4話
「ちょっと待て!」
「何よ!」
「卑怯者呼ばわりされるのは許せない。私は正義が好きで、悪が嫌いだ。卑怯者というのは、悪じゃないか!」
クリスの声に力がこもります。しかし、アイナも一歩も引きません。
「そうよ、貴方は悪者よ!」
「取り消せ! いくら生徒でも、言っていいことと悪いことがあるぞ」
「取り消すのは、貴方が卑怯者じゃないと分かった時よ。噂の通りに貴方が卑怯者だった時には取り消さないわ。だって、卑怯者に卑怯者と言うのは正しいんだから!」
クリスは考え込み、そして真面目な顔で頷きます。
「……たしかに君の言うことは筋が通っている……気がする」
「そうでしょ? 貴方、案外話が分かるわね。ポメラニアンなんて、私の話は意味がよく分からないっていつも言っているのに」
「ポメラニアン? 誰だそれは」
「私の友達の名前よ」
「いいか? 頼むから、もうこれ以上新しい名前を増やさないでくれ。今でさえ一杯一杯なんだ」
「分かった、それは約束するわ。貴方、思っていたよりも良い人そうだから」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「君も思ったよりも良い生徒だな」
「そうでしょ?」
「ああ、そうだ」
雨に打たれながら、二人の間に奇妙な連帯感が生まれ始めています。
「それじゃあ、こういうのはどうだろう?」
「何よ」
「今から、私の父上の所に一緒に行こう」
「なんでそんなことしないといけないのよ。私はケント先生に戻ってきて欲しいだけなのよ」
「私の父上は途轍もなく頭がきれるから、困った時にはいつも相談しているんだ。正直に言って、私の頭はもうパンク寸前で何も考えられない。もし君が本当に問題を解決したいと思っているのなら、父上に相談するのが一番だ。私はもうこれ以上、難しいことは考えられない」
「……それは何となく分かるわ。実は私も、あまり難しい話は得意じゃないの」
アイナもまた、正直に白状します。
「だから、私の父上の所に行って話を分かりやすく整理してもらおう。実は、私にこの学院の先生になるように勧めてきたのは父上なんだ。きっと事情を知っているに違いない」
「そうなの?」
「もし君の言う通り、私が何か卑怯なことをしたのだとしたら、その時は私は先生を辞める」
「え、いいの?」
「私は正義が好きで、悪は嫌いだ。悪になるくらいだったら、先生は諦める」
「貴方、やっぱりいい人じゃない! 実は私も正義は好きで、悪は嫌いなの」
「というわけで、今から父上の家に行こう」
「分かったわ!」
二人が力強く頷き合った、その時でした。
パチン、と乾いた手の音が響きます。
「はい! そのアイディアは中止です。クリス先生は職員室に、アイナさんは教室に戻ってもらいます」
そこには傘を差し、眼鏡の奥で鋭い光を放つ中年の女性が立っていました。
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