2章 51話 鍛冶ギルドの悩み3
2章、ながながながと続きましたが、ようやく後少しで終わります。
お付き合いよろしくお願いします。
当然3章から少し話がかわります。
人が誰も町を歩かない時間。俺とシスは鍛冶ギルドに向かっていた。
セルマを訪ねた時と同じ、黒いローブを二人で着ている。背中には、シスお手製の影を模した刺繍がしてある。
今ではこれがダークストーカーの正式衣装だ。
俺はローブの下に更に黒いシャツに黒いズボンを来て、シャドウアーマで体を覆っているので、本当の本当に全身黒づくめだった。
夜も遅いせいか鍛冶ギルドの門前には誰もいない。誰に気兼ねすることなく堂々と敷地内に入り、シスが事前に調べた通り裏口に行ってドアノブをゆっくり回転させる。鍛冶ギルドの支部長は言いつけ通り鍵は閉めなかったようだ。
ドアを開けて中に入るとすぐ階段になっていた。階段をいくつか上り、最上階行くとようやくそこに支部長の部屋があった。
「サトル様、ここが支部長の部屋です」
支部長の部屋のドアはとても豪華とは程遠い、頑丈で重そうな鉄扉だ。
鍛冶ギルドとなると、こういう趣を好むのだろうか。
俺は敢えてシャドウウィップで扉を開けた。あまりに頑丈で重そうな扉だったから、いざ開けようとして開けられない、となったら恥ずかしいと思えたからだ。
しかし、シャドウウィップで開けたことで扉が勝手に開いたような、そんな怪しげな雰囲気が出たのでよしとすることにする。
「だ……ダークストーカー様につきましては、ご機嫌麗しく!」
開いた扉の先にはなぜか土下座している支部長と、その横に同じく土下座している一人のドワーフがいた。
支部長だけと話をするつもりだったため、第三者がいることに違和感を感じた。開いた扉をそのままにして立ち止まっていると、
「申し訳ありません。
こやつは、わしの一番弟子。今回の話にどうしても加えたく思い、
こうして連れてきた次第でございます。
すでに言い聞かせているため、絶対にあなた様に損をさせるような
ことはさせません。
どうか、どうかお願いいたします」
ゴンッと、床に頭をぶつける音が響いた。こいつ、あまりに勢いよく頭を下げたせいで床にかなりの強さで頭をぶつけやがった……。
それくらい謝罪したいと言う気持ちがあるのはわかるが、ちょっとその行為は引くぞ……。
もう一人のドワーフを見ると、さっきから床に頭をつけたまま動かないが、チラと見える顔は紫のあざができていたり、腫れているなどしている。
"言い聞かせた"とはそう言うこと。人間に教えを乞うと言うことに納得がいかなかったのではあるまいか。だから、言い聞かせた。そうだろうと思い込むことにし、とりあえず部屋に入ることにした。
「わかった。とりあえず席に着け」
「はっ」
土下座の姿勢から飛び上がるように立ち上がり、素早く向かいの席に座る支部長。隣のドワーフは、支部長と同じようにはいかず、ぎこちない動きで隣に座った。
俺とシスも支部長の向かいのソファーに座る。
「何も用意が出来ておらず、申し訳ありません」
「ああ、構わない。
で、本題に入るぞ。
お前たちへの要望は単純。
冒険者ギルドに協力することだ」
貴族同士のやり取りのように、世間話から入るような回りくどいことはしない。単刀直入。本題を直接ぶつけた。
支部長はすでにわかっていたのか、全く動揺もせずにじっとこちらを見ている。
隣のドワーフは、一瞬だけ腰を浮かすが何かを言うわけでもなくすぐに座りなおしていた。どうやら支部長ほど物分かりが良いわけではないらしい。
別に文句を言ってきたわけでもないので、それくらいの行動を別に俺は咎めようとも思わないのだが、残念ながらそれを許さないのが隣にいる狂犬。無礼な態度に激怒した。
「ダークストーカー様、こちらのドワーフを殺していいですか」
顔は冷静さを失ってない様だったが、よく見れば右の眉の端がぴくぴくしている。殺気が駄々洩れで、あまりの恐ろしさに支部長が腕を震わせていた。隣のドワーフは全身を震わせている。
「申し訳ありませぬ! 何度も言い聞かせたのですが!
お前、なんと言うことを!」
隣のドワーフを殴ろうと、支部長が拳を振り上げたので俺は止める。
「良い。お前もやめろ。まずは話が先だ」
シスのことも止め、支部長を座らせて話を続ける。
「隣のドワーフが思っていることもわからないではない。
急に人間に協力しろと言っても、はいそうですかとは
いかないだろう。
だから、俺の要望に応えてくれた場合は報酬を出す。
支部長にはすでに伝えてあるが、色付きの金を精錬する方法だ」
支部長と隣のドワーフが揃って唾を飲み込む。彼らが喉から出るほど欲しい知識だ。
あまりに思った通りに話が進むので、俺は少しだけ笑ってしまった。
「ハハッ、先に教えてやってもいいぞ。
だがその場合、もし俺たちを裏切った時は……」
俺は飴を目の前でチラつかせながら脅しをかける。
支部長たちの後ろからシャドウウィップを伸ばす。音も立てずに支部長と隣のドワーフの首に巻き付き、100キロを優に超える二人のドワーフを持ち上げた。
二人は首で全体重を支えられることになり、苦しさにシャドウウィップを掴んでもがいていた。5秒と経たずに俺は二人を下ろし、なるべくドスの聞いた声でもし裏切ろうとするならこの程度では済まないぞ。と言ってやった。
首が解放され、咳込んでいた二人だったが俺の声は聞こえていたことだろう。
「がふっ……決して裏切るような真似は……」
支部長が椅子から降りて床に手をついて、俺に忠誠を誓うようなポーズをした。
それを見て俺は満足し、この先の話をすることにする。
「では詳細を詰めよう」
俺はシャドウアーマを解いて、目深にかぶったローブを脱いだ。
露わになった俺の顔を見て二人が声に出さずに驚いていた。
「なんだ。俺の顔に何かついているか?」
「い……いえ、滅相もない!
