表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/116

2章 13話 勧誘

以前書いたヒルダの決心がここで出てきます。


「なら、レイアムにおいでよ。

 レイアムならエルフも、ドワーフも、獣人もいるよ。

 魔族は流石にいないけどね……」


ヒルダにそう言われ、俺は少し考え込んだ。

他種族……見てみたい。だけど、この誘いは領都に住めばいいじゃないかと言っているに違いない。


「ヒルダ、遊びに来ないか? と言うつもりで言ってるのか?

 それとも……」


俺の言葉の意味を理解したヒルダは、言葉を正した。


「レイアムか、もしくはその近くに住む気はない?」


遊びに行くだけであれば問題ないけど、住むとなるとダンジョンをそのままにしておくわけにはいかない。一度シスに相談する必要があった。


「考えさせてほしい」


俺の言葉をどちらかと言うと好意的な意味で受け取っただろうヒルダは、今のところはそれだけで満足したらしく、会話を終わらせて解散することにした。

俺はまだ少し飲みたいと伝え、ヒルダを見送った。




食堂の入口を出て、サトルの姿が見えなくなってから、


「やった、言えた」


ヒルダは小さくガッツポーズをする。今日一番言いたかったことを言えた。

しかも、サトルが偶然流れを作ってくれたのでとてもすんなりと誘うことができた。

まだサトルの返答はわからないが。

嬉しい気持ちを胸いっぱいに抱えながら、部屋に戻るために階段を上る。

階段を上り終えドアを開けるまでの間は足取りも軽く、スキップをしたい気持ちに駆られる。

ドアを開けるとレオンは手紙を書き終えたようで、お茶を飲んでいた。


「どこかに行っていたのか。

 それにしても機嫌よさそうな顔をしているな。

 何かいいことでもあったのか?」


そう聞く兄にヒルダは頬を膨らませて答える。


「兄にずっと近くにいられたから、ストレスが溜まってたんですよーだ」


ヒルダにそう言われレオンは察したようだ。


「それはすまなかった。

 明日は私は冒険者ギルドに用事があるから、

 村に出て、気分転換でもするといい」


レオンにそう言わせたことで更にヒルダの機嫌がよくなる。

今日一日は食事以外はずっと部屋にいたのだ。散歩でもいいから身体を動かしたかった。

そして夜以外でサトルと会うチャンスも生まれる。

ヒルダは明日のために今日は眠りにつくのだった。




ヒルダが食堂を出て行ったのを確認すると、誘いについてどうするべきかと考え始めた。

当然だが懸念がある。ダンジョンを移動させることができるのか、だ。

これはシスに聞くしかないため、ダンジョンに戻った時に聞くしかない。

仮にダンジョンが移動できるとなった場合、どうやって領都まで移動するか、だ。

明日ヒルダにもう一度会えた時にそれを聞くしかないか……と考えていると、食堂にすでに自分一人しかいないことに気付いた。

おそらく夜もかなり更けていることだろう。

部屋に戻るために席を立つ。見えない位置で控えていた店員がおやすみなさいませ。と声をかけてくる。

プライベートを邪魔しないその行動に、この宿のサービスの高さを改めて感じた。


階段を上り最初のドアを横切るときに、ここにヒルダが泊っているんだよな。と改めて思う。

少しずつヒルダのことが気になってきていた。ただ、今はまだ恋心に発展することはない。最初は恨みを、憎しみを、怒りを感じていた相手なのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうと不思議にも思った。相手も同じかもしれない。自身をダンジョンで追い詰めた相手と仲良くしようとしてるのはなんでだろう、と。

