1章 16話 噂
酒場での冒険者のやりとりが思ったよりはかどってしまった
宿の確保をするにあたり、先日泊った宿屋の食事が良かったので今回も同じところに決めようと思った。と、言うか足がすでに向いている。
「いらっしゃい。おや、この間の旅人じゃねえか。
また泊まってくれるなんてありがたいね!」
俺に気付いた店主が陽気に声をかけてきた。相変わらずの調子だなと思うのと、この店主は年中このような感じなのだろうかと。
「この宿、食事も美味しいし気に入っちゃってさ。
今回も1泊だけど、よろしく頼むよ」
お世辞を言うと、よせやいそんなこと言われても銅貨1枚たりともまけねえよ。と店主が照れる。
鞄から銅貨6枚を出してカウンターに置くと、店主はそれを受け取り鍵を出してくれた。
「この間と同じ部屋が空いてるからそこを使いな。
お湯もすぐに小間使いに持って行かせる」
鍵を受け取ると前回と同じ二階の部屋に向かう。
机に鞄を置いてベッドに腰を下ろす。ドアは開けっ放しにしておいた。少し経って小間使いがお湯が入ったタライを持ってきた。
それを受け取り、切れ端で体を洗いながら今回の情報収集について考えを巡らせる。
前回の訪村と異なり、ダンジョンの調査に来る冒険者の具体的な情報の収集が必要になる。
ただし俺は確実な情報を手に入れる伝手もない。
よって、まずはその伝手を得るため世間話ついでにこの宿屋の店主に話を振ってみることにした。
体を洗い終わり、タライを持って1階のカウンターまで行く。
店主が俺の姿を見つけ、バツの悪そうな顔をしていた。
「あんたまたやったのか。言ってくれりゃ小間使いに取りに行かせたのに。
人の仕事を取ったらダメだぜ?」
そう注意される。そうか、俺は小間使いの仕事をとってしまっていたのか。と少しだけ反省。
「今度から気を付けることにするよ。
ところで、最近村で何か噂話みたいなものはないか?」
「噂話か。儲け話に繋げようとしてるのか?
ないこたあないが、俺はそんなに詳しくないぜ。
詳しく知りたい時は冒険者に聞いてみるのがいちばんさ」
そうアドバイスをくれた。しかし、気軽に聞けるような冒険者の知り合いなど俺にはいないのだ。
「そうは言っても冒険者に知り合いもいないからなあ」
困った顔をしていたら、店主はニカっと笑った。
「それなら、とっておきの方法を教えてやる。
親しい冒険者がいなくても情報をもらう方法だ。
この方法で冒険者の知り合いができることもある。とても良い方法さ。
居酒屋で冒険者相手に酒を奢って、相手に良い気にさせるんだ。
冒険者で酒を奢ってもらって気分よくならねえやつはいねえ。
知ってる情報を教えてくれるだろうさ」
な、いい方法だろ。と店主は胸を張っていた。
前回より少し多く銅貨を持ってきたから、店主の方法はやろうと思えばできる。
もっといい方法も思いつかないので、その方法を試してみることにした。
「それはいい方法だね。参考にさせてもらうよ。
しかし、そうすると夕食はここでは食べれなくなるな~。
残念残念!」
お礼を言った後に、暗に他の店で夕食を食べることを勧めたのも同然となったことを店主に告げると、店主はしまったと言う顔をしていた。
「あー……クソ!言っちまったもんは仕方ねえ!
