1章 37話 続 酌婦
無事37話書きあげました。
予定より遅れていますorz
いやほんと小説ってままならないものですね。
シスに見送られた俺は居酒屋に向かって歩いていた。
過保護なシスが俺一人で居酒屋に送り出したことについて未だ不審が抜けないが、居酒屋に入れば酌婦が近づいてくるから一人の方が好都合なのは間違いない。
いつもの居酒屋に辿り着くと中は盛況であることが外からわかる。
ドアを開けて中に入る。カウンターの方を見ると、前回の酌婦が近づいてきた。
「いらっしゃい。また来てくれたのね」
俺の腕を取ってカウンターに連れて行った。
前回のこともあるし、俺が来た時は専用で相手してくれるつもりなのかもしれない。
そして俺は腕を組まれて嬉しくないはずがない。少し照れるけど、表情には出さずに葡萄酒をボトルで注文し、今日のメニューを教えてくれるように頼む。
酌婦がそれに頷き、準備しに厨房のほうへ行ったのを確認してから席に着いた。
周りを見渡すと、相変わらず冒険者たちが騒ぎながら飲んでいる。
仕事が上手くいって大儲けなのだろう、テーブルにたくさんの料理とすでに空になったボトルをいくつか置かれたテーブルが一番騒がしい。
トテトテと酌婦のサンダルの音が聞こえたのでそちらを振り返ると、ボトルと木製のカップを1つ持ってきたところだった。テーブルに置いて、今日のメニューを教えてくれた。
「はい。今日のお勧めは、猪肉のソテーね。
銅貨8枚よ。葡萄酒で作ったソースが掛かっていて、
とても美味しいのよ?」
葡萄酒トクトクを注ぐ。
未だダンジョン内で作れる食事に肉類がないので、注文する料理はすぐに決まった。俺の胃は肉に飢えているのだ。
「じゃあそれを。後、せっかくだし君の分のカップをもう1つ」
「あら? 私も飲んでいいの?
酔わせてどうする気なのかしら?」
フフフと笑いながら酌婦が嬉しそうに厨房にカップを取りに行った。
手にカップを持って戻って来て、俺の隣に座り自身のカップにも葡萄酒を注いだ。
軽くカップを合わせて乾杯をすると、気持ちよく胃に流し込む。
正直現代のワインはあまり得意ではなかった。ビールに比べてアルコールの度数が高かったし、何より一度飲みすぎて派手に二日酔いになった記憶があるからだ。しかし、この店の葡萄酒はそれほどアルコール度数が高くない。完全に発酵されていないからだろう。甘みも残っていて飲みやすい。
カップから口を離し、ふう。と一息つくと、酌婦が顔を近づけてきて小声で話す。
「ねね。今日も情報があるの。
買ってくれるかしら? あ、でもまだだめ。
まずは私と一緒にお酒と料理を楽しんでからね?」
今日も情報を持っていると言う。俺はそれを目当てに来たのだから、あるに越したことはない。もし酌婦が情報を持ってなかったら、食事だけしてさっさと別の店に行ったろう。
俺は葡萄酒を飲みながら酌婦の話に耳を傾けていた。俺がここに来なかった間に話のネタが溜まっていたのか、とても饒舌で口を挟む隙がない。
特に自分から振る話もそんなになかったので、それはそれで助かった。
途中で注文していた猪肉のソテーを店主が持ってきたので、一旦酌婦との話を置かせてもらった。食べることに集中したいからだ。
猪肉は大きめの肉の塊を焼いた後何枚かに切り分けられた物で、切られた部分から肉汁が出ている。上にかけてある葡萄酒のソースは、猪の肉汁も使って作られているようだ。
木のフォークで刺して1枚を口にいれ舌で肉を感じる。噛むごとに出てくる肉汁に舌が喜んでいるのがわかる。肉汁が感じられる食事など異世界に来て初であったので、思わず感動で涙を流しそうになる。
ふと気になって横を見ると、酌婦が顎に両手を当ててニコニコしながらこちらを見ていた。
なぜ見ているんだ。と言う顔で酌婦を見ると酌婦が口を開いた。
「別に私が作ったわけじゃないけど、そうやって
美味しく食べてくれてるのを見るとね、
幸せな気持ちになれるの」
そんな言葉に嬉しさと恥ずかしさを感じたので、葡萄酒のボトルを追加して酌婦が取りに行ってる間に恥ずかしさを顔から追い払った。
酒が入ったのも手伝って恥ずかしさを追い払うのに難儀していると、すぐさま酌婦が新しいボトルを手に戻ってきた。
サトルの隣に座って空いたカップに葡萄酒を注ぎ終えると、胸を腕に押し付ける様にして腕を組んで来る。
結局恥ずかしさは完全には抜けないまま、また話を始めるのだった。
1時間もすると酌婦の会話も大分落ち着いてきたので、情報の提供について話を振ってみた。
先ほどまで笑顔だった酌婦が一瞬真顔になるが、すぐ笑顔に戻って給仕代も含めて20枚でどうかしら。と提案してきた。
前回は値切らせてもらい情報を教えてもらったので、今回は言い値を支払うことにした。何より今日は財布に余力がある。
少し高い額を提示したつもりの酌婦だったが、すんなり了承されたことに少し驚くもその分しっかり情報を伝えようと言う気持ちになってくれたようだった。
より密着し、更に顔が近づけると酌婦が喋りだした。
「聖騎士様や騎士様がまだ村に残っているのは
きっと知っているわよね?
聖騎士様達が村に残っているのには実は理由があってね。
どうやら騎士様達は帰りたがっているらしいのだけど、
聖騎士様がまだ残って調査する必要があると言って
聞かないらしいの」
残る理由までは知らなかったので、その話に飛びつきそうになるが心を落ち着けてから続きを促す。
「それで、聖騎士様が残ろうとしている理由は、
昨日行ったダンジョンの調査で違和感があった
かららしいわ。
モンスターがやけに連携取れすぎているだとか、
明らかにモンスターが作ったとは思えない家具が
ダンジョンにあったとか」
それを聞いて欲しかった情報が手に入ったことに心の中で喜ぶ。
しかしモンスターの連携にまで注意を向けているとは、聖騎士は本当に恐ろしい。
通常のダンジョンではモンスターは連携などしてこないのだろう。家具も会話ができるロードに頼まれて俺が作ったものだから、通常のモンスターには不要なものであるのは間違いない。
しかし、そんな情報をどこで掴んだんだ。と聞くと、笑顔で酔った騎士から聞いたんだと言った。機密を守らないといけない騎士がそんなことをしゃべってはダメだろうと思うが、彼らも早く帰りたいところを留められて、愚痴を吐いたのかもしれない。
その後、また酒を飲んで話をしていると酌婦が今までよりも強く腕を抱きしめてきた。
「ね。今日は上の階に行きたいなー?」
俺を見上げる様にあざとく話しかけてくる酌婦。
腕を持ったまま立ち上がって、ね、行こ?と腕を引いて誘惑してくる。
すると突然、店のドアが大きな音を立てて開かれた。
ドアは勢いよく開き、観音開きで全開になっている。
開かれたドアの前に一人の人物がいた。
「この泥棒猫があああああああああああ!」
その声の主はシスだった。
感想や評価,レビューをしていただくと山県が喜びます。
ちょっとでも、これいいなと思った方は是非お願いいたします。




