初陣パーティー
一番書きたかったシーンです!よろしくお願いいたします!
パーティー会場では、噂の「英雄騎士」と「出戻り」姫の登場を、貴族たちが今か今かと待ち構えていた。
英雄騎士ジークと言えば、今や社交界で知らない者などいない有名人である。
昔はいろんなパーティーで浮名を流していたが、ここ数年はパタリと参加しなくなった。それがここへきて、帝国に嫁いだはずの末の姫との結婚話である。誰もが興味津々だった。
しかもその結婚相手である「出戻り」のアリア姫と言えば、デロイ王の治世にて「存在しない姫」などと揶揄されていた人物である。先王に目の敵にされていたせいで一度も社交界に顔を出しておらず、デビュタントすらしていない彼女は、神秘のベールに包まれており、その容姿すらも知る者は少ない。
なぜデロイ王にあれほど疎まれていたのかを正確に理解している者もほぼいないため、性格や容姿に難があるのだろう、という噂もあった。
それなのに、あの「英雄」と結婚だなんて!と、一部の淑女たちからは妬みや嫉みを、意地の悪い者からは邪な視線を向けられていた。
――――が、それらはすべて、当人たちの到着によって、吹き飛ぶことになる。
「此度の戦の英雄、ジーク・フリジア伯爵、ならびにアリア・リリー・グレタナ姫のご入場です!」
扉の近くに立つ執事が高らかに告げると、全員が視線を向けた。
そして、息をのむ。
そこには何とも見目麗しい男女が、仲よさげに寄り添いながら立っていたからだ。
緊張している様子の女性は、まるで月の妖精のような輝かしい美しさを放っており、その様子を信じられないほど優しい目をして、「英雄騎士」が見つめている。
しんと静まりかえった会場に動揺する女性に、ジークは顔を寄せ、耳元で何かを囁いた。
すると、女性は真っ赤な顔をしてジークを小突く。その仕草の愛らしさに、会場中の男性がくぎ付けになった。
「まあ、なんて素敵なお二人なのかしら…!」
「まさか、あの美しい女性がアリア姫様なのか…!?誰だよ、醜すぎて先王に疎まれた、なんて言ったのは!」
「うひゃあ、団長があんな顔するなんて信じられん!戦場では獰猛な獣より恐ろしい顔をしているのに!」
紳士淑女、果ては騎士団の騎士たちに至るまで、口々に驚きと称賛の声を上げた。
ジークに想いを寄せていた貴婦人たちは、ぎりぎりと歯を噛み締める有様だ。
――――美しい姫アリアと、それを愛おし気に見つめる英雄騎士ジーク。帝国からの姫の帰還と此度の結婚話……。
その場にいた者は、すべての辻褄がカチリ、と合うのを感じていた。
――――英雄騎士は、この姫のために戦っていたのだ、と。
まるで吟遊詩人の語る恋愛物語のような展開に、多くのものが感嘆のため息をついたのだった。
***
入場してすぐ、しんと静まりかえった会場に、アリアは動揺した。
(な、なに…!?やっぱりどこか変なの、わたし!?)
屋敷から道中に至るまで、しきりにジークに褒められたせいで油断していたが、もしやどこかおかしなところがあるのだろうか、と内心冷や汗をかく。すると、ジークがそっと顔を近づけてきた。
そして、耳元で告げる。
「やっぱり、あんたが一番きれいだ」
「!!!???」
とんでもなく甘い声音で囁かれて、アリアは頬を真っ赤に染めた。またしてもうまく言葉出なかったので、ぺしりとジークの頬をたたき、引きはがす。
その仕草に周りの男性陣が見とれたのに気づき、ジークは軽く舌打ちした。
「ちっ…やっぱりこうなったか…」
「え?なに?」
「いーや、なんでも。いいか、会場では絶っっ対、俺から離れるなよ、アリア」
さりげなく名前を呼ばれて、アリアはかなり動揺した。ジークが彼女の名前を呼ぶことなど、今までなかった。急に距離を縮められた気がして、落ち着かない。
とりあえずこくこくと頷くと、ジークは満足気な顔をして歩き出した。アリアもその腕につかまり、エスコートを受けながら付き従う。
(なるほど…これがパーティー)
始めて参加する華やかな舞台を、アリアは興味津々で見渡した。
華やかな衣服に身を包んだ紳士淑女に、豪華な会場、おいしそうな食事…見るものすべてが新鮮だ。
彼女にとっては、実質デビュタントのようなものである。今夜用意してもらったドレスも、そのあたりを意識してくれているのだろうと考えていた。
「この後、陛下が入場して、なんか一言二言くらい話すから、その後はダンスだな」
「なるほど…」
教えてくれたジークの声に頷きながら、再び頭の中でダンスのステップを復習する。