ここを贔屓にしてもらうためってことにしとくわ!」
店主はそう言うが、本当のところはこの店主はわざとそういう風に仕向けてくれているのではないかと少し思う。そういうことにして、心の中で改めて店主にお礼を言った。
「じゃあ、店選びのついでに今から出かけてくる。
あ、でも朝食は食べるから」
木の札と交換するため鍵を差し出したが、店主は鍵を受け取らずに追加で俺に告げてきた。
「おいおい、たくさんある居酒屋からどうやって探すつもりだ。
俺の知り合いが居酒屋をやってる店があるからそこに行きな。
冒険者に人気の店で料理も美味い。あんたの目的にあってると思うぜ。
場所は、大通りの冒険者ギルドに行く途中の左手側にある。
夜に行けば、毎日騒がしいから間違えることはないぜ。
俺のお勧めは芋の炒め物の料理だ。
ちょうどいい、俺に紹介されたって言っておいてくれ!」
豪快に笑う店主。転んでもただでは起きない良い性格をしている。
こうやってお互いの客を紹介しあうことで成り立っていることもあるんだろうな。
わざわざ店を探しに行くことはなくなったから、俺は部屋に戻って少し横になり夜になってから街に繰り出すことにした。
この村を夜に歩くのは初めてだ。
明かりは各店が焚いてる篝火のみのため、大通りでも結構な暗さだ。
娼婦なのか、ところどころ露出の高い女性が冒険者に向かって声をかけていた。
俺には声をかけてこない。ま、どこからどう見ても金持ってるようには見えないもんな。
宿屋の店主に勧められた店はすぐにわかった。店は結構な広さがあって、まだ夜も早い時間だと言うのに席の7割ほどがすでに埋まっている。人気の店なのだと言うことがよくわかる。
店の入り口に向かうと酌婦兼ウェイトレスがやってきた。
「一人かい?カウンターへどうぞ~」
俺が一人で来ているのを見て、カウンターを勧めてくれた。
カウンターの椅子に腰かけると、今度はひげで毛むくじゃらの男がカウンターの向こうから話しかけてきた。
「いらっしゃい。
酒だが、うちはハーフジョッキとボトルしか置いてないよ。
ハーフジョッキは銅貨1枚、ボトルはハーフジョッキ2杯分
くらい入ってる。銅貨2枚だ。
食い物は、そこの看板に書いてあるから好きなのを注文してくれ」
この毛むくじゃらの男が宿屋の店主の知り合いなのだろうか。試しに声をかけて見る。
「実は、宿屋の店主に紹介してもらってきたんだ。
ここの居酒屋がこの村で一番美味いってさ。
ついでに、何か儲けに繋がるような情報でもないか
聞けそうな相手がいないかと思ってるんだけど」
毛むくじゃらの店主は、なんだ、あいつの紹介かよ。と右手を頭の上に置いていた。
その後、目線だけ動かして店内を確認していた。
そして俺に顔を近づけ小声で話しかけてくる。
「なら、ボトルと芋の炒め物を注文しな。合わせて銅貨4枚だ。
注文が届いたら、すぐそこの4人掛けテーブルに座ってる
男二人組の冒険者に話しかけてみろ。
話しかけ方まではレクチャーしなくていいな?」
最初のセリフで察してくれたのか、丁寧に話しかける相手まで教えてくれた。
問題ない、と銅貨4枚を取り出して渡すと、毛むくじゃらの店主は待ってろ、と厨房に入っていった。
注文が届く間に、俺は店の中を観察することにした。
客はほとんど冒険者で、各テーブルに大体3~4人集まって飲んでいる。
テーブルによっては、美人な酌婦も交えているところもある。
料理はあまり注文されていないようで、テーブル1つに対し1皿2皿あるくらいだ。
どのテーブルも空のボトルが複数置いてあるから、酒ばかり飲んでいるらしい。
店主に勧められたテーブルは、ボトル1つ置いてあるが空にはなっておらず、料理の皿も1つだった。
カウンターの奥から足音が聞こえたので前を向くと、丁度毛むくじゃらの店主が料理を持ってくるところだった。
店主は葡萄酒が入った木のボトルと、芋と木の芽を炒めた料理の皿を俺の前に置くと、小声で言った。
「うまくやんなよ」
後ろでに親指を立てて、厨房に戻っていった。
早速ボトルと料理皿を手に持って、先ほど勧められたテーブルへ向かった。
テーブルの上にボトルと皿を置くと、二人の冒険者は俺の方を向いてきた。
当然こいつは誰だと言う顔をしている。
「お二人さん、冒険者だろ。
俺、この村に来たばかりでここに落ち着こうか考えてるんだ。
判断する材料欲しいし、何か情報があったら教えておくれよ」
そう言ってボトルを掲げると、冒険者二人は顔を見合わせた後俺に向き直る。
「あ、ああ。しかし、ただってわけにはな……」
二人の目はボトルに向いていた。片方は喉をゴクっと鳴らしてしまっている。
わかってるわかってる、こっちは最初からそのつもりで来ているからな。
「もちろんさ、さあ飲んでくれ。
こっちの皿のも食ってくれよ」
料理皿を二人の前に出し、手に持ったボトルで二人のジョッキに葡萄酒を注ぐ。二人のジョッキにはまだ葡萄酒が残っていたようで、ある程度入れただけでいっぱいになった
「悪いな!
