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白銀が護りし緋の神子 ―銀嶺の秘鑰―  作者: おやまみかげ
春の折 これまでの白銀&人物・用語集

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1/3

初句 金霞の五星 ―前作から今作へ―


 帝都が眠りに着く頃、帝国陸軍特務部隊・白銀(しろがね)の8人は、夜行列車に揺られていた。

 今宵、帝都を脱して北上するために——。



 

「……(いこい)、そろそろ休んだら?」

「もう少しだけ、お外見ててもいい?」

「……もちろん。ただ、無理はしないでね」

「ありがとう。見て千歳(ちとせ)さん、星が綺麗だよ!」


 少女が窓の外を指さすと、隣に座る泡雪の青年がそれを見上げる。


「にしてもよー、なんか旅行みてえだな!!」

「テメェは本当にバカだな。空気読めよ」


 (れん)の軽い口調に、朔夜(さくや)が怒りを露わにする。


 彼らの所属する特務部隊は、帝国に跋扈(ばっこ)する吸血鬼(ヴァンパイア)を秘密裏に処理する組織。

 創設から25年が経ち、今宵は一般陸軍や華族も含めた記念晩餐会が開かれていた。


 しかし、事件はそこで起きたのだ——。


 政府がこれまで隠匿し続けてきた吸血鬼の存在。

 特務部隊の総司令である黄山(おうざん)の犯した罪。

 その孫である憩が持つ、吸血鬼を見抜く神子の力。

 そしてその血が、吸血鬼を強化する諸刃の剣であること。

 

 これらが全て暴露されたのだ。亡くなったと思われていた少女の実父・冬至(とうじ)によって——。

 

 世界が敵になったと判断した白銀は、千歳の故郷である北領(ほくりょう)へと向かっているところだった。

 

「はいはい、喧嘩しないでね」

「でも本当に旅行みたいよねぇ」


 憩の兄である(あさひ)が仲裁に入り、姉の(なごみ)が穏やかに乗っかる。


「ぼたんちゃん、北領ってどんなところかな?」

「さぁ……。私も行ったことはないからなんとも……」


 まだ見ぬ世界に夕梨(ゆうり)が目を輝かせ、ぼたんが顔を曇らせた。


「あ! ねぇ、千歳さん! 今の流れ星かな!?」

「……憩、危ないから座ってて」


 金色(こんじき)の瞳を輝かせながら、外を見つめる少女。

 まるで8人の旅立ちを祝うかのように、夜空には星が流れている。

 憩は静かに目を閉じると、そっと手を合わせた。


「……これでよし!」

「……何か願い事したの?」

「うん! 千歳さんもお願い事したら?」

「……僕は、憩が隣で笑っててくれたらそれでいいから」


 こんなこと、流れ星に願うまでもない。

 僕が絶対、この子を護る。そう決めたんだ。

 

「えへへ、それなら同じだね」

「……同じ?」

「うん! 私も千歳さんが笑顔でいられますようにってお願いしたの」


 ……どうして、自分が大変なときに他人のことを考えられるんだろう。

 自由になりたい。好きなことをしたい。普通の生活をしたい。

 そんなことを願ったって、誰も責めたりなんかしないのに——。


「……ありがとう。僕、憩のそういうところ大好きだよ」

「私も、千歳さんのありがとうって言ってくれるところ大好き!」


 まだ咲かぬ小さな恋を乗せたまま、列車は帝都から離れていく。

 憩の持つ神子の力と、千歳の名である寒凪(かんなぎ)の真実に近づくために——。


 


 *


 一方、晩餐会会場は大混乱に陥っていた。

 我先に逃げようとする者、政府の対応に不満を露わにする者、野次を飛ばす者。

 もはや収拾がつかず、ケガ人まで出る始末だ。


 そんな騒ぎに耳を傾けることもなく、冬至は大きなため息をついた。

 

「あーあ、お義父さんのせいで憩に逃げられてしまった……」


 黄山の血で濡れた純銀製のナイフをきつく握りしめる。


 ……僕の計画が狂ってしまったじゃないか。

 今日で叶うはずだったのに。今日で全てが元通りになるはずだったのに……!


 先延ばしになってしまった希望に、彼は隠すこともなく歯噛みした。

 

「冬至よ、お主は憩をどうするつもりなんじゃ」

「どうって、()()()にお渡しするんですよ」

「あの方……? まさか!」


 その時、コンコンと広間の窓が叩かれる。

 

 質の良いスーツを身に纏った、端正な顔立ちの若い男——。

 奴らを幾度となく目にしてきた黄山には、そいつの正体が何であるかは明らかだった。

 

「お主、吸血鬼(ヴァンパイア)と組んでおったのか!」

「御名答。もう少し早く気づけていたらよかったのになぁ」

「特務部隊としての誇りも、もうないのじゃな……」

 

 怒りで肩を振るわせる義父の姿に、冬至の口角が上がる。


「お義父さんは綺麗事がお好きですね。誇りだけでは何も守れないんですよ」

「そうかもしれぬな。しかし儂が捕まれば、(あかり)も終わりじゃ」

 

 隙を見て冬至を取り押さえようと、2人の周りには一般陸軍が待機していた。

 彼らも早く行動を起こしたいのは山々だったが、冬至の身体能力は並のものではない。

 加えて会場にはまだ多くの華族たちもいるため、下手に行動を起こせずにいた。

 

「大丈夫、安心してください。彼女は既に安全なところにいます。僕の大事な妻ですからね」

「それも、あやつの指示か……?」

「あの方をそんな風に呼ぶなんて不敬ですよ」


 冬至は1歩、黄山へと近づく。

 外では奴が不敵な笑みを浮かべていた。


「それではさようなら、お義父さん——」




 第2帖 銀嶺(ぎんれい)秘鑰(ひやく)開幕しました*\(^o^)/*

 

 初回なので、人物紹介&用語集もアップしております。

 今作から白銀に足を運んでくださった方だけではなく、

 前作のおさらい等に使っていただけますと幸いです⭐︎


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