アリアにとってダンスこそが一番の難関である、とこの時は思っていたのだが…その後登場したディートリヒの言葉によって、大慌てすることになる。
新国王ディートリヒが登場すると、全員の視線がそちらへ移った。彼は優雅にほほ笑みながら、良く通る声で話し出す。
「皆、よく集まってくれた。今宵は、帝国の悪しき歴史から各国を開放するために、素晴らしい活躍を見せてくれた騎士諸君を労うための催しである。…さて、催しの前に、今一度皆に紹介しておくべきであろう。ジーク、アリア、こちらへ」
大勢の前で名指しで呼ばれ、アリアは動揺した。が、ジークが当然のようにディートリヒに向かって歩き始めたので、何とかついていく。
2人が目の前に立つと、ディートリヒはいたずらが成功したような顔で、アリアに対して、こっそり笑みを浮かべた。
アリアが(やられた…!)と思う間もなく、再び口を開く。
「さて、すでに知っている者もいるかと思うが、我が末の妹、アリアは長年の間、愚かな先王の振る舞いにより、帝国にてイフリード帝に人質同然に捕らわれていた。…しかし、ここにいる騎士団長でもあるフリジア伯爵の尽力により、悪しき帝国と先王デロイを討ち、無事に大切な妹を取り戻すことができた」
いけしゃあしゃあと述べるディートリヒに、アリアは閉口した。なんだ、その吟遊詩人のような語り口は、と内心呆れる。まるでアリアが嫁いだのではなく、誘拐されたかのような言いようではないか。しかし、ディートリヒの演説は止まらない。
「そして、此度の戦の褒章として、フリジア伯爵たっての願いで、二人の結婚をここに認めることとする!」
高らかに宣言され、アリアは「ちょっと…!」と声を上げようとしたが、その直前に信じられないほど大きな歓声が上がり、驚いて固まった。
「わ~!おめでとうございます!」
「まるでおとぎ話のような!なんてめでたいのでしょう!」
「すばらしい!」
会場全体からの盛大な拍手と、各所から聞こえる祝福の声に、表面上はにこやかな表情を装いながらも、アリアは内心がっくりと肩を落とす。
(外堀を完璧に埋められてしまった…!)
はっと横を見れば、ジークは満面の笑みを浮かべて声援を受けている。手を振り返すほどの余裕ぶりだ。
「ジーク!あなた、さては共犯ね!?」
「人聞きが悪いなあ…全部事実だろう」
「わたし、誘拐されたわけじゃないわよ!」
「ま、そこは観客にウケのいい表現に変えて下さった陛下に感謝だなあ」
飄々と言われて、アリアは顔をしかめた。
まだ自分自身も飲み込み切れていない状況を、強制的に喉奥に入れられたことになる。
こうなってしまえば、もう動かすことはできない。
「それでは、宴を始めよう」
ディートリヒの締めの一言で、楽隊が音楽を奏で始める。
高位の貴族たちや、武勲を上げた騎士たちが、それぞれパートナーを伴って、ダンスフロアに滑り出る。当然、アリアたちも最初に踊ることになるので、ジークに引っ張られて、アリアは慌ててダンスフロアに出た。
そのまま、流れるようなリードで、ジークがアリアを導く。
自然で優美な動きに、アリアは目を見開いた。
「ジーク…本当に踊りが上手なのね」
素晴らしいリードに安心して身を任せながら、アリアが感嘆の声を上げると、ジークはにやりと笑った。
「練習したんだ。全部あんたと踊るため」
「…嘘ばっかり…」
アリアは昔に想いを馳せながら、すねたように呟いた。
――――3年前まで、アリアはジークがいるであろう会場を、部屋の窓から一晩中眺めていた。
彼は今宵、誰と、どのような時間を過ごすのだろうか…そんなことばかりを考えていたので、読書にも集中できなかったほどだ。
本当はジークを送り出す度、胸が締め付けられていたが、当時のアリアには何も言う権利がなかった。
自分は血筋こそ姫だけれど、何も持ってはいない…。英雄であるジークの未来を、勝手に縛ることなどできるはずがない、といつも諦めては、ため息をついていた。
(それなのに…今はジークと踊っている…。私が、ドレスを着て…このお城で…)
アリアは今ようやく、自身に起こった変化を身に染みて感じた。
自分は帰ってきたのだ。姫として、ジークの元へ…。
ジークに導かれ、アリアはまるで、夢のような時間を過ごした。
いつも読んでいただきありがとうございます…!
次回から少しずつ物語が動き始める予定です!たぶんまた明日投稿できるかと!
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引き続き何卒よろしくお願いいたします。




