でしょ。お風呂上がりで、タオルを頭に巻いて浴衣着ていたから、きっと間違えたんだよ。話す相手を」


 早紀はカオスの真摯な瞳に少し顔を赤くして、視線を逸らす。


「関口君はアデン姫ではなく、あなた様に伝えたかったのですよ、きっと」


 カオスは未だ下を向いている、璃緒の頭を穏やかに見つめた。


「ねえ璃緒、どこまで言わせる気。後は自分で聞きに行きなさいよ。そうすれば、アデンちゃんの誤解が解けるよ」


 璃緒は上目使いに、顔を挙げる。


「はあ?」


「一応騒動にはなってるけど、呼んでおいたから話しを聞いてあげな」


「ちょ、ちょっと、何を勝手に!」


 早紀は立ち上がり、カオスの腕を引っ張った。


「一ノ瀬君行くわよ。後は二人の問題」


「ちょっと、早紀、待ってよ」


 璃緒は早紀の服を掴もうとしたが、その手は空を切る。


「僕は、いてはいけませんか?」


「一ノ瀬君、そりゃ野暮ってもんでしょ」


 彼女は微笑みながら、その手を勢いよく引っ張って行く。


「今僕は、姫の側にいなくてはなりません」


 足を止めてカオスはしっかりした口調で言葉を発した。


「今は厳重な警戒をしなくていけない。姫から離れる訳にはいきません」


 その理由がある。


「一ノ瀬君、一度聞いてみたいと思っていたんだけど」


「何ですか」


 カオスは彼女と至近距離で向き合った。


「璃緒のこと好きなの?」


 彼の動きが止まる。


「さ、早紀。そ、そんなこと、あるはずないよ」


 璃緒は慌てて、カオスが言い出す言動を制止させようとした。


「前にもすでにお答えしておりますが。それではいけませんか、早紀さん」


 カオスの袖を引っ張ったままの早紀は大きく頷く。


「一ノ瀬君は私のことをどう思う?」


 目を丸くする璃緒はカオスを凝視した。彼は少し考え込んだが、顔を引き締める。


「早紀さん、非常に理解しがたい言葉なのですが。この地球の感情は特別です。でも」


「でも……?」


 彼女の顔が訝しんだ。


「僕には、やらなければならないことがあります。このまま隠しても無駄でしょう、姫」


 訝しんだ顔のまま、早紀は璃緒を凝視した。その視線に彼女の目が泳ぐ。


「やっぱり、一ノ瀬君は璃緒が好きなのね」


 結果を早紀は急がせた。


「僕が忠誠を誓い申し上げているのは、リオン姫以外におりません。姫は僕に生きて守るように、使命を与えて下さいました」


「カオス、言い過ぎ!」


 璃緒は堪らず叫ぶ。


「そうね。そうだと思ってた」


 彼女はため息混じりに、一息吐く。


「いいわ、わかった。一ノ瀬君は姫を守りに来たって言ってたね。アデンちゃんが私は姫になる素質がないって言ったのは、そういう意味だったのね」


 腕を組んで彼女はまたしても、大きく頷いた。


「おいおい、早紀ちゃん、誤解だよ」


「でも、関口のことも忘れないでね、璃緒」


「ははは……、だから違うって」


 璃緒は呟くと、カオスは振り向く。


「姫は僕にとって、敬愛する対象です」


「カオス、あんた真顔でそんなこと言うから、話がややこしくなるのよ。いったい、誰の話なの……」


 その場にしゃがみ込んだ。



****


「百瀬……、こいつを……、どうにかしてくれ」


 関口は腕に取り巻いている物体を、引き摺りながら部屋に入ってきた。彼の腕に付いて、頬を二の腕にぴったりと貼り付かせている。


「アデン?」


「アデンさん、泣き止んでから、ずっと俺にくっ着いてるんだ」


 アデンのその顔は、うっとりとして、まるで恋する乙女そのままだ。


「璃緒、あんたがくずくずしてるから……、取られちゃうよ」


