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第三夜


いや、何をどう説明したらいいのだろうか。


状況は危機的である。


いや、先日に手当たり次第の知人に送られた写真添付のメール、すなわち俺の高校生の時の知人に言わせるなら俺が『姉をラブホに連れ込んでハメ☆撮りした伝説の勇者』となった原因となる、あのメールが配布された日に俺たちは既に詰んでいたと言っても良いのだが、それよりももっと身近な危機が迫っている。


思えば兆候はあったのかもしれない。


あの日、あの夜、あの場所で、俺たちは写真配布した知人達に必死の口止めを促す説得を行っていた。既に噂は尾ひれを付けて知人から知人にへと伝わり始めていただけに、即時の行動が求められていた。


ちなみにどのような尾ひれがついていたかというと、『俺が姉をアヘ顔ダブルピース状態にしてガッツンガッツン突きながら撮った写真』などという注釈ががががががががががががが…


さて、その後、やはりというべきか両親から即時帰宅するようにとの召還命令が下された。まあ、それは予測済みの事であり、完璧な言い訳などを用意して…いるわけもなく、すごすごと帰宅する事になった。姉の目は死んでいたし、俺は親父の修正パンチを何発貰うのかとか漠然と考えながら実家に向かった。


そして実家へと戻った先、結局のところ俺は血は見なかった。むしろもっと気まずかった。母親は俺たちを見るなり号泣した。父は半ば真っ白に燃え尽きたような状態で酒を浴びるように飲んでいた。あまりにも痛々しい光景がそこにあった。そして父は問う「いつから『そういう』関係だったのか」と。


もちろん俺たちは必死になって釈明を行った。しかして親父殿は俺の肩を強く掴むと、しかし次に力無く崩れ落ちるようにして膝をつき、むせび泣いた。静かな部屋に親父と母親のすすり泣く声だけがいやに響く。いや、もう、なんと表現すればいいのか分からないが、この時俺と姉は悟った。ああ、これは無理だと。


俺と姉は逃げるようにして実家を出た。俺は学生マンションに為す術も無く帰り、姉は実家に帰ることもできず、友人の家を転々とする生活になったらしい。別れる時、互いに二度と酒は飲まないと誓った。まあ、それも遅きに失していたわけだが。


その時はまだ気付いていなかった。破局はもうそこまで近づいて来ていたのだ。


俺の方はまだましだった。大学の知り合いに、あの写真に映った姉貴を俺の実姉と知る人間がいなかったために、大学の友人の間においては俺が『上手くやった』程度にしか認識されていなかった。からかわれることはあっても、近親相姦的なネタでの話しは出なかった。俺の周りにおいてはだが。


破局は姉の方に先に訪れていた。女の情報網がいかなるものかは知らないが、姉貴の周囲においては、俺と姉貴が禁断の関係に陥っていることが半ば暗黙の了解として広まっていたらしい。そして、そんな噂がPTAや教育委員会とか呼ばれる組織を形成している人々の耳に入ることは時間の問題だった。


ああ、だからこういうことになったのだ。あの日から2週間後、破局は俺のすぐ傍までやって来ていたのだ。俺はそんなことも知らず、人の噂もなんとやらという迷信を信じ、何もせず、追いつめられていった姉の身を案じることも無く、怠惰に時を過ごしていた。


その報いを受ける時が来た。ただそれだけだ。






『俺と姉貴の一夜一夜 第三夜 歩数ダメージ』 by 矢柄







嵐の夜だった。激しい雨と雷が鳴り響く、そんな夜だった。


だから俺も客などこないだろうと思い込んでいて、俺はだらりと横になりながらテレビでたいして面白くもないバラエティー番組などを見ていた。だから、不意に鳴ったインターホンにただ不審を覚えた。俺は扉の前、本気の暴力の前にはあまり頼りにならなそうな薄いドアの前に行き誰かと問う。



「弟君、開けてください」



それはとても聞きなれた声で、親愛なる姉貴殿の声だとすぐに分かった。嵐の中、夜という時間帯の訪問に訝しみながらも、俺は迷わず扉を開けた。開けてしまった。ああ、この時少しでも慎重さを持って行動し、覗き穴から彼女の様子を見ていたら、少しは違う展開になったかもしれない。


