表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

メグミの想い

 智樹は今置かれている現状を、赤裸々に話した。女子高生は真剣に話を聞いてくれた。


「僕の高校の先輩教師が、自らの教え子に告白されたんだ。しかし先輩には婚約者が

いる。教師と生徒という関係の上に、さらに立ちはだかる壁。それでもメグちゃんは

この先生にアタックする?」

 彼女はしばらく考え込んだ。質問が難しいのは重々承知の上である。


「これってもしかして智樹さん自身の話ではないんですか?あまりにも話がリアルだ

から」

 鋭い所を突かれて、智樹は心の中で思わずうなった。この子なら何かいいアドバイ

スをしてくれるかもしれない。さっそく智樹は彼女に話した。隣で聡は黙々と訊いてい

た。


「智樹さんって偉いと思いますよ。そこまで真剣に受け止めてくれる先生ってそうい

ないですから。だから彼女はきっと幸せですね。でも智樹さんには婚約者がいる。ど

ちらかを選択するというわけにはいかない。やっぱり断るしかないですよね」

「そうだよね」

 同意見だったことに智樹はうれしく思えた。だけど杏には弱点を握られてしまって

いる。出会い系サイトという重大な秘密がある以上、大胆には行動できない。それに

杏には妙に惹かれる所がある。その理由を智樹本人は知っている。


「君がもしそういう立場にいたとしたら、それで納得できる?」

「多分無理ですね、私の性格だったら……」

 智樹の質問がシリアスだったのだろうか。メグミは頬杖をついて深く考え込んでし

まった。

「おいおい頼むから彼女を悩ますのは止めてくれよ。こう見えても一途な子なんだから」

 聡が割って入った。それでもメグミはまだ真剣に考え込んでいた。

「ああもういいよ。このことは忘れて。これから楽しく話そう」

 言い出したのは智樹だったが、メグミの態度が異様に真摯なのでこちらも戸惑って

しまった。この子はきっと猪突猛進タイプだなと思った。


 そういえば杏が気にかけていた子もメグミという名前だった。偶然なのかもしれな

いが、聞いてみる価値はありそうだ。

「メグちゃん、相馬杏っていう名前聞いたことがある?」

 それまでロダンの考える人のように、真剣に考え込んでいたメグミの手が止まった。

不意をつかれたようで、メグミはゆっくりと顔を上げた。

「どうして相馬杏を知っているんですか。彼女と何か接点でもあるんですか。突然そん

なことを聞かれても困ります」

 保健室で杏が語っていたメグミに間違いない。まさか親友の聡の彼女だったとは。で

もこの子が杏の言っていたメグミとするなら、とても似つかわない。どこにでもいるそ

のあたりの若者と変わらないのに。でも杏というフレーズを発しただけで、メグミが異

常に変化していくのが智樹にははっきりとわかった。


「僕の教え子だから」

「そうなんだ。だったら毎日杏と会えるんだね。加藤さんが羨ましいな」

 メグミの彼氏である聡はさっきからずっと蚊帳の外だ。智樹は悪いなと心の中では思

いながら、さらに話を続行した。


「杏は君のことを恐れている。良ければ何があったのか、僕に話してくれないか。二人

の力になれたらと思うんだ」

 メグミは哀しそうに首を振った。それは無理だと言わんばかりに。

「彼女は私をストカー扱いしている、無理もないです。ああいう行動を取ったら、誰

でも怖がるでしょう」

 杏からは身の毛のよだつ話も聞かされている。今は冷静なメグミだが、いったんス

イッチが入れば、別人となってしまうのだろうか。


「君にとって杏はすべてなの?」

「ええ、もちろんです」

この言葉にメグミの思いが込められていた。そして通常ではないことを智樹は身を

持って知らされた。なるほど、杏が怖がるのも無理もない。


「もうやめてくれないか」

 大声で叫んだのは聡だった。ついに怒りが限界に達したということだろうか。智樹も

ちょうど険悪な雰囲気になりかけていたので、助かったと思った。

「帰るぞ、メグミ」

 聡がメグミの手を引っ張っても、ぴくりとも動こうとはしない。彼女は僕をずっと

見つめていた。

「おいメグミ、しっかりしろ」

 体をゆすられてようやくメグミは聡の方を向いた。目がきょとんとしている。恐らく

会話に集中していたのだろう。


「あっ、ごめんなさい」

「もう帰るわ。今日はいい機会になると思ったんだけど、こういう結果になって残念だ。もう二度と智樹に会わせたりしないから。今日は悪かった」

不機嫌そうに聡が店を出て行った。智樹は一人取り残された。けれども智樹の前には、

まだメグミがいるような気がして、脳裏に残像が残っていた。なるほど印象の強い女の

子である。智樹は痛感させられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