あまりにお若いので驚いてしまいまして……」
そう言えば、俺はこの世界では16歳の姿だった。セルマ・ノルディーンは100歳を超えてようやく魔術の高みに辿り着いたことを考えれば、16歳の人間男子がセルマ・ノルディーンに勝ったことが相当驚きのようだ。
確かにそうなのかもしれない。だが俺はそうは思わない。なぜなら、現在世界最強の存在が隣に座っているからだ。こいつからしてみれば、俺など赤子の手をひねるような物だろう。
「では……」
俺の要望を改めて細かく伝える。冒険者ギルドに協力する、具体的には冒険者ギルドに所属する冒険者達とパーティを組み、鉱脈から鉱石を取ってくること。
その際、必ずしもモンスターと戦えとは言わない。冒険者たちとお互いが納得の行く協力体制が築けていればいい。例えば荷物持ち。その外には、後衛として控えること。事前の準備として冒険者達の武器や防具を補修してやること。なんでもいい。
鉱石を少しでも多く持ち帰り、領主が掲げている鉱石の特産化に協力できればいい。
あのダンジョン産の鉱石は純度が高いと言う話を聞いた。持ち帰ってお前たちの取り分も入れてもらえば、お前たちにしても悪い話ではないだろう。
俺の話を聞いて理解はしているものの、当然それだけで二人が完全に納得しているわけではない。
だから、しっかりと色付きの金を作る方法を教えてやった。
カラーゴールドと言う言葉を聞いたことがある人は多いと思う。レッドゴールド,ピンクゴールド,ブルーゴールド,グリーンゴールドなど。
物珍しさで買っている人も多うが、あれは何かと言うと金に銀や銅を混ぜて作った合金だ。
24金と言う言葉がある。24と言う数字を純度100%として表現している。同様に18金と言う言葉もあって、それはつまり純度が75%と言うことである。4分の3が金で、4分の1は他の金属が混ざっていると言う意味だ。
で、とどのつまりカラーゴールドと言うのは18金だ。4分の3を金、残りの4分の1を他の金属にすると色がつくと言った仕組みだ。
銀であれば緑色、銅だと赤色がつく。その他の金属を混ぜれば様々な色を作ることができる。
金としての価値は純度が全てであるため下がってしまうが、そのかわり強度などの金が持ちえない特徴が出る。よって、細工などにも向く。
その話をすると、ドワーフたちは目をランランとさせて聞いていた。
俺からすればなんてことはない話だが、彼らにすればどんな宝物より優れた知識に違いない。
今回の作戦は途中から全てシスが考えた。
シスが考えた作戦はこうだ。複数の方法でもって鍛冶ギルドを篭絡する。
1つ、恐怖。1つ、優しさ。1つ、利益。どれか1つで対応しようとすると、それを超える何かがあった場合に裏切られる可能性がある。
よって、俺達にはそのすべてで敵わないと言うことを知らしめることで、彼らは俺たちを絶対に裏切れなくなると言った寸法である。
味方ながら恐ろしいやつだ。
そのシスの作戦は完全に功を制し、一時俺らに本気で殺されるような脅し方をされたのに彼らは好意的に接するようになった。
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
今回ばかりは支部長も隣のドワーフも一緒になって頭を下げていた。
これで、後は結果を待つだけだ。
「1週間待つ。1週間後に来るから
今日と同じように、鍵を開けておけ」
俺とシスはローブを着なおし、頭を下げている二人の方を見ずにそのまま扉から出た。
無言で階段を降り、ギルドの建物をから外に出る。威圧的な言葉で話すような演技をするのはとても疲れる。息を深く吸い、吐きだし、一息ついた。
「効果抜群でしたね。
最後の方なんて、神様を崇めるような顔をしてサトル様のこと
見てましたよ。
最初の無礼な態度をした時は、どうしてやろうかと思いましたが……」
シスが物騒なことを言うが、放っておく。
これで1週間後に報告を聞くだけとなった。まあ、実際俺のダンジョンに冒険者が来るから、報告なんて聞かなくてもわかるわけだけど、俺がダンジョンマスターであることを人に話せないので、報告を聴く必要がある。
暗い町を歩き、そのままいつもの門でいつもの騎士に困った顔をされながら、俺たちはダンジョンに帰還した。
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また、同時連載中の「闇の女神教の立て直し」の方もよろしくお願いいたします。