扉を開けて俺が出迎えたのは、やはり姉貴だった。どこからどこまでも、絶望的に、間違い無く姉貴だった。雷鳴がとどろく。稲光がフラッシュのように閃光を生み、彼女のシルエットを浮かび上がらせた。


彼女は濡れていた。傘を持っていなかったからだ。ただ、黄色い化繊のパーカーを纏っていて、しかしフードを被っておらず髪は濡れていた。左手には懐中電灯が握られていた。そして、あえて今まで言及を避けてきたが、せねばならない。その右手に握られているもの。それは、


『ほうちょう』


だった。それはまちがいなく、どこまでも、調理などにおいて必須の刃物である包丁であった。刃渡りは15センチメートルほど。雨にぬれて滴が垂れ落ち、稲光に照らし出されて異様な存在感を示している。そんなものを、我が姉貴殿は右手に握っていた。


俺は無意識に一歩後ろに退いた。冷たい汗が背中を流れる。姉の顔を改めて見た。彼女は笑顔だった。こんなにずぶ濡れで、そんな恐ろしいものを握っているのに笑顔だった。ただ視線が、視線の焦点が合っていないような、虚ろな、何も見ていないような、そんな目をしていた。


俺はまた一歩、また一歩と後ろに下がっていく。意識してのものではない。本能的な要求だ。生きたいと願う本能が俺にそうさせているのだ。だが、そんな俺に姉貴は可愛らしくちょこんと首をかしげて不思議そうに問う。



「うふふ、弟君? どーして後ろに下がるんです?」


「あ、姉貴…、冗談…だよな、何かの、冗談だよな?」



姉貴は一歩、前に踏み出した。花のような笑みを浮かべながら。また稲光。彼女の漆黒のシルエットを浮かび上がらせる。ああ、駄目だ。こんなやり取りじゃ駄目だ。判断を間違えている。本能が命の危機だと叫んでいるのに、心のどこかにまだ残っている姉に対する幻想が、最善の選択肢を阻害している。



「姉貴…、その、その包丁は?」


「ふふふ、『とぎたて』なんですよ」



答えになってねぇ!


また一歩、姉貴は前に踏み出した。俺はもう恐慌状態に陥っていた。無様に腰を抜かし、「ひいぃ」という情けない悲鳴を上げて、尻もちをついていた。這いながら俺は部屋の奥にまで逃げ延びて行く。だが、そこで行き止まりだ。それ以上は下がれない。そして、また一歩、姉貴は前に踏み出した。



「弟くーん、どーして逃げるのですかー? お姉ちゃんは悲しいでーす」


「姉貴、落ち着け、考え直せ!」


「ふふふふふー、弟君は可愛いですねー。大丈夫ですよ、私と弟君は、一つになるのです」


「それって、どういうこと?」


「私と一緒に死んでくれますよね?」


「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!?」



また一歩、姉貴は前に踏み出した。


また一歩、姉貴は前に踏み出した。


また一歩、姉貴は前に踏み出した。


また一歩、姉貴は前に踏み出した。


また一歩


また一歩


また


また


また


また


ああ、もう距離が無い。



「弟君、愛しています」



>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


☆姉がトンベリになった件について。


Q:トンベリって何ですか?

A:某有名RPGの可愛い嫌死系マスコットキャラクターです。チョコボよりは知名度はありません。

Q:歩数ダメージって何ですか?

A:ダメージ=生まれてから現在まで歩いた歩数÷32。



続きです。

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>



姉貴が照明をバックに俺を見下ろしている。俺は腰が抜けたままだ。姉貴は笑ってる。姉貴は笑ってる。姉貴は笑ってる。そうして、姉貴は最後の一歩を、





踏み……外した、ぶっこけた。


俺の上に倒れこむ姉貴。包丁はその手から離れていた。クルリクルリと宙を舞っていた。あれ? この軌道やばくね? 