実はさ、今日は依頼を上手くこなせなかったもんだから、
儲けがあまり出なかったんだよ。
あまり飲まない様にしようぜって話をしている最中だったから
ほんと助かったよ!」
先に葡萄酒を注いだ方の冒険者が酒をあおる。とても美味そうにして、ぷはっと息を吐き出す。
もう片方の冒険者はちびちびと飲んでいる。
「で、金儲けに繋がらない話でもいいんだけど、何かない?」
二人の冒険者は顔を見合わせて考え出した。
「最近この村の近くに狼がいなくて、毛皮が少し
高くなるかもしれないって話はこの間聞いたなあ。
確かに俺らも狼を見かけないんだが、だからと言って
毛皮製品の値上もまだしてないし、眉唾かなあ……」
「んー……あ、あの話があるじゃないか」
酒をチビチビと飲んでいた冒険者のほうが、何かを思い出して話し出す。
「あれってなんだ?ロリコンの変態野郎が最近村に現れるって話か?」
「アホ!そんな話じゃねえよ。
最近発見されたダンジョンに派遣される冒険者が決まった
って話だよ」
「あれか!でも、あの話は金儲けどころか聞いても得るものは
ない話だぜ。むしろ、聞いて嫌な気分になる冒険者がいる
くらいだ」
まさか、適当に情報を聞いて回ったら俺が欲しい情報がピンポイントで目の前に転がっているとは思わなかった。
本当はその釣り針に喜んで食いつきたったが、あくまで冷静に尋ねた。
「近くに発見されたダンジョンに派遣される冒険者?
何の話ことだ?」
「実はな。最近この村の近くに、規模は小さいがダンジョンが
発見されたらしいんだ。
冒険者ギルドとしては下級のダンジョンと言う判断をしたらしくてな。
ダンジョンの調査依頼に中級冒険者を送りこみたいが、この村には
中級の冒険者なんていやいない。
そこで選ばれたのが、下級だが腕は中級って言われている冒険者さ。
だが、その冒険者には悪いうわさがあってな……」
そこまで言って、もう一人の冒険者からおい!と肘で脇腹を突かれて、喋るのを止められてしまった。
俺は、二人のジョッキに再度酒を注ぐ。
「俺みたいな旅人にも言えないような話かい?
自慢じゃないけど、冒険者になんてなれないくらい弱いぞ。
旨味がない話かもしれないけど、そこまで聞いたら最後まで
聞いてみたいじゃないか」
二人は顔を合わせた後俺の姿を頭から足まで流し見て、少し考えた後にそれもそうだな。と先ほどの続きを話してくれた。
ダンジョンに派遣される冒険者のパーティはデールと言う者がリーダーで、冒険者仲間からは非常に疎まれているらしい。対立したパーティが、失踪したりこの村から出ていったりとするらしい。
事実の確認はできていないが、もっと悪いこともしていると言う話もあって、本当に鼻つまみ者だったたらしい。
「しかし、中級の冒険者いないからってどうしてギルドは
そんな奴らをダンジョンに向かわせるんだ?」
「そこがよくわからないんだよなあ。
ギルドはデールのパーティを中級相当の腕を持っている。と
それだけしか言わないらしいんだ。
俺も聞いた話だし、下手に調べて目をつけられたくないし、
仮に知ったところでメリットもないしな!」
喋り終えた後にジョッキを一気にあおる。空になったジョッキに俺がすぐ酒を注ぐと、悪いな。と冒険者は言う。
これ以上は知らないらしいし、俺も下手に突っ込んで聞いて怪しまれるのもイヤだったので、話が止まる前に別の話題を振ることにした。
「ところで、二人は主にどんな依頼を受けているんだ?」
サトルに聞かれると、二人は笑顔になって言った。
「よくぞ聞いてくれた。
俺たちはこの村の村長に直々に依頼されたことをやってるんだ。
最近は、鹿や猪の狩が多かったな。
