↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだはずの俺は言われた。『あなたもその事故の原因です』  作者: 神北 緑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/10

第1話 俺は自分が死んだことを自覚した


俺は、自分が死んだことを自覚した。


走馬灯なんて、あれは嘘だ。

記憶が流れることもなければ、感情が溢れることもない。


ただ、事実だけが頭の中に置かれる。

──死んだ。

それだけだ。


学校を卒業して、四か月。

社会人になったばかりの俺は、いつも通り通勤バスに乗っていた。


会社の始業は十一時十五分。


中途半端な時間のおかげで、バスはいつも空いている。

俺は右側の窓際、前輪の上の席に座っていた。

座り心地はあまりよくない。

揺れがダイレクトに伝わってくるから、少しバランスも悪い。


何となく窓の外を見ていた、その時だった。


一台の高級外車が、バスを追い越していく。

やけに速い。

そう思った次の瞬間――


その車は減速もせず、バスの前に割り込んできた。


「は……?」


運転手の声。


直後。


キィィィィィィィッ!!


ブレーキの悲鳴。

外車はスリップし、ガードレールに激突したまま、真横を向いた。


避けられない。


そう理解するより早く――


ドンッ!!


衝撃。


視界が白く弾けた。


体が宙に浮く。


俺はシートから叩き出され、そのまま前方へ――

運賃箱まで吹き飛ばされた。


そして。


――終わった。


頭に衝撃が走り、

そのまま、何も分からなくなった。


即死。


たぶん、そういうことなんだろう。



気がつくと、白い空間に立っていた。


何もない。

本当に、何も存在しない。


自分の足元すら曖昧な、白。


そこに、俺を含めて三人いた。


一人は――三十代半ばくらいの男。

高そうなブランド服に身を包み、どこかチャラついた雰囲気をしている。

ここに来る前と同じ格好なのか、妙に場違いだ。


もう一人は、二十代前半くらいの女性。

落ち着いた表情で、静かに周囲を見ている。


そして、俺。


なのに――誰も喚かない。


混乱も、絶望も、恐怖も。


まるで、そういう感情が抜け落ちているみたいに、静かだった。


ただ、「こういう状況だ」と理解だけが進んでいく。


俺たちは、死んだ。


それだけが、妙に自然に受け入れられていた。


やがて、声が響いた。


「お役目、ご苦労様です」


どこからともなく聞こえる声。

いや、違う。


頭の中に直接流れ込んでくる。


「皆さんは、第三世界での生を終えました」


抑揚のない声。

感情が感じられない。


「……やっぱり俺、死んだんだな。あんた、死神?」


自分でも驚くくらい、軽く口に出た。

怖くもないくせに、軽口だけは出る。


少しの間の後、声が返ってくる。


「第一声にしては、ずいぶん失礼ですね」


――笑っている。

そんな気がした。


だが、その姿は分からない。


見えないんじゃない。


“認識できない”。


そこにいるはずなのに、輪郭も顔も、情報として頭に入ってこない。


「死神は、“迎えに行く者”です」


「あなた方は、“送られてきた者”」


淡々とした説明。


けれど、なぜか逃げ場のない響きがある。


「私は、あなた方が進む場所を定義する者」


「死神という呼び方に合わせるなら――」


わずかな間。


「“天使”とでも言うべきでしょうか」



誰も何も言わない。


チャラそうな男も、

静かな女性も、


ただ、その声を聞いている。


――それが当然であるかのように。


短い連載となりますが、お付き合いよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。