クッルリ♪ クッルリ♪ 包丁が舞う。


クッルリ♪ クッルリ♪ 刃が閃く。


クッルリ♪ クッルリ♪ トス♪



「フォォォォオっ!?」



包丁は俺の顔の横、皮まで数ミリという場所に突き刺さった。ビーンとか振動しながら壁に刺さった。死ぬかと思った。包丁が舞う時間が無限大に引き延ばされている感覚を得ていた。半ば走馬燈が流れた。そして、少しおしっこをちびった。心臓に悪いことこの上ない。寿命が4分の1削られた気分だ。


姉貴は俺の腹の上に顔面をうずめて停止する。お互い怪我は無いようだ。奇跡のような一瞬に、普段は祈りもしない神に感謝しつつ。俺は大きく息を吐く。しかし、全ては終わっていなかった。姉貴が再び稼働を始めたのだ。その目線の先にあるのは…『ほうちょう』。


姉の手が伸びる。俺はとっさにその手をはねのけると、一歩早く包丁を手に取った。そして急いで立ち上がり、窓を開けて4階のベランダから下に包丁を投げ捨てた。これで安心。姉貴に武器は無い。そんなふうに思っていた時期が俺にもありました。


後ろを振り向くと、何やら次の行動を起こそうとしている姉貴殿。さて、この部屋には凶器になるようなものなど有るでしょうか? 答えはYES!YES!YES!僕の家にも包丁ありました。奴は狂気をたぎらせた目で俺の部屋の小さなキッチンへと向かおうとする。俺はそれを止めるため必死にタックルを仕掛ける。


そしてしばらくギッタンバッタンのレスリングなどを姉弟で行い(決してプロレスごっこではありません)、男女の力の差と、姉の壊滅的な運動神経にも助けられ、俺は何とかマウントポジションをとることに成功する。俺の手は姉の両腕を押さえつけ、ここで今夜初めて俺と姉貴は互いを正視した。


俺は息を整える。姉も息を荒くしている。しかしまあ、なんというか、命の危機もあったりしたが、かなり久しぶりの兄弟喧嘩である。いや、それなりに年の離れた兄弟だったために、比較的姉には甘やかされて育ったため、こういう本格的な喧嘩というのは初めてかもしれない。まあ、これを喧嘩と表現して良いのかは分からないが。


落ち着いた俺は改めて姉貴を見下ろした。そして問う。なんでこんなことになったのかと。



「姉貴、どうしちまったんだよ。何があった?」



俺が問うと、姉貴はしばらく何も反応を返さなかったが、次第に嗚咽が混じり始め、顔をくしゃくしゃにして、美人の顔を台無しにして泣き始めた。虚ろだった瞳からは涙があふれ出し、その悲嘆を泣き声にして外に吐き出し始めた。



「ひっく。言われたんです。教頭先生にしばらく休みなさいって言われたんです。絶対あの写真のせいです。もうお終いです。ふぇ、ふぇ、ふぇぇぇぇぇん!」


「あの写真…って、まさか、あの写真か!? 送った人たちには口止めしたはずだろ!?」


「分かりません! 分かんないです! わかんないんです! でも、どこかから漏れて、生徒達の間にも広がってるって…。私、先生になりたくて先生になったのに! これじゃあもう続けられません!」



俺は唖然となってその話を聞いた。その言葉を理解した。理解したくなくても理解せざるを得なかった。


姉貴が先生になりたいって夢を持っていたのは昔から知っていた。知っていたし、応援していた。今時、先生なんて目指す奴は少ないけれど、彼女はやさしいお姉さんみたいな先生になりたいとか、柄でも無い事を言って夢に向かって邁進していて、そして叶えた。


俺は姉貴が真摯に教職に就きたいいと願っていたのを知っていたから、彼女が教員の免許をとって、実際に小学校の教師になれたことを聞いた時、家族全員でそれを祝福した。それはとても喜ばしいことだったし、俺も自分の事のように喜んだ記憶がある。


それが、あんなことで、あんなしょうもない事故みたいな事でふいになろうとしている。壊れようとしている。彼女の夢が閉ざされようとしている。それはどんなに辛い、痛い事だろうか?



