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戦(?)への支度

1週間も空いてしまいました…!更新がなかなか安定せず申し訳ございません。


よろしくお願いいたします。

「戦勝記念パーティー?」


朝食のフレンチトーストに手をつけていたアリアは、きょとんと聞き返した。ジークは朝から大量の肉を食べるためにナイフとフォークを動かしつつ、頷く。


「そ。まぁ、クーデターに参加したやつらの慰労会みたいなもんだな」

「ふーん、そういうのがあるのね。行ってらっしゃい」

「なに言ってんだ、あんたも行くんだよ」


雑に切った肉をすごいスピードで口に入れながらあっさりと言われ、自分が行くなど全く予想していなかったアリアは「え」と瞠目した。


「行くって、わたしが?パーティーに?」

「だから、そう言ってるだろ」

「無理」

「そう言われてもな。英雄の奥さんになるわけだし」


にやにやとするジークの言葉に、アリアは頬を少し染める。

あのデートの日以降も、ジークの猛攻は続いていた。

しかもいまは終戦後の事務処理がメインのため、彼はほとんど邸宅から出ないので、必然的にほぼ四六時中顔を合わせる状況だ。

油断すると、このようにすぐ甘い言葉を吐かれるので、アリアは気が抜けない日々を送っている。


「なっ...!でも、わたしダンスも踊れないし!ドレスも...!」

「ダンスは俺がエスコートするんだから、基礎だけ覚えりゃ、なんとかなる。ドレスはこの間作ったろ?」

「え、いつ?」

「マダムと楽しそうに話してたじゃねぇか」


言われてアリアは頭を巡らせ...そして思い至った。確かに、そんなことがあった、かもしれない。


数日前、ひとりの女性がアリアを訪ねてきたのだ。

彼女はジークの知り合いのデザイナーだと名乗り、その仕事に興味を持ったアリアは、持ち前の好奇心から、色んなことを質問した。

終始楽しく過ごしたつもりだったが、よくよく思い出すとアリアの質問に答えながらも、彼女は色の好みやドレスのデザインに対する意見を求めてきていたような...よく覚えてないが採寸もされた気がする。


「わたしとしたことが...!まさかあの一瞬でドレスの製作に必要な情報を取られたというの...!?」

「いや、むしろあの状況で気づいてなかったことに驚いたわ。あんた、相変わらず夢中になるとダメだな」


呆れたように言われ、アリアは「うっ」と狼狽えた。


帰国して以降、アリアは少しずつ「本来の自分」を取り戻しているのを感じていた。

帝国にいる間は、常に気を張り詰めていたので本を読む機会も減っていたし、会話もリーゼロッタやイフリード以外とはほぼしていないといっても過言ではない。


それが「出戻って」からは、180度違う生活だ。屋敷には使用人も多いし、ジークも四六時中そばにいて話しかけてきたり、触れてきたりするのが常で、休まる暇もない。しかも、今は特にやることもないので本を読む時間も十分にある。


本を読めば、気になることが増える。気になることは、わかるまで突き詰めたい。

幼い時分から消えることなく燻っていた持ち前の「知的探求心」が、またメラメラと燃えるようになってきたのだ。


(い、いけない…浮足立ってしまっているわ…!)


アリアは気持ちを引き締めるべく、きりっと表情を改めた。


「と、とにかく…パーティーなんて無理よ。貴方も知っていると思うけど、私は生まれてから一度もそういう場に出たことがないのよ?作法だってわからないし、社交だってしたことがないし…それに第一、私は『出戻り』なんだから!」


実際のところはどうであれ、一度嫁いだ身でありながら、再び舞い戻ってきてしまった自分が、この国の貴族に受け入れられるとは思えない。

彼らの常識からしたら、憎き帝国から出戻って早々に、英雄の元へ嫁ぐことになった自分など、嫌悪を抱かれても仕方がない、とアリアは考えていた。


しかし、ジークは全く納得する様子もない。むしろ「だからこそ、だろ」と眉根を寄せた。


「事実がよくわかんねえから、みんな好き勝手に言うし、テキトーなことを考えやがる。けど、英雄である俺の『愛しい妻』なんだってこと、きちんと公言すりゃあ、話は別だ。言っておくが俺の影響力は前王時代の第二王妃にもひけをとらねえぞ?俺が白と言