2章 11話 続 食事
また予定が狂って、世界観の話は次話ですorz
次の料理を待っていると、出てきたのはスープだった。
野芋茹でた後ペースト状になるまで潰し、出汁,ミルクを少しずつ入れて丹念にかき混ぜてあるもの。
ポタージュスープだった。
木のスプーンでそれを掬い、口元に運ぶ。口元のスプーンから、ミルクと野菜の入り混じった香りがする。
ダンジョンでもミルクスープを飲んでいるが、あれはポタージュではない。口に入れると、久しぶりに感じたポタージュスープの舌触りと味に改めて感動する。
今いる場所が宿屋の食堂であることを思い出し、周りを見渡すと特に皆驚く様子もなく黙々と食べている。このレベルの宿であれば、この料理は当たり前なのだろう。もっと言えば、この宿に泊まるクラスの人たちであれば、これくらいの食事が当然なのだろう。
ダンジョンに戻ってみたら、新しい料理は何が追加されているか見てみようと思う。
スープと何度か口に運んでいるとなくなってしまった。
まだ2・3度しか運んでないのではないかと思うほど早かった。
食べ終わって余韻を楽しんでいると次の料理が運ばれてきた。
皿の上には、何かの葉で包まれたものが置かれている。
包んである葉を一枚ずつ開けていくと、中に入っていたのは魚だった。白身魚であり、蒸されてふっくらしている。つけあえには小さいきのこが添えられていた。
美味しそうだんと料理を見ていると、店員がポットを持ってきた。
「ソースでございます。
お掛け致します」
魚料理の上にソースをかけてくれた。
ソースはとろみがあって、塩気の効いた乳製品の香りがした。
早速フォークで一口サイズにしたものを口に入れると、魚がほろほろと崩れて口の中いっぱいに味が広がる。
ソースは塩気とにんにくを効かせたバターソースだった。
あっさり目の白身魚に油分のソースは相性がとてもいい。
あまりの美味しさにそのまま食べ続けると、またもすぐになくなってしまった。元から量も多くなかったこともある。
そしてすぐに次の料理が待ち遠しくなった。
待っている間に果実酒を飲む。さっぱりとした果実酒は、口の中に残ったバターの油分をきれいに洗い流してくれた。
店員が最後に持ってきたのは、深皿に入った豚肉の煮込みだった。
煮込みに葡萄酒が使われているのかほんのりと香る。
フォークを横にして差し込むと、すんなりと通った。形は崩れておらず、だがしっかりと煮込まれたそれは口の中に入れると肉の旨味を感じつつ溶けるようになくなっていく。
現代で高級料理とは縁がなかった俺は、この料理ほど美味しい煮込み料理を食べたことはなかった。
今日だけで何度目だろうか。気づいたら皿の中にが空になっている感覚に襲われる。
なくなってしまった皿の中身に切ない気持ちになったが、ないものは仕方なく果実酒を飲んで一息ついていた。
俺が食べ終わった頃に宿の店主が近づいてきた。
「いかがでしたでしょうか」
食事についての感想を聞いているようだ。
とても良かった。とだけ言った。とても美味しかったことを表現したかったが、変な言葉になってしまうと思えたからだ。
美味しかった旨を伝えられた店主は、笑顔でそれはよかったです。と答えた後で、ごゆっくり。と次のテーブルへと向かった。
全てのテーブルへ向かうのだろうか。とても大変である。
全て料理を食べ終えたところで、この後のヒルダと会うことを考える。
食事が終わればここの食堂はバーのような形で解放されるはずであるから、ヒルダ達が食べ終わって出て行く時に、新たに飲み物を注文してまだいるアピールをすればもしかして……。
ヒルダのテーブルの方を見るとレオンと二人で黙々と食事をしている。二人の間には特に会話はない。
まだ食べ始めたばかりのようで当分続きそうに思えた。一度切り上げて部屋に戻ることにする。
席を立ってドアに向かうと、離れた席に店員が近づいて片づけをしようとしていた。
店側は客の動きを見て、次の料理を出したり片づけをしようとしているのがよくわかった。店員にしっかり教育の行き届いた店が、このような辺境の村にあるにはとても惜しい気がした。だがそのおかげで今日こうして美味しい食事にありつけたのだが。
部屋に戻った俺はベッドに腰かけ、部屋にある明かりによって作り出された自身の影を見ていた。
自身が使える影魔法は未だ1つ。シャドウボックスと名付けた保管魔法である。
今は中に何も入れていないが、なんとなく影に向けて手を伸ばす。手を伸ばした先の影が、揺らめいた気がした。影が揺らめくはずがない、そう思って見ていると、影に小さな凹凸があったことに気付いた。しかも、その凹凸は動いていた。
試しにその凹凸を動かそうとイメージすると、少しだが自分のイメージの通りに動いているような気がする。
具体的な形を取らせることができるかと、工夫してみるが少し動かせただけに過ぎなかった。
もっと上手く動かせるようになれば、何かに利用できるかもしれない。戻ったらシスに相談してみることにしよう
1時間ほど部屋で休んだ後に、再度食堂に向かう。
食堂は夕食時より明らかに人の数が少なく、数人いるだけだった。
食堂に入った俺に店員が近づいてくる。
「食後は、お酒と軽いものしか出せませんが
それでもよろしいでしょうか」
無言で頷く。
「お席はどういたしましょう」
「テーブルで頼む」
「では奥のテーブルをお使い下さい」
一人で来たのにテーブルだと言うことで、誰かと待ち合わせるのだと思ってくれたようだ。
店員は、周りに人がいない奥のテーブルを示してくれた。
奥のテーブルに入口が見えるように座る。
ヒルダとレオンは、ちょうど俺と入れ違いに食堂から出て行った。俺が食堂で時間を潰すことを、今ならヒルダは確実に理解したはずだ。
後はヒルダレオンになんとか言い訳をつけて食堂に来るのを待つだけだ。