「みんな、みんな、私が弟君とそういう関係になってるって思ってます。友達だって、言葉にしないけれど分かります。みんな、きっと思ってるんです。どうしよう、どうしよう!? 教えてください! 私どうしたら!?」



俺は思わず姉貴を抱きしめた。ずぶ濡れの彼女を強く抱きしめた。彼女の体は冷え切っていて、彼女の心も冷え切っていた。頭の悪い俺には姉貴にどんな言葉をかければいいか分からなくて、だから今にも壊れそうな彼女を抱きしめることしかできなかった。



「ゴメン、姉貴」


「お、弟君?」



戸惑う声が返ってきた。それでも俺は彼女を強く抱きしめた。



「俺もどうしたらいいか分からない。だからゴメン。俺が気をつけてたらこんなことにならなかったのに。ごめん、ごめん、ごめん」


「お、弟君…、痛いです」


「どうにかするから。俺が絶対になんとかするから! どうすればいいか分からないけど、何か方法があると思うから。だからあんな方法はとらなくていいから」



慰めるための言葉が分からなくて、勢いでそんな言葉を吐いていた。姉貴の体は思った以上に細くて、強く抱きしめたら軋んでしまいそうだった。それでも俺は抱きしめて、そして泣いていた。悔しかったんだ。こんなところまで追いつめられてしまった姉貴に、今の今まで何もできなかった事が。だから、今度は俺が嗚咽を吐いていた。


すると、強張っていた姉貴の体から力が抜けて、彼女の両手が俺の背中にまわされた。



「…弟君はバカですね。貴方が責任をとる必要なんてないのに」


「いや、一緒に死んでくれって言ったのは誰だよ?」


「それはそれ、これはこれです。でも、ありがとうございました。少し、気分が楽になりました」


「そうか」


「これで兄弟じゃなければロマンティックなシーンだったのですが」


「悪かったな弟で」


「いえ、弟君で良かったです」


「そうかよ。…ずぶ濡れだろ? シャワー浴びろよ」


「そうですね。お借りします。…覗いちゃ駄目ですよ」


「姉貴の風呂なんて覗かねぇよ」


「みんな、私達が恋人同士だって思っています」


「連中の目が節穴なんだよ」


「ですよね」


「決まってら」



俺たちはそんな軽い冗談を交えた言葉を交わして、そして姉貴はシャワーを浴びに行った。そうして俺は思い悩む。いや、覗くか覗かないかで迷ってるのではなく、これからどうやってこの誤解を解いて回るかを考えているのだ。あいにく権謀術数には縁も無く、これといった策も思いつかない。


おれは左手で頭をくしゃくしゃと掻きむしると、大の字になって床に寝ころんだ。まあ結局、出たとこ勝負と行きますか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

☆姉√が解放されました ☆

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ん? なんか今、変なテロップというか、フラグが立ったような?





そうして次の日の朝が来た。聞きなれない、というよりは懐かしいような、そんな音に誘われて眠りから覚めたのだろうか。トントントンというリズミカルな音。俺はベッドには寝ていなくて、急きょ用意した毛布にくるまっていた。眠気まなこを擦って起き上がると、そこには姉がいた。


姉貴は小さなキッチンで料理をしていた。たいした機能を持たないキッチンだから使いにくいだろうとかそんなどうでもいい事が脳裡に浮かび、次の瞬間、どうして姉貴がここにいるのかを思い出す。そう、昨日はそのまま姉貴が俺のベッドを占拠して、俺が床で寝る事になったのだ。


寝慣れない床での睡眠で身体が固まっており、解きほぐす様に伸びをしたところで姉貴が俺が起きた事に気がついた。味噌汁を作っていたらしく、小皿で味見しながら彼女はこちらに身体を向けた。



「おはようございます。弟君」


「おふぁよう」


「大丈夫ですか? 私がベッドを使っちゃいましたけど」


「へーきへーき。それより姉貴は眠れたのか?」


「大丈夫です」


「そっか」



それなら安心だ。



「ベッド、弟君の匂いがしました。弟君に包まれているみたいな…」


「ぶっ!?」



顔を赤らめたように姉貴がそんなことをのたまうので、俺は思わず吹き出してしまう。



「ふふふ、何あせってるんですか? 冗談ですよ」


「お前な…」



朝一番からの姉の冗談に俺はため息をつく。



「っていうか、朝起きたら女の子が俺のために朝飯作ってくれてましたなんてシチュエーション、普通、恋人同士でやるもんだろ。なんで兄弟でやらにゃいかん」


「ああ、諦めてください。っていうか、弟君、そんなヒトいるんです?」


「いねぇよ。いたら合コンなんて行ってねぇ」


「じゃあ、今日はお姉ちゃんで我慢してください」


「へいへい」


「む、感謝の意が足りない気がします」


「わーったよ。ありがとうございます」



昨日の夜とは打って変わっての平和な朝だった。そうしている間に朝食が出来たようで、俺たちは向かい合わせになって朝飯をとることにする。メニューはシンプルでご飯と卵焼きと味噌汁。ちなみに、俺の家のキッチンに魚を焼く機能は無いし、匂いとかがアレなので不可能である。そも、俺に魚を焼くというスキルが無いのだが。



