第13話 その死は誰のものか
白い空間の中で、俺たちは立ち尽くしていた。
目の前の存在は、もはや“天使”でも“悪魔”でもない。
ただ一つ、分かっているのは――
俺たちの悲劇も、喜劇も、
あいつにとっては“娯楽”でしかないということ。
「……おい」
沈黙を破ったのは、チャラ男だった。
「思い出せ」
低い声。
「……あの事故のことを」
事故。
その言葉で、記憶が浮かび上がる。
――彼女がバスに飛び込もうとした。
――そのバスを、あいつの車が追い抜いた。
――そして目の前で事故が起きた。
バスに乗っていた俺は、即死。
チャラ男は、恐らく衝突で。
そして――
その“因果の分岐”を作ったのが。
俺。
「……行き過ぎだ」
チャラ男が遮った。
「それ、違和感ねえか?」
「何か引っかかんねえのかよ」
……違和感?
確かに。
何かが、妙に引っかかる。
「……私は」
ポツリと、彼女が呟く。
「バスに、飛び込んだ……」
――!!
そうだ。
彼女は“バス”に飛び込んだんだ。
「そうだろ!」
チャラ男がすかさず言葉を重ねる。
「自殺の方法はバスだった」
「でも実際に死んだのは――」
あいつは、一瞬だけ言葉に詰まる。
それでも吐き出した。
「……俺の車だ」
沈黙。
つまり。
彼女は“死の選択”はしたが、
“死因”は事故。
「なら……消滅しないんじゃないか?」
「いや、分からねえ」
でも。
ここにいる理由は成立する。
少なくとも“自殺者”としての扱いは怪しくなる。
「……でも」
女性の声は震えていた。
「結果的に……」
「あなたたちの命を……」
「奪ったのは、私……」
俯く。
「事故を……起こしたのは……」
その言葉は、消え入りそうだった。
「……ごめんなさい……」
……違う。
違うだろ。
俺たちは。
あんたを責めたいんじゃない。
あんたを――
「フフッ……」
その思考を、断ち切るように。
そいつの声が入り込んできた。
「随分と変化しましたね」
「いつの間に“他者”を認識できるようになったのですか」
言葉の意味が、ゆっくりと沈み込む。
「歪な形が、整い始めています」
肯定でも、否定でもない。
だが。
“見られている”感覚だけが、確かにあった。
そして――
結論のように。
「あなたたちは、次へ進みます」
その一言が、落ちた。
第四世界。
三人で。
……よく考えれば。
消滅させるだけなら、
ここに連れてくる必要なんて無い。
娯楽のため?
……本当に、それだけか?
考えようとして――
やめた。
もう、いい。
どうでもいい。
俺たちは、
これから“あの世界”へ送られる。
それだけだ。
たとえそれが。
救いでも。
罰でも。
気づけば、
足元の“何か”が、変わっていた。
第1章 白い部屋 完
第1章は今話で完結となります。
第2章はタイトルを少し変更して連載する予定です。
しばらくお休みして再開予定ですので、よろしくお願いいたします!




