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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第2話 正義の覇者、光臨!
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その2


「こお~」


 仁王立ち男は、テーブルの前で悶絶しながらこめかみを指で押し付けている。


「全くこれは、涼しげで旨い」


 透明なガラスの容器に入った、淡いピンクに白濁色がかかった氷は、男の味覚に衝撃を与えていた。


「それは、それは、お誉めの言葉、ありがとうございます」


 百瀬君子は軍服を着ている猛者男を前にして、まるで子供を見ているかのような優しい眼差しを向ける。


「この食物は、一体何なのだ。冷たくふわりとした一瞬の触感の中に、ほんのりと口中に甘い味が染み渡る。喉を通り越すと全身が一気に涼しくなる」


「『かき氷』と言います。このかき氷器で、あらかじめ凍らせておいた氷を刃でスライスして作ります」


 君子は微笑んで、かき氷器をテーブルに置いた。


「なんと!」


 ペンギンの形をしたそれを見て、男は絶句する。頭上に付いているハンドルを回して、下部で回転する刃を見た。


「この小さな刃が、あのように鋭く削ぐことが出来るとは」


 ごくりと喉を鳴らし、驚嘆の声を上げながら氷を口に入れ、再び悶絶する。


 その冷たい喉味を変えるために、今度は水分を補給した。


「そして、これだ。この氷の甘味とは違い、味わい深い適度な爽やかさ。絶妙にマッチングしている!」


 思わず男は机を叩く。胸に並んだ勲章が音を立てた。


「それは大麦の種子を煎じたもの。『麦茶』と言うものです」


「麦……、信じられん……」


 ため息をつき、ふと男は屋外を見る。青い空に白い入道雲が起ち登っていた。


「これほどの青さだったか」


 男は途中、鴨居で頭を打ちながら縁側に出る。風が風鈴を鳴らした。


「そして、なんと暑い日なのだ」


 肌を焼き付けるような日差しが、猛者男を直撃している。


「かき氷がなければ、この辺境地の人類は滅亡するだろう」


 蝉の鳴き声も加勢して、紅の軍服が燃えそうだ。


「リュークさん、もう少し涼しげな格好はないのですか」


「涼しげな格好? 私はこれ以外には、正装用の服しか持ち合わせてはおりません」


 放たれた水が放射状に広がった。庭で君子が水を撒いている。暫くすると辺りの熱が急に下がった。

 そよ風を通して、涼しさが舞う。


「君子殿、一体それは?」


「打ち水です。少しは、涼しくなりましたでしょ」


 君子はもうひと撒きした。腕組みしながらリュークは考え込む。


「原始的なことなのに、まるで魔法でもかかっているように雰囲気が変化する」


 空を見上げると飛行機雲が一直線に延びていた。


「このような場所で、姫は過ごされたのだ」




 リュークの深い息とともに風鈴が鳴っている。男は眼を閉じ、暫し腕を組んだ。


 背後に人の気配を感じ、いつもの鋭い眼に戻る。


「リュークさん、一杯どうかね」


「光太郎殿」


 柔和な顔の光太郎は、瓶ビールとグラスを二つ持っていた。


 彼はおもむろに縁側に座り、瓶ビールの栓を開け、滑かにグラスに注ぐ。気泡が白い綿を作っていった。それはグラスの先端まで駆け登り、やがて外へ溢れ出す。


「これは……?」


「まあ、座って下さい。麦茶とはまた違い、こちらは『麦酒』です」


 縁側に座り込んだリュークは、物珍しそうな顔をしてグラスを取り上げた。


「一口、飲んでごらんなさい。なに、最初は苦いがじきに慣れてきますよ」


 光太郎はにこやかに微笑む。

 リュークは、それをじっと見つめていた。おもむろに口を付けると、一口どころか一気に飲み干す。


「なんと!? これはまた格別に旨い。今まで知っている味では無い!!」


「リュークさん、勇ましいねえ」


 光太郎はその行動に感心した。

 

 君子が枝豆を側に置く。これもリュークは手に取って眺め、そのまま口へ放り込んだ。

 彼は少し顔を歪ませて、吐き出す。


「リュークさん、これは中身だけ」


 光太郎は手掌に中身の豆を見せた。


「なるほど。ひと手間がいるのですね」


 リュークはおぼつかない手先で豆を手掌に出す。


「艦内では、生命維持に必要な人工的に調整された飲料と乾燥穀物しか摂りません。こうゆう素材は初めてです」


 ひとつ勢いよく飛び出して、床下のどこかに転がっていった。


 光太郎は彼の空いたグラスにビールを注ぐ。これもリュークは一気飲みした。負けじと光太郎も飲み干す。


 そして二人は笑い出す。


「ありがとう、リュークさん」


 上唇に白い沫をつけたリュークは、不思議な顔をした。


「璃緒を戻してくれて」


 光太郎はビールを飲む。


「いえ、光太郎殿、姫を返すという訳では……」


「わかってますよ。けれども、もう一度あの娘の顔を見れて嬉しいんです。妻も同じです」


 やや複雑な顔をして、リュークはまたしてもビールを一気飲みする。


「最初からそういう約束だってことは、百も承知のはずでしたよ。けれども実際いなくなると、寂しくて堪らない」


 リュークは枝豆を取り出した。二つ転げ落ちる。


「あの娘が宇宙で、しっかりやれるのだろうか、私たちの育て方に間違いはなかったのだろうかと、とても心配になる。まるで自分の子供のようにね……」


 光太郎はビールを注ぐ。


「光太郎殿。姫は優しいお方です。あの慈愛に満ちた心は、百瀬家でなければはぐくむことなど出来なかったでしょう。姫もあなたがたに育てられて、大変、幸せを感じておられる。育て方に間違いなどあるはずがない」


 風鈴が鳴り響いた。 


「子の無かった我々の前に、あのお方は授けて下さった。リュークさん、十七年間なんて長くなく、あっと言う間でしたよ……」

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