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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第2話 正義の覇者、光臨!
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その1


 その日はまたしても変な出来事から始まった。教諭の後に教室に入って来た転校生は、自己紹介を始める。


「今日からお世話になります。一ノ瀬カオスと言います。よろしくお願いいたします」


 後席の早紀が、定規で背中を突いた。


「ねえ、彼、凄く格好良くない?」


 振り返ると彼女の目が輝いている。


「ま、まあ……、ね」


 反対に璃緒は、引き吊った顔で答えた。


 壇上の美形男子は緑の髪に、モスグリーンの瞳が印象的な、どちらかというと、アンユュイな雰囲気だ。

 璃緒はカオスがこんな格好だったか、暫し首を捻る。


「僕がここに来たのは、姫をお守りするためです」


 女子全員が驚嘆の声を上げたのは、言うまでもない。


「姫だってぇ!」


 早紀もため息をついた。


「あの彼なら、言われてみたい」


 彼女は恍惚の表情だ。璃緒はその顔を見ながら「姫って、結構大変なんだけれど」と言いたげた。


「そう言えば璃緒。昨日、姫のこと話してなかったっけ?」


「う〜ん、そうだったかな」


 とぼけながら、彼女は昨日と今日はかなり事情が違うことに戸惑いを覚えている。

 女子の熱い視線とは裏腹に、男子は苛ついた顔をしていた。ただ関口だけは、両脚が震えて机を鳴らしている。カオスは璃緒をちらりと見て前の着座した。



 昼休み、屋上に璃緒とカオスはいた。仁王立ちになっている璃緒はカオスを睨みながら問答する。


「どうして、ここに入れたのよ。宇宙人のあなたが」


「少し、ここの方々に協力していただきました」


「あなた、心操ったでしょ」


 カオスは柔和に微笑んだ。その悪気のない表情に、困った顔を璃緒はする。宇宙人がこの学校に紛れ込んでいるのだ。

 すると宇宙人はその前で深々と躓いた。


「ちょ、ちょっとカオス、やめてよ」


 璃緒は慌ててその動きを止めさせる。


「しかし僕の役目は、姫から命じられています」


「わかった、わかったから。誰か見てたら、変なこと言われるから」


「姫のことを忌み嫌い、反撥する輩は、コントロールします」


「だから……」


 璃緒は改めてカオスの忠誠心に勘念するとともに、あの時にスマホゲームの姫みたいなことを言ったことを後悔していた。


「宇宙人って、そんなに従うものなの?」


「違います。僕がこのようなことをするのはリオン姫が初めてです。そもそも僕は誰かに忠義をする前に、その者たちを意のままに支配していましたから」


 暗黒の闇を持ち、その星を滅亡させることでその存在意義を確かめていたカオス。彼がその気になれば、地球人を滅ぼすことさえも、いとも容易く出来る能力を持っているとリュークに聞いていた。


「この学校の先生を騙して入学するくらいは、悪戯程度なのね……」



「僕はあの時、姫に心を救われました。その恩義は忘れることはできません。これまでのこと全てを償うことは出来ません。しかし、これからの僕は喪失ではなく、創っていきたい、役に立ちたいと思うのです。そしてそれは、姫をお守りすることから始まります」


 満面の笑みを男は浮かべる。


「でも、この地球では私は姫でも何でもないし、あなたに賞賛されるようなことなんて何もない。偉くともなんともないの。普通の学生、高校生、平凡な一般市民なの」


 だがカオスは半分、朝のように円らな瞳で見つめ返した。


「とにかく、姫という言葉は禁止よ」


 璃緒は咳払いをする。


「では何とお呼びすれば?」


「友達なんだから、璃緒でいい」


「友達……。恩義ある、仮にも一国の姫君をそのようにお呼びしてもいいのですか」


 幾分納得のいかないカオスは不可解な顔をした。


「いいの。呼んでみて、カオス」


 璃緒は笑みを浮かべる。


「り、りお……、璃緒、さん?」


「そう、そう。それでよし」


 彼女は満足気に大きく頷いた。それでもカオスは首を小さく捻って、納得はしていない様子だ。



「いたー!」


 背後から甲高い声が聞こえる。振り向くと、早紀が飛びついてきた。


「もう、何処行ったかと思ったら、二人でこんなところで逢い引きー?」


 早紀は指で璃緒の体を何度も突く。


「ち、違うわよ!」


「僕は、璃緒さんと話していただけです」


 カオスの返事を受けて、目を丸くした早紀が璃緒を羽交い締めする。


「何よ璃緒。名前で呼ばれるほど、いつそんな仲良しに、なったのよ!」


「ちょっと、これには……、深い訳が……」


 早紀の締めが苦しくて、発声出来ない。


「一ノ瀬君。残念だけど、璃緒は関口君が面倒みてるの。あなたの出る幕はなさそうよ」


 さすがに璃緒も早紀のこじつけに怒れてしまい、羽交い締めされている腕を無理に解いた。


「何で、そうなるのよ」


「だって、ほら。あそこ」


 彼女が指さした方向に、関口が覗いている。彼は慌てて物陰に身を隠した。


「あいつ、何で隠れてこっちを窺ってんのよ!」


 璃緒は仁王立ちする


「僕とリューク以外にも、忠誠を誓った者がいますか」


 カオスは腕を組む。


「リューク? 忠誠を誓った者?」


 何度か瞬きした早紀は、キョトンとした顔をして何か考え込んでいた。


「い、一ノ瀬君、もうお昼終わりだから、教室に行きましょう」


 カオスに目配せする。


「わかりました。それでは、戻りましょう」


「ねえ、ちょっと、一ノ瀬君。さっきから気になってるんだけど、何故、璃緒に敬語なの?」


 早紀は眉間に皺を寄せ、首を傾げた。


「それは、私の、ひ……」


 璃緒はカオスの前に立ちはだかり、言葉を遮る。


「全くカオス君はおしゃべりだねぇ」


 ちょうど、午後授業のチャイムの了令が鳴り響いた。


「さあ、お昼が終わるよ。早紀行こう。そして関口も!」


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