24話 ~Last~
昨夜の騒乱が嘘のように、王都の空は抜けるような青空に包まれていました。
今日はケントとその妻の旅立ちの日です。
王都の門の前で荷馬車から降りたケントは、晴れやかな顔で一行と向き合いました。
「皆様、本当にありがとうございました。おかげで家族ともども無事に旅立つことが出来ます」
隣に立つ妻のユキナと共に、深々と頭を下げました。
「ケント先生、最後は明るくお別れしようよ。私、締めっぽいのは苦手なんだ」
アイナはいつものように明るい調子で言いました。
「アイナ君、本当にありがとう。そして申し訳ない。本当ならば君が卒業するまで剣術の指導をしてあげたかったんだが、途中で投げ出すような真似をして」
「何言ってんだよ先生! 私は先生からたくさん教わったよ。剣術はもちろんだけど、授業で分からないことがあった時も、ものすごく親身になって教えてくれた。謝らないといけないとしたら、それは私だよ。私は勉強が苦手だから、いつもたくさん時間をかけさせちゃって」
「君はとても良い生徒だったよ」
ケントの表情は穏やかで、そして誇らしげでした。
「ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
しばらくの沈黙ののち、ケントの妻ユキナが、優しく自分のお腹を撫でながらアイナに微笑みかけました。
「この子が生まれたら、アイナさんのような真っ直ぐな子に育ってほしいと願っています」
アイナはその言葉に少し照れながらも、力強く頷きました。
「ケント先生、元気で! そしてお幸せに! ユキナさんのことも、お腹の赤ちゃんのことも、絶対幸せにするんだよ! みんなで絶対に幸せになるんだよ?」
「約束するよ」
「ありがとうございます、アイナさん」
ふたりが乗り込んだ馬車が、ゆっくりと動き出しました。
手綱を握るケントは何度も振り返りながら、手を振り続けました。
王立学院の教師という肩書きは失いましたが、その背中には、これから始まる穏やかな生活への確かな希望と、家族を守る男の決意が宿っていました。
「お幸せに! お幸せにーーー!」
アイナとクリス、ブライトとジュリアは、その馬車が小さくなって見えなくなるまで、朝の光の中でいつまでも見送っていました。
「アイナ、どうしたんだ?」
ふと見ると、アイナの大きな瞳から、一粒、また一粒と涙がこぼれ落ちていました。
クリスが不思議そうに尋ねましたが、アイナは慌てて乱暴に顔を拭い、
「なんでもないっ!」
と短く叫ぶように返しただけで、それ以上は何も答えませんでした。
「……恋か」
ブライトは傍らに寄り添うジュリアの手をそっと握り、ごく小さな声でそう呟きました。
アイナの涙が、恩師との別れを惜しむものなのか、あるいは初恋の終わりを告げるものなのか。
それを問い詰める者はいませんでしたが、彼女の表情は、以前よりも少しだけ大人びて見えました。
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