「弟君」


「ん?」



姉貴が箸を止めて俺を正視する。きっとそれは真面目な話で、大切な話だろうから、俺も箸を止める。



「私、もう一度、皆さんにちゃんとお話しに行きます。色々とありましたが、全て誤解なんですから、ちゃんとお話すれば、分かってくれると思うんです」


「うん」


「お父さんとお母さんにももう一度、ちゃんとお話しに行きます。私決めました。もう、諦めません」


「んで、俺は何すればいい?」


「え?」



俺の問いに、姉はきょとんと眼を丸くして首をかしげた。そんなおかしなことを言っただろうか?



「え?じゃなくてだな、昨日言っただろ、俺が何とかするからって」


「いや、でもこれは私の問題ですし…」


「違う。俺達の問題だ」


「え?」


「え?じゃねぇ。責任の半分はそもそも俺にもあるし、姉貴だけが責任負うとか、俺が納得出来ねぇ。姉貴がもう一度誤解を解いて回るって言うなら俺も行く。俺も行って、土下座でも何でもして説得してやる」


「いや、でも…ですね…」


「それにさ、今更、一人にはさせられないしな」


「?」


「一蓮托生ってことで。どうせ昨日まで一緒に死ぬかもしれない仲だったんだ。最後まで付き合うよ」


「え、う、うぐ…、ふぇ…、なんで…、弟君…」


「泣くなよ」


「う、うぐ、弟君が泣かせるからです」


「女泣かせるなんて、俺も大したもんだな」


「勝手に言ってろです。ご飯冷めちゃいますから、さっさと食べてください」



まあ、そんな感じで話しは進んで、俺たちは色々なところ。両親から姉貴の友達、学校の校長先生をはじめとした関係者の人たち、色々な所に押し掛けてやった。土下座じみたこともしたし、いろいろ無茶な論法で丸めこもうとしたり、いろいろやって、まあ、本当にいろいろあって、問題は一定の解決をみた。


まあ、そのあたりの経緯は何日もかかったし、長くなるので割愛するが、まあ、それでも俺達が望む結果には漕ぎ付ける事が出来た。姉貴の事実上の停職は解かれ、また再び先生として教壇に立つ事ができるようになったらしい。友人にはまだこの事でからかわれているらしいが、本人は先生を辞めずに済んだのでそれで良しとしている。


両親の説得もなんとか成功した。というか丸めこんだ。おかげで絶縁とか一家離散はせずに済みそうだ。例のメールもほぼ全て消去に成功し、これ以上の噂の拡散もなさそうである。


そして俺は-



「ただいま」


「お帰りなさい。弟君」


「なあ姉貴、何で実家帰らないの?」


「いえ、なんとなく居着いちゃったというか…」


「帰れよ」


「ん~、もう少し考えさせてください」


「じゃなくて帰れよ!」


「今日はハンバーグですよ」


「え、マジ?」


「お姉ちゃん特製です」


「やったー…、じゃなくてだな」



まあ、そんな感じで平和に暮らしている。例の誤解を解いて回る巡礼が数日にわたったことから、その期間、俺たちは同居状態にあったわけだが、それが済んでなお姉貴は俺の部屋から出て行こうとしない。というか、この姉貴を排除しないと恋人が作れない。


何度か追い出し工作を行ったのだが、一向に出て行く気配は無く、なんとなくなあなあで今日まで来てしまっている。でもまあ、こういうのもアリかなと半分受け入れてしまっている俺がいたりもする。


ちなみに、例の写真とかのことでからかってくる知人達は未だに少なくない。まあ、自業自得的なこともあるし、連中も多分本気にはしていないだろうからこう答える事にしている。



「うっせぇ、シスコンで悪かったな!」



ってな。





☆GOOD END No.07『お姉ちゃんと同棲エンド』



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