 璃緒はカオスと早紀を押しけ、二人に近づく。


「おお、リオンではないか。わらわの夫を紹介するぞ、こいつだ」


 アデンは関口を迫り出し、指さして誇らしげな顔をする。


「セキグチだ。こっちは妹のリオン。仲良くしてやってくれ」


 璃緒は彼の腕からアデンを引き剥がして、床に座らせた。目が酔っているように、焦点が定まらない。彼女は両手でアデンの頬を掴んだ。


「何事だ、リオン」


「何事じゃないわよ、アデン。大体あなた、婿探しに来た訳じゃないでしょ。関口も嫌なら、嫌ってしっかり言いいなさいよ」


 璃緒は罵詈を浴びせる。


「リオン、無礼だぞ。わらわの夫に何という口の聞き方だ。幾ら妹と言えど、聞き捨てならんぞ。処罰する!」


 ふらつきながらアデンは、床から立ち上がった。璃緒に縋りながら、ぴしゃっと頬を平手する。


「アデン! しっかりして! さっきまでの気品さはどこにいったの!」


「何だと。そちは、妹の分際で姉に指図する気……」


 璃緒の渾身の一発が、アデンの頬を襲った。彼女は、二、三回転して床に転がる。


「お、お、おい、百瀬、やりすぎじゃないのか!」


「もとを辿れば、あんたでしょ!」


 璃緒の目付きは、尋常ではなかった。関口もターゲットになる。


「アデンに何言ったか知らないけど、彼女はあんたと結婚しないから!」


「け、結婚!? 何の話だよ! そうじゃない、俺はお前に、用があったんだ!」


 初めて関口は今までで、真剣な眼差しを璃緒に向けた。早紀はカオスの側に駆け寄り、強引に男と腕を取る。カオスは三人を警戒して見つめていた。


「一ノ瀬君、ここが修羅場よ、修羅場」


 関口と仁王立ちの璃緒は向かい合う。今まで二人が、これほど互いの顔を睨むほどの見つめ合うことはなかった。


「用って、何」


「その……、俺は、おまえを……」


 握りしめている男の拳が震える。


「どうするのよ」


 璃緒の警戒は解かれていなかった。


「何があっても……」


 関口はポケットに入れてあるものを、服の上から握り締める。


「何があっても?」


 璃緒は関口の言葉が気に掛かった。




「関口君、何か持ってるの? 璃緒へのプレゼント?」


 早紀が無理に話に割り込む。


「早紀さん!」


 今度はカオスが早紀の体を止めた。


「ここにいて下さい。あなたまで危険が及びます」


「危険? 何のこと?」


 

「ち、違う、こ、これは……、その……何でもない」


 慌てて関口はポケットの中身を握りしめる。


「隠さないの。璃緒への、何かでしょ。早く、渡しなさいよ」


 早紀は、カオスの手を振り解こうとした。




「早紀さん!」


「一ノ瀬君、何故、私は、姫になれないの。さっきの話、やっぱり私には分からないよ。一ノ瀬君から守ってもらえる、お姫様になりたいのに、どうして……、璃緒なの」


 小刻みな早紀の腕の震えを、カオスは感じる。


「早紀さん。僕は愛というものはわかりません。けれども、あなたからそれらしき感情を感じることは出来ます」


「でも、お姫様じゃないのよね」


「何と言っていいのか」


 カオスの表情はその気持ちの表れか歪んでいる。


「これまで、僕は人の気持ちを惑わせていました。自分のものにするまで、その人格が崩壊するまで」


「私の気持ちも、崩壊寸前だけど」


 つぶらな瞳は璃緒と違う輝きを持っていた。カオスは微笑む。


「あそこにいる姫は、璃緒さんは、早紀さんには友人でも、僕やリュークには全く違う存在。同等の立場ではないのです。外敵から守らなければならないお人なのです。今は理解が難しいかと思いますが、きっとわかる日がきます」


