6話
職員室の窓を叩く雨音を聞きながら、クリスは教頭のデスクの前に立っていました。
ドロレス教頭は、山積みになった書類の隙間から眼鏡を光らせ、新任教師である彼に向き合います。
「アイナさんは行動的で、人の言うことをすぐに信じてしまうのですが、決して悪い生徒ではありません。心根が子供のように純粋なのです」
「なるほど、つまりは良い子ということですね!」
「……彼女は普通の生徒とは少し違っていて、なんと、イブラヒム様の御子なのですよ」
クリスは自分のこめかみを指でとんとんと叩きながら、顔をゆがめます。
「イブラヒム……というのは、どこかで聞いたことがあるような、ないような名前ですが……もしかして! 西の公園に住んでいる、南瓜が大好物でブリーフを頭に被っている、あの男のことですか?」
「全然違います!! 貴方は自分の国の国王の名も知らないのですか!?」
ドロレス教頭の鋭いツッコミが職員室に響き渡ります。クリスは「ああ、そうかそうか」と、すべてを理解したような顔で深く頷きました。
「信じられませんよ、まったく……」
ドロレス教頭は心底がっかりした表情で、深いため息をつきます。
「そういえば、アイナは私が誰かをクビにしたとか言っていましたよ。あれは何のことですか?」
「そうですね、そのことを説明しましょう……」
ドロレス教頭は一度眼鏡を指で押し上げてから、語り始めました。
「ケント先生という、貴方の前任の武術担当教師がいました。アイナさんのクラスの担任でもあります。Bランク剣士という称号を持ちながら、物腰柔らかく、教え方も上手で優しくて、おまけに顔も良い。生徒たちには非常に人気のある先生でした。ところが、ある日突然、彼は『一身上の都合』という理由のみで辞表を提出してきたのです」
クリスは眉をひそめます。
「私たちもひどく驚き、一体何があったのかと問いかけましたが、彼は具体的なことは何も教えてくれませんでした。他の先生方に聞いても、仕事上で目立ったトラブルはなさそうでしたので、私たちにも彼が退職を決意した真相は分かりません」
「ふむふむふむ……」
クリスは何度も頷きます。
「生徒たちの間では、今も彼を巡って色々な噂が駆け巡っているようです。アイナさんは剣術に非常に興味を持っている生徒で、授業が終わってからも残り、彼に熱心に指導を受けていたようです。それで、貴方がこの学校に来ることになったせいでケント先生がクビになった……という噂を聞きつけ、居ても立ってもいられなくなり、貴方に抗議したのでしょう」
一通りの説明を終え、ドロレス教頭が「分かっていただけましたか?」と視線を向けます。クリスは深く頷き、誠実な口調で言いました。
「すみません、ドロレス教頭。途中まではちゃんと聞いていたのですが、途中で頭が熱くなってしまって、話がまったく入ってきませんでした。というわけで、もう一度、最初から聞かせてもらっても良いでしょうか?」
ドロレス教頭は大きなため息をついた後、はっきりとした声で言いました。
「嫌です!」
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