村長は一度依頼する冒険者を決めると他の冒険者に依頼を
変えたりしないから、俺達は村長付きって呼ばれる
ちょっとした名誉職なわけよ」
貴族付きの冒険者みたいな感じだろうか。そう考えれば、彼らが実力を買われて毎度依頼をこなしているということになる。
「それはすごいな。さぞかし高い実力を持ってるんだろう?」
「もちろんだ。流石に詳しくは話せないが、普通3~5人の
パーティのところを俺たちは二人でパーティを組んでる。
そこから察してくれ!」
自慢そうに自分たちのことを話し出す。
中級冒険者ではないが、この村では中級と言っても過言ではない実力があると言うことだと思われる。
なかなかすごい冒険者と知り合えたものだ。
チビチビと飲んでるの冒険者のジョッキに酒を注ぐと、ボトルの中身が空になった。空になった皿を片付けてる酌婦に声を掛けて、銅貨を2枚払い、ボトルを追加した。
「しかし、話を聞く限り相当な実力じゃないか。
なぜ今日は儲けが少ななかったんだ?」
二人は失笑していた。
「村長が珍しい白い毛色の狼の皮が欲しいって言うんだよ。
たまにいるって話だが、狼自体がなかなか見つからないのに
更に珍しい狼なんて見つかるわけなくてさ。
それでこんな感じなんだ」
サトルが着ている狼の毛皮もそうだが、普通の狼の毛色は灰色から黒色をしている。白色の狼は相当珍しいのだろう。
「それはご愁傷様だな。
俺も白い毛の狼の話をもし聞いたら、覚えておくよ」
「おお、ぜひ頼むよ。俺らは毎日ここで飲んでるからさ」
これでこの冒険者たちとは顔つなぎができた。今後一緒に飲む用事もできたし。俺は心の中でガッツポーズした。
酌婦がボトルを持ってきたので受け取り、冒険者二人に酒を注いだ。
「ところで、二人とも相当な実力だろ。メンバーを募集して、
中級を目指す手もあったんじゃないのか?」
片方の冒険者がなぜかいやあと急に照れだす。
そこをもう片方の冒険者が肩をバシバシと叩きだした。
「俺たち、もともとは4人パーティだったんだ。
こいつな、冒険者なのに結婚しやがって。それでこの村に
腰を落ちつけると言い出したんだ。
中級を目指してたパーティだったから、みんなから反感を
買って解散になってしまったんだ」
お前が一緒に残ってくれて助かってるよ。と感謝していた。
「冒険者も一筋じゃいかないんだな……」
なんとなく思ったことが口に出てしまったわけだが、本当にそうだぜ。と二人が頷いてくれた。
その後、俺がこの村で何をしているかとか、もし冒険者だったら一緒にやれたかもな、と言われながら楽しく会話をした。
「まだボトルに少し残ってるから、二人で飲んでくれよ。
俺は眠くなってきたしそろそろ宿に戻ることにするから」
二人から、悪いな。またここで飲もうぜ。と言われて別れを告げる。
席を立ち、出口に向かって歩くと店主がカウンターから出てきた。
「いい情報手に入れたみたいだな。
しかしお前さん、思ったより聞き上手だな。
冒険者どもはあんまり食わないんだが、うちはほんとは料理の美味さを
売りにしてんだ。今度は普通の客としてきてくれよ!」
そう言って俺を見送ってくれた。
宿屋への帰り道、冒険者から聞いた話を整理した。
ダンジョンへ来るのは下級冒険者でも相当な実力の持ち主たち。
素行が悪く悪いうわさもある……ロードと相談して、しっかり迎え撃たなくてはならない。
明日朝早くにダンジョンへ戻るため、宿屋に戻ってすぐベッドに入った。
こんなはずじゃなかったのに・・こんなはずじゃなかったのに・・
2000文字程度のはずだったのにorz
※投稿が遅かった時の言い訳




