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2章 50話 鍛冶ギルドの悩み2


北の領都では近くに出来たダンジョンで取れた魔石と鉱石を特産品にすべく動いている。

魔術師ギルドは長年仲の悪かった冒険者ギルドとの関係を見直し、良好なものとなったおかげで魔石の特産化の方は成功していた。

しかし鍛冶ギルドは未だ何の成果も出せていない。以前冒険者ギルドと仲違いしてから――とは言っても、元は仲が良かったわけでもないが、ほぼ絶縁状態と言っても過言ではない。

同様に仲が悪かったはずの魔術師ギルドが成果を出して、鍛冶ギルドだけが成果を出してない状態は非常にまずいのである。領都の役職者のみで行われる定例会にて領主本人から直接成果を確認され、何も言うことのできなかった鍛冶ギルドは数時間気まずい気持ちで過ごすこととなった。

しかも、その会の時の魔術師ギルドが嬉しそう報告するのが余計に悔しい。役職者の定例会が夜遅くに終わり、暗い気持ちで鍛冶ギルドへの道を歩く鍛冶ギルドの支部長の元に、ある人物が訪れた。


「これはこれは鍛冶ギルドの支部長殿。

 そんなに足元ばかり見ていると、前が見えなくて

 困ることになりますよ。

 それとも、下を向いて歩かなければならないほど

 嫌な事があったんでしょうかね」


支部長は決してずっと下を向いていたわけではない。途中途中前を向いていたし、その時に見た限りでは前方には誰もいなかった。しかし、今前方より声が聞こえて来ている。決して自分に好意のある声ではない、そう思ってわざわざこんなタイミングで話しかけて来る者の心当たりを考えた。

誰だ……何者だ……思い当たる節はありすぎる。そう思って少しずつ顔を上げて前を向く。

見えたのは全身黒い服の男。黒いシャツに黒いズボン。そして、黒いローブ。


(噂のダークストーカーか!)


すぐに思い当たったのは先日有名になったダークストーカーと言う変質者だ。

夜中に女性を追いかける打の襲うだの、ひどい噂だった。殺されるなんて噂もあったと記憶している。

だが、それは女性に限ると言うのが噂であったからまさか自分の元にやってくるとは思いもしなかった。

そんな中、噂の1つに彼の魔術師ギルド長、セルマノルディーンがダークストーカーに負けたと言う話もあった。

真実はわからなかったが、セルマ・ノルディーンが一度としてその噂を否定しなかったことだけが気になっていた。

つまり、セルマ・ノルディーンを凌ぐかもしれない強さの者に今相対している。その事実は支部長に緊張を強いた。


「ふむ。何も口に出さないか。悲鳴を上げたり、

 助けを呼ぶかと思ったのだが……」


ダークストーカーの口にした言葉で、我に返った。そうだ、ここは街中だ。夜中と言えども助けを呼べば……そう思った時にはすでに遅かった。

いつの間にか体は拘束され、口には縄のような物が巻かれている。声を出すことさえできない。


「さて、こんな状況だが交渉といこうか」


支部長の足はいつの間にか地面から離れていて、完全に身動き一つできなくなっていた。

そこにダークストーカーが近づいて来る。彼は取引と言った。その言葉を信用するなら、彼は支部長を殺そうと近づいてくるわけではない。何かを依頼、もしくはさせようとしているのだ。

仮にも元アンダーグランドエンパイアの鍛冶に連なる者。ドワーフとして、このような脅しには屈しない。支部長はそう思っていた。


「知っているぞ。

 ダンジョン産の鉱石に対し、どのようにして成果を出すか。

 さぞ困っていることだろう」


顔が支部長の耳元に近づき、囁かれる。その一言目が、想定していた内容とは全く異なる内容で驚いてしまった。

何より誰にも話していないそのことをなぜ知っている、と。


「ああ、考えながら聞いてくれればいい。

 魔術師ギルドのように冒険者ギルドと協力してダンジョンを

 攻略すれば成果は出せる。それはわかっている。

 だが、魔術師ギルドに先をこされてしまったことを二番煎じの

 ようにやっては、鍛冶ギルドのプライドが許さない。

 だから、別の方法でなんとかしたい。

 違うか?」


支部長がなんとか脱出しようともがいていたのを止めた。彼の首を汗が一筋流れた。

何を知っている。どこまで知っている。誰が漏らした。いろんな考えが支部長の頭に浮かぶが、答えが出ない。

それもそのはず、この情報は全て万能メイドが仕入れているものであり、あのメイドが情報を掴む時に尻尾を出すはずがない。


「こちらで、用意してやろう。

 お前たちが冒険者ギルドに協力したくなるような報酬を。

 この世界にはまだない技術だ。報酬欲しさに、お前たちは

 俺の依頼をこなさずにはいられなくなる。

 ……色のついた金を見てみたくないか」


(色のついた金?!)


