2章 43話 半脅迫
(私としたことが・・完全に遊ばれていた・・・。)
王国ホーリィセントラルで最高の魔術師と称されるセルマ・ノルディーンであったが、つい昨日敵からの攻撃に手も足も出なかった。得意としている魔法が効かなかった。
(もし次同様に襲われた場合どう対処すればいいのかしら・・・。
あの黒い鎧を破るにはきっと第4層・・いえ、3層の魔法の強さが必要になる。
けど、3層の魔法の詠唱が間に合うほど相手の攻撃は遅くはない・・。)
昨日の戦いを元に頭の中でシミュレーションしてみるのだが、セルマが勝てる未来が全く見えなかった。
考えれば考えるほど対抗手段がない。と言う深みにハマっていき、詰まってしまう。
世間はセルマが敵わなかったあの黒いローブの者をダークストーカーと呼びだしている。あの姿を何度も思い出すせいで昨日から一睡もできていなかった。
セルマが机に突っ伏して頭を抱えていると、トントントン。とドアを叩く音が聞こえた。
「・・・何よ。」
右てをドアに向けてドアを開ける魔法を放つ。それが入って良い合図であり、魔術師ギルド員がドアを開けて入ってきた。
入ってきたギルド員はセルマの小間使いとしての役目もしてくれており、セルマ宛の郵便の取り扱いや部屋の掃除、水差しの取り換えなど世話も焼いてくれていた。
「セルマ様宛に怪しい手紙が届いております。
蝋で封がされているのですが、見たことない家紋です。」
ギルド員が手に持った手紙をテーブルに置いてくれる。手紙の封の印は確かに見たことがないものだった。この王国のどの貴族の者ではない。
しかし、なんとなくその印が気になってしまい、セルマは印をじっと見ていた。
(この印・・じゃない、このマーク・・見覚えがある。)
「いいわ。下がりなさい。」
「では。」
ギルド員が部屋から出て行くのを待って、セルマは急いで手紙を両手で持って印を食い入るように見出した。
「このマーク・・!!
あの男のローブにあった・・。」
脳裏に焼き付いているあのローブの男の後ろ姿。その背中にあったマークにそっくりだった。
わかった途端セルマは少しでも早く手紙を読もうと封を割らずに、手紙の封等を雑に破き、手紙を取り出した。
折りたたまれた手紙を広げ、目を大きく見開き、血走らせて、書かれている文字に目を向けた。
親愛なる 魔術師ギルドマスター セルマ・ノルディーン殿
昨日は手荒な訪問をしてしまい大変申し訳なく思う。
しかし、私のような者が王国にてその名を響かせている貴方と話す機会を作るには、このような形をとるしかなかったことを許して欲しい。
今回このような形で訪問そして連絡した目的だが、貴方の地位,権力をお借りしたい。
今私はあなたの力を必要としているのだ。しかし、あなたは他人の頼みなど、ましてやどこの馬の骨とも知れぬ輩の頼みなど聞くことはないだろう。
なので、こちらもあなたの研究に協力しよう。昨日見せた、他に類を見ないであろう私の固有魔法をもっと間近であなたに研究させてあげようと思う。
どうだろう、貴方にとって喉から手が出るほど魅力的な提案ではないだろうか。
この話を間違いないものとするために、明日の夜顔合わせをして話し合いたいと思う。
魔術師ギルドの裏にある別棟がここ数か月使われていないことはすでに知っている。
明日の夜、その別棟の倉庫のドアを開けて先に待っていて欲しい。
こちらは私と従者の二名で向かう。
なお、当然ながら貴方には私の提案に賛同しないと言う選択肢がある。
当日私が来るのを多くの魔術師と待ち伏せし、捕らえようとすることもできる。
だがそれはお勧めしない。昨日見せたのがこちらの全てだとは思わないことだ。
あなたは間違いなく王国最高の魔術師である。しかし、あなたでは解決できないことがこの世にはまだたくさんあることを知って欲しい。
それでは、また明日の夜に。
黒いローブの男より
読み終わり、セルマは手紙を握りつぶした。
「良いじゃない。乗ってやろうじゃないの・・・。」
その手は恐ろしさとも、喜びともわからない何かで震えていた。
「サトル様。言い忘れました。
セルマ・ノルディーンにアポを取っておきました。
明日の夜、魔術師ギルドの裏にある別棟の倉庫の鍵が開いています。
そこに行けばセルマがすでにいて会話に応じてくれるでしょう。」
ホテルの部屋で、シスが購入してきた菓子とお茶でくつろいでいると、お茶の入ったポットを持ったまま立っているシスが突然言い出した。
サトルは口に含んだお茶を吐き出しそうになるのをなんとかこらえることに成功した。
「待て・・お前、アポなんていつの間に取ったんだ。
昨日のあの後からずっと一緒にいただろう。」
「手紙は計画実行前にすでに書き終えておりました。
そして、今朝サトル様が起きるより早くに手紙を出しました。」
相変わらずさも大したことではなかったようにすましている。
「シスの名前で、セルマ宛に手紙を書いたのか?」
「いいえ。もちろんサトル様の名前でです。」
言われた途端、サトルは頭を抱えた。
「手紙の内容は・・・。」
「これでございます。
セルマに出したのはこれと全く同じものです。」
いつものごとく、どこから取り出したのかわからない手紙を手に持っていた。
シスはその手紙をサトルに差し出す。
見れば、ローブについていたマークと同じ印で封されている。こんなものいつ作ったんだと思うが、話の方向が変わってしまうため言葉を飲み込み、手紙を見る。
そして読み終わった後、
「お前・・これはほぼ脅迫じゃないか・・・。」
サトルの言い分に対して、シスはわかっていませんねとばかりに人差し指を振る。
「立派な取引です。相手にもメリットがありますから。
それに仮に脅迫だとして、昨日あれだけのことをしたのですから、
今更これくらい大事の前の小事です。」
「言葉の使い方が違う!
相手にメリットがあるかもしれないが、断ったらまた襲いますよと、
言ってるも同然じゃないか!
それに、メリットって俺の研究だろ?!」
「まあまあサトル様、落ち着いてくださいませ。
これで、セルマの権力を用いて魔術師たちを言い聞かせることが
できるのですから。」
「うむむ・・・。」
個人として今回のことに何とかするアイデアが全くなく、シスに任せきりになっていた自分をサトルは悔やんだ。