「取りあえず、胸にしまっとおく。で、関口は何をしようとしているの」


 早紀は瞳の滴を拭って、カオスの顔を見入った。


「彼は、とんでもない物を持っています」



****


「どうかするの、関口」


 璃緒は緊張する。


「俺は、お前を守りたいだけだ」


「あなたが、私を? どうして?」


 関口の顔が紅潮した。後方に倒れていたアデンが起きあがる。


「どうしてって、それは……、お前が……、一番大切だからだ」


 璃緒は男をじっと見つめた。




「セキグチ、それは誠だな」


 頬に柔らかいものを関口は感じる。そしてすぐ近くにアデンの顔があった。それは口元を上げ光らせる。


「セキグチ、婚約解消だ」


「アデンさん……」


 彼は頬を押さえて呟いた。


「お前も、よほど口べたな奴だな」




 アデンが関口から離れた時だ。


 そのポケットから何かが落ちる。それは金属的な音を床に響かせた。

 床に転がるそれを見て、カオスの形相が変わる。


「アデン姫! リオン姫! それから離れて!!」


 咄嗟に、璃緒はアデンを抱いて関口から素早く引き離した。勢い余って二人は壁に激突する。


「そ、それは……」


 彼女はその金属片を見た。次の瞬間、璃緒の体が石になったかのように固まる。

 転がった金属片を慌てて関口は拾った。


「関口君、君はそれが何だか、知っていますよね」


 カオスは冷静な顔で彼を睨みつける。


「こ、これは、たまたま、知り合った奴が……」


「この間いた、クルスとかいう者ですね。あの人は非情に危険です」


 関口が持ってる金属片はやがて光りだしていく。室内に奇妙な反響音が鳴った。璃緒とアデンは悲鳴をあげる。


「な、何、妙に息苦しい……」


 璃緒は急に体を捻り、もがき苦しみ出した。それはアデンも同じだ。


「姫!」


 カオスは叫んだ。


「一体、みんなどうしたの。ど、どうなってるの!?」


 早紀は状況が理解できない。カオスに心配そうな顔を向ける。


「早紀さん、下がって。あれは宇宙に存在し、エクティーヌ星の人々には猛毒とされるキラーストーン、『オメガ・テン』です。地球の人にはどうなるかはわかりません」


「宇宙、エクティーヌ星、キラーストーン、オメガ??」


「あの『オメガ・テン』は、姫を殺傷出来ます」


「殺傷!?」


 彼女はカオスのこれまでにない焦った表情を見て、事態が悪いことだけは理解できたようだ。

 目の前で苦しむ二人を、ただ呆然と見つめるしか出来ない。


「そう。姫たちとザベリン家、エクティーヌ星を崩壊させることが出来る」


*****


 背後に転送してきたリュークが立っていた。


「あ、あなたは、アトラクションの時の人?」


 振り返るカオスの側に揃う。


「リューク!」


「まさか、あの男がここまでするとは、予測を遙かに越えた事態だ」



「ちょっと、待って下さい、お、俺は……」


 狼狽えた声で関口は呟く。


「『オメガ』をどうするか次第では、我々も覚悟がある」


 リュークは剣を取り、カオスと互いに構えた。再び背後で転送装置の音がする。


「このような一大事、私も黙って見ていられない!!」


「いかん! メイラム、戻れ! お前もやられるぞ!」


「私にとっても、二人の姫は大事だ!!」


 彼女は先にエメラルドブルーが輝く棍棒を突き出した。すぐにでも講堂で見せた、爆裂な火の玉が飛び出す瞬間だ。


「ちょ! ま、待って! 俺は、本当に何もしないって!」


 関口は両手を挙げて振り、無抵抗さをアピールする。

 だがそれは『オメガ・テン』の発動を意味した。ロビー全体が揺れ、紫色の怪しい光に包まれる。


 彼の側に転がっている二人の姫たちは、呻くように喉を鳴らし、掻きむしり、一層苦しみ出す。

 アデンは白目を向きかけていた。


 大きな咳とともにメイラムの棍棒が床に落ち、転がる。


 剣で支えていた体が震え、豪傑のリュークさえも膝を付く。



 それを見届けるかのように、ゆらりとある空間が歪んだ。



第4話に続く


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