その言葉に衝撃を受けた。

ドワーフの鍛冶の技術はとても素晴らしいものがある。しかし、彫金や細工等の技術においては今一歩エルフに劣っている。ドワーフたちの作る物は頑丈で武骨。エルフ達の作る物は繊細で芸術的。これがこの世界の評価だったからだ。

ドワーフたちも細工技術が高いのは間違いないのだが、造形物に関してはエルフの方が勝っていた。

しかし、ドワーフたちはそれを良しとしておらず、追い抜くつもりで日々研鑽をしているのだが、それは適っておらず何か別の方法でなんとかしたいと思う者も多かった。

もし金に色をつける技術が手に入れば、その技術をドワーフで独占できれば、エルフに勝るとも劣らないものが作れるようになる……。

あまりの出来事にに緊張し、唾をのみ込んだ。その音はしんと静まり返った夜には誰の耳にも聞き取れるほどはっきりとしていた。


「どうやら興味があるようだな。

 それを教えてやろうと言うのだ。

 お前の支部長としての価値も1つ高いものになるだろう。

 決して悪い話ではないぞ」


もしこの話が本当であれば、打算的に動いたとしても数えしれないほどの利益が見込める。

まず話だけでも聞く。そのつもりで顔を上下に振って頷いてるアピールをした。

ダークストーカーをはそれにニヤリと笑って、口の部分の縄を緩めてくれた。

ずっと縄だと思っていたが、縄ではない。勝手に動いている。魔物? いや、魔術? このようなものを知らない。


「教えてくれ、対価はなんだ?

 金か。地位か。わしができることなら何でもするぞ」


「なら、明日の同じ時間。お前の私室に行く。

 鍛冶ギルドの入口とお前の部屋のドアは開けておけ。

 そこに二人で行く。

 ああ、無駄なことは考えるなよ。

 セルマ・ノルディーンの噂は嘘じゃない」


ダークストーカー本人からその話を聞かされ、背筋がゾクっとしたのがわかった。

セルマ・ノルディーンはやはり実際にダークストーカーに襲われていた。そして、今無事であると言うことはダークストーカーに敢えて逃がされたのだ。


「わ、わかった……このことは誰にも言わないし、誰も呼ばない」


「良い心がけだ。

 ああ、もし誰かに言おうものなら、こうなるからな」


ダークストーカーが横を向いた。支部長も釣られてそちらの方を向くと……ダークストーカーと同じ衣装の女性がいた。手にはナイフを持っており、そのナイフは支部長に向けられていた。


「死にたくはないだろ?

 手段はともかく、こっちは誠実に接してるんだ。

 そっちに一切損のない話でね」


真に恐れなければならないのは、ダークストーカーよりこの女性。支部長はそう思った。戦闘経験がないわけではない。むしろ、ドワーフは戦闘経験は必須だ。そんじょそこらの冒険者よりもはるかに強い。しかし、ダークストーカーには手も足も出なかった。そのダークストーカーから感じるものよりこの女性から感じるもののほうが恐ろしい。


口はもう塞がれていないのに、小刻みに頭を振って了承の合図をだした。

ダークストーカーは満足そうに、


「では、明日だ」

 

それだけ言うと、夜に溶け込んだかのようにふっと消えた。

さきほどの女性もすでにいない。

幻を見たと言ったほうが信じてくれる人が多そうな話だ。

支部長は急いで戻り、明日の準備を進めることにした。誰にも言えない、自分一人で行う必要がある。寝ている暇などないと思えた。




「サトル様、今日もとても素敵でした。

 特に、下を向いていたところにわざと声をかけ、

 前方に注意をそらしておいて下からシャドウウィップで

 縛り付けるところなんて、惚れ惚れしました。

 さらに……」


今回の件、鍛冶ギルドの支部長の説得と言う具体的な計画を立てたのはシスだ。

俺はシスの言う通り行っただけ。だが、その細かい内容は何も示されていなかったので、ほぼアドリブだ。

そのアドリブの内容をひたすらシスに褒められ続けた。しかも、ずっと真顔なんだ。こちらが恥ずかしくて仕方ない。


もし本小説を気に入って頂けましたら、ブクマ,評価,感想,レビューをよろしくお願いいたします。

また、同時連載中の「闇の女神教の立て直し」の方もよろしくお願いいたします。

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