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3話

 


「……アイナか。それで、私に何か用があるのか?」


「もちろんよ! そのためにわざわざ、いつもより三十分も早起きして待っていたのだから!」


「なるほど、それは大変だっただろうな」


 クリスが至極真面目に感心すると、アイナはさらに語気を強めます。


「そのために昨日はいつもより一時間ほど早く寝たわ。もっとも、いつもと違う時間にベッドに入ったから体が慣れていなくて、なかなか寝付けなかったけどね!」


「……それで、私に何の用だ」


「さっき言った通り、ケント先生のことよ!」


「ケント先生? 誰だそれは」


「貴方がケント先生の席を奪ったのよ!」


「だから、ケント先生って誰なんだ」


 クリスは困惑した表情を浮かべました。アイナは苛立たしげに地団駄を踏みます。


「貴方が来る前に、剣術担当をしていた先生よ!」


「それが私に何の関係があるんだ? 私はあまり難しい話は得意じゃないから、分かりやすく教えてくれ」


「貴方がケント先生の席を奪ったのよ!」


「分からない! なんだかさっきと同じことを言っていないか?」


 クリスが頭を掻きむしります。


「噂で聞いたのよ」


「何の噂だ?」


「貴方がこの学院で働くために、ケント先生はクビになったんだって!」


「……意味が分からない。どうして私が働くとクビになるんだ?」


「私だって詳しい話は分からないわ! でも聞いたのよ。貴方をこの学院で働かせたい偉い人がいて、それで……えーと、それでケント先生がクビになったんだって!」


「分からない、さっぱり分からない」


 首を振るクリスに、アイナもなかば自棄気味に叫びます。


「私だってよく分かってないわよ! けど、そういう噂を聞いたの。ヨーデルがそう言っていたわ!」


「また知らない名前が出てきたな。もうそろそろ、私の頭では覚えきれなくなってきたぞ。そのヨーデルというのは誰だ」


「ヨーデルは私と同じクラスの男子生徒なんだけど、学年……いえ、学校で一番の嘘つきなの!」


 クリスは、雨に濡れた顔にさらなる困惑を刻みました。


「……じゃあ、それも嘘なんじゃないのか?」


「えっ? ……そ、そんな馬鹿な。でも、実際にケント先生はいなくなったのよ! ということは本当ってことじゃない! あれだけ熱心に私に剣術を教えてくれた、優しくて頼りがいがあって格好いい先生なのに!」


「何で嘘つきの先生が格好いいんだ?」


「嘘つきなのはヨーデルよ!」


「えーと、君の名前はアイナで……」


「貴方の前の剣術担当の先生で、私のクラスの担任だったケント先生よ! 茶髪で眼鏡を掛けていて、がっちりした体格で、いつも良い匂いのする先生よ! さっき言ったでしょ、いい加減に覚えなさいよ!」


 アイナの剣幕に、クリスは両手を上げて制します。


「待ってくれ、私はあまり一度にたくさんのことを覚えられないんだ」


「とにかく! 貴方のせいでケント先生はクビになったのよ!」


「そんな話は聞いてないぞ、私は」


「嘘よ! ヨーデルと同じで、貴方も嘘をついているわ!」


「ヨーデル? ……ええと、誰だったかな、それ。さっき聞いたような、聞いていないような……」


「権力を使ってケント先生をクビにするなんて、貴方は卑怯者よ!」


 アイナは雨の中、傘も持たずに腕組みをしたまま叫びます。





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