第2章 花沢はモテる
高校生の間で話すことで一番多いのって結局恋バナだ。私だって興味はあるし、聞くのは楽しい。けど、本気の恋というものはしたことがない。
「花沢くんってさ、やっぱかっこいいよね。」
そう話しているのはクラスで一番仲のいいゆかりだ。ちなみにゆかりは彼氏持ちである。
「うん、確かにそうかも?」
「かもじゃなくてかっこいいでしょあれは。あんた小学校から同じでよく好きにならないね。」
「まあかっこいいとは思うよ?実際なんでもできるしモテるのも納得です。」
花沢螢一は、小学校からのいわゆる腐れ縁というやつだ。頭脳明晰、運動神経抜群、高身長、端正な顔立ち、まあモテない方がおかしい。何度か出かけたりしたことはあるし、普通に話はする。けど、恋愛感情を持ったことはない。
「香苗は彼氏ほしくないの?」
「ほしいよ!けどさ、こう思ってたのと違うっていうか、、私はさ、」
私はずっと少女漫画のような恋をしたいと思っていた。運命的な出会い、そしてすれ違い、キスまでの長い時間、下の名前で呼ぶ恥じらいなどなど、それなのに現実はみんな簡単に下の名前で呼ぶし、キスどころか体の関係もすぐに持ってしまう。私がしたいような恋愛はできないのだろうか。
「香苗はさ、自分でも気づいてないけどわりかしモテるんだから早く彼氏作ってよね、そしたらダブルデートできるし!あっ、彼氏校門で待ってるてさ、うち行くね」
友人の軽薄な言葉を聞き流しながら、私は校門へと向かう。
その時だった。目の前の視界が、ぐわんと揺れた。
「ったっ……!」
鈍い衝撃とともに、視界の端にオレンジ色の物体が転がる。バスケットボールだ。
――痛っ、……と、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「わりぃ、わりぃ。佐倉、大丈夫か?」
差し出されたその手よりも先に、私は視線を上げた。
――花沢くん。
乱れた髪、少し汗ばんだ首筋。バスケットボールを抱えた彼は、やっぱり目を奪われるほど綺麗だった。
「お前部活今日ねーの?」
「そうそ、なんか顧問が休みらしくてさー早く寝たいし帰るところ」
「そか、実は俺も今日部活ねーんだ、いっしょかえろーぜ」
「いいけど…」
小学生の頃は気にせず帰ってたけど、今帰ると色々噂されるのでは…まあ気にしても仕方ないか。それにしても花沢くんを改めて見ると本当になんて綺麗な顔しているのだろうか。思わず見惚れてしまう。
「あんたってほんと綺麗な顔立ちしてるよね、ずっと見てるといいことありそうだわ。」
「何言ってんだよ、気持ちわりーな、顔の造形なんかどうでもいいだろ、」
「あんたねえ、てか今日もあたし告白されてるの見たんだけど少しも女の子に興味ないわけ?」
「ねえよ、あいつらとバスケやってるのが一番だ、第一女心とか理解するのもめんどくせーしな。」
「もーこれだからモテる男ってのは」
「で?そういうお前は?すきなやつでもいんのかよ。」
「いないけど、、まあいつかいるはず。」
「なんだよそれ、まあいいや、俺家こっちだからじゃあな。」
十字路で、花沢くんがひらひらと手を振る。彼が自分の家の方向へ背を向けて歩き出すのを、私はしばらくその場で見送ったのだった。




