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2章 42話 ダークストーカー


「せっかく魔石が大量に手に入る目途がついたって言うのに、

 あいつら本当に使えないわねっ。」


魔術師ギルドの生命線とも言える魔石の入手ミスの報告書を読み、セルマ・ノルディーンは髪の毛をかきむしった。

ノースランドを訪れている際にノースランド付近で魔石を豊富に入手できるダンジョンの発見の報告があった。

魔石は、魔術や魔道具の研究のために大量に必要になる資源であるから、その報告を知ったセルマはとても喜んだ。自身の研究が先に進むかもしれなかったから。

しかし、魔石の大量入手と言う果報は霧と消えてしまった。

魔術師ギルドから優秀な者を冒険者ギルドに送りこみ、優先的に魔術師ギルドが魔石を入手できるように動けと命令したのだが、魔術師ギルド・鍛冶ギルド・冒険者ギルドの合同探索で魔術師ギルド員と鍛冶ギルド員が探索の足を引っ張り、領主が魔石の優先権を冒険者ギルドに与えてしまったのだ。


「今日はやめ!

 外に出て気分転換しよ。」


更に研究も息詰まって、部屋の中に息苦しさを感じたセルマは外の風に当たることにした。

壁に掛けてあった若草色のローブをかぶり、夜遅くであったが町に繰り出した。


(それにしても、なぜ神は人間なんて生き物に固有魔法なんて与えたのよ!

 我々エルフのように天性の才能を持った種族にあれは与えるべきものよ。

 そりゃ、人間にも稀にそこそこ使えるやつはいるけど・・・。)


魔法灯に照らされた道を歩きながらセルマは答えのない問いを頭の中で繰り返した。

客観的に見ると、セルマは人間でいうところのまだ10代後半ほどの容姿である。しかしその実100歳と言う若さ(ハイエルフの中では)で魔術師ギルドのマスターになっただけあり、ほとんどの者が敵わないほどの実力者である。

夜遅くに一人で歩いていても若草色のローブの者を襲う者などいるはずもなかった。但し、それは今まではの話であった。


ふと、前方に魔法灯に照らされて人の姿が見えた。その者は道の真ん中に堂々と立っていた。

近づくに連れて、黒に近い色のローブをセルマと同じように目深にかぶっている人間であることがわかった。しかし、その者は先ほどから少しも動かない。そして、明らかにその者の意識がセルマに向けられているのがわかった。


(こんな時間に人なんて・・・。

 私を待ち伏せしていた以外にありえないわね。

 私を襲うものなんて存在しないと思っていたけど・・・。

 頭の悪いやつもいたものね。)


「何?私に何か用?

 今機嫌が悪いんだから、襲ってくるつもりなら塵も残さないわよ。」


セルマはローブの者に威圧を飛ばしたが、その者は身動きしなかった。

更に威嚇のために、第9層の氷魔法アイスブリッツを唱え、相手にぶつけてやろうと威圧を飛ばすと、ローブの者の口元が歪んだのが見えた。


(こいつ・・笑っている・・。)


「逃げないと言うなら、死になさい!!」


言うが早いか、空中に形成された十数個の氷の礫がローブの男に向かって放たれた。

ローブの者は一切動かず、全ての礫が命中した。礫が当たる度にローブの者の体が少しだけ跳ねる。だが、ローブの者は倒れることはなかった。礫が当たった個所のローブは破れ、隙間から黒い色が見えた。


「氷の礫が効かない・・黒い鎧?

 それなら、これはどう!」


今度は第8層のファイアボールを唱える。ファイアボールなら、爆発の衝撃で鎧の中身は無事では済まないだろうと考えてのことである。

すぐさま火球が複数形成され、ローブの者に向かって飛んでいった。

すると、今度はローブの者の周りから黒い靄が立ち上がり、細い4本の綱のようになると、ファイアボールを全て薙ぎ払った。

ファイアボールと黒い綱が当たり、ファイアボールが爆発する音が響いた。


(何この魔法・・黒い綱・・いや、鞭?!)


ファイアボールに当たっても黒い鞭は消えることはなかった。そして今度はセルマに向かってきた。

見たこともない魔法とその威力に驚いていたセルマは防御の魔法を唱えようとしたが、それより早くに黒い鞭に拘束されてしまった。口も塞がれてしまい、魔法の詠唱もできない。

辺りでは、ファイアボールの爆発音で付近の住民が窓から顔を出し始めた。そして、セルマが拘束された光景を目にした一人が叫び声が上げた。

その叫び声を皮切りに、辺りはかなりの騒ぎになった。そんな中、ローブの者は歩いてセルマに近寄ってきており、顔を耳元に近づけてきた。


「今日のところはこれで終わりにしてやる。」


男の声だった。男はそれだけ言うと、セルマに背を向けゆっくりと暗闇へと歩きだした。

セルマは何も言えず、何もできず、男の背中を見ているしかなかった。男の背中には影を模したようなマークがあった。

やがて男の姿が完全に闇に同化すると、セルマを拘束していた黒い鞭は靄のように消えてしまった。

セルマは立っていることができず、そのまま座り込んでしまう。


「大丈夫ですか!?

 セ・・セルマ様?!魔術師ギルドのセルマ様ですか?

 一体何があったんですか!」


全てが終わってようやく駆け付けた騎士が、座り込んだセルマに話しかけるもセルマは何も言わず放心するだけだった。




「ねえ、あの噂聞いた?

 通り魔よ通り魔!

 夜になると現れて襲ってくるんですって!」


「夜に一人で歩いていると、気づくと後ろから足跡が聞こえて・・。

 振り返ると、すぐ後ろにいるらしいわ。

 あまりのショックに被害にあった人は1日で白髪になってしまうらしいわ!」


「私は、若く美しい女性だけが狙われるって聞いたわ。

 若く美しい女性から生命を吸い取って命を永らえさせてるんですって。」


「いいえ、あれは人間の負の感情が作ったものよ!

 人を脅かして、負の感情を食べているのよ。

 人を怖がらせる何かなのよ!」


昼頃に、シスが勧めてきた店で紅茶を飲んでいると少し離れた隣のテーブルに座っていた若い女性の四人組の大きな声が聞こえて来た。

サトルのテーブルの向かいでは、シスが何食わぬ顔で紅茶を楽しんでいる。ケーキを一口食べては、「あら・・美味しいわね。」等と言っている。


「おい。」


ぶっきらぼうに声をかけたサトルに対し、紅茶を一口飲んでからシスが応える。


「サトル様、どうか致しましたか?」


「噂になっているぞ。」


「爆発で大騒ぎになっていましたからね。

 何人かに見られていますから、大騒ぎになっても仕方ないですね。」


「お前の作戦だと、こんなことにはならなかったはずだろ。」


「私は万能ではありませんから、そこまでは。

 しかし、想定の範囲内のことですから問題ありませんよ。」


そう言ってシスは再度紅茶を飲む。


「想定の範囲内じゃないだろ!

 明らかに失敗だろうが!

 誰にもバレずに成し終えるのが目的だっただろ!」


「いえ、今回の計画はセルマ・ノルディーンに強い興味を持たせることが

 ゴールでしたからね。今回の計画は大成功で間違いありません。」


サトルが何を言ってもシスには取り入ってもらえなかった。


「お前、いつか覚えていろよ・・・。」


こうして、サトルは闇夜の追跡者ダークストーカーとして領都の不思議の1つになった。


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