部屋に戻ると酒が少し回っていたこともあり、ベッドに入るとすぐ眠りに落ちた。


朝ベッドの上で目が覚める。

ベッドの質はとてもよく、体の疲れがよくとれていると感じた。

起き上がると、テーブルの上に着替えが置いてあるのが見えた。

手に取って、そのまま着替えようとしたところで気が付いた。


「え、なんで……」


ここはダンジョンではない、村の高級な宿屋だ。

普段通りに自分の着替えが畳んで置いてあると言うことはありえない。


「それは、私がお着換えを届けに伺ったからです」


なぜそんな当たり前のこともわからないんですか? と言いたげな口調でドアの方から声が聞こえた。

驚いてそちらの方を向くと、そこにはいつものメイド姿のシスがいた。

どうやって入った……そう考えていると、シスは俺の心の中を読んだように答えてくる。


「内緒です」


とても澄ました顔をしている。

深く息を吐いて心を落ち着かせてから、このメイドに対しての疑問を持つことをやめた。

何しろステータスが全てBの化け物クラスの存在なのだ。

俺が知らないだけで、多くのことが可能なスキルのようなものを持っているのかもしれない。

そんなシスが近づいてくる。


「お着換えをお手伝い致します」


胸のボタンを外してくる。

その行動になんとなく恥ずかしくなって、強引に後ろを向き自分でボタンを外す。


「サトル様。お世話をするのもメイドの責務なのですよ?」


「こればかりは断る」


即答でそう言うサトルに対してシスは少し考えてから、


「わかりました」


そう言い、テーブルから服を両手で持ち持ってきた。

それを受け取ると着替えた。

今回のシャツは、薄く青色に染色されたもので、襟はないが首元に黒い紐でリボンがついていた。

中性的に見えるシャツで、今の俺ならこれはこれでとても似合う。


「これも作ったのか」


「はい、まだ他にも数種類あります」


本当にこのメイドは優秀である。

俺がこの村に来ている間に作っていたのだろう。

直接礼を言うのがなんとなく悔しいので、心の中でありがとうと感謝をした。


着替えも終わったので朝食をとるために食堂に移動しようとすると、シスもついてきた。

シスの分の支払いはしていないので、無理ではないかと思うが、追加で支払いをすればいいかと気にしないことにした。

ヒルダの部屋のドアの前を通り過ぎ、階段を降りると店主が受付にいる。


「サウザンツ様。

 今朝方お着換えを持ってこられたメイドの方を

 お部屋にお入れしました」


そう言われシスの方を見ると、サトルの顔の動きに反応して顔を背けた。

なんてことはない、このメイドは普通に店主に言って部屋を開けてもらっただけなのだ。

更に目を細めてシスを見ると、シスも更に顔を背けた。

いつまでもこうしてるわけにもいかず、サトルは店主に向き直る。


「ありがとう。

 着替えを忘れていて、助かった」


それだけ言って、食堂に向かって移動する。

後ろからシスの靴が鳴らす音が聞こえるので、顔を背けるのをやめてついてきていることがわかる。

食堂に入り見渡すと、ヒルダとレオンがすでにテーブルについて食事をしていた。

知らない振りをしてヒルダ達から離れたテーブルの壁側のイスに座る。

シスは椅子につくわけではなく、サトルの後ろに控えた。所作は立派なメイドのものだ。


すぐに店員が朝食を持ってくる。店員の手から、俺の目の前に木の大皿が置かれた。

内容は、薄く切ったパンで具材が挟まれたもの……俺の知識では、限りなくサンドイッチに近い何かだ。

それにスープ。琥珀色で皿の奥が透けて見える。そこに、青い葉の野菜が少しだけ入っている。

とても上品に作られている。

最後にデザートとして複数の果物を同じ大きさに切ったものを軽く混ぜたものだ。

朝にしてはとても豪華だと思う。


今の俺は貴族として行動しなければならない。手づかみで良いんだよな……と周りを軽く見渡すと皆サンドイッチはそのまま手で掴んで食べていた。

安心して手で掴んで端の部分に噛みつくと、パンは焼きたてで外側は焼けた部分がカリっとし、中はふわっとしていた。具材は野菜と鶏肉を混ぜ合わせたものだ。鶏肉は一度炒めてからほぐしたのか、まだ暖かくにんにくのような香りもしておりとても舌を喜ばせる。

サンドイッチを一口食べた後はスープを口に入れる。

スープは出汁が効いており味付けはほぼ塩だけと言った感じだが、むしろ朝であるからこそこれくらいがとても良い。

青い野菜は一度煮込んであるのか口に入れるとほろりと崩れる。

こちらの世界にきて、まだ多くの種類の食事を口にしていない俺にはとても美味しく朝食を食べることができた。

食事も終わり、自身の部屋に戻る。シスにあのことを聞かなければならない。

椅子に座り、テーブルに腕を置きシスに話しかける。


「シス」


「はい、サトル様」


シスはイスには座らず、だが俺の正面に立っている。手を正面のお腹当たりで重ねている。


「聞きたいことがある」


サトルはシスに、ダンジョンの移動についての話を持ち出した。


約一週間の更新です。

言い訳なんですが、仕事が最近忙しく時間がとれる土日にしか更新する時間がとれない・・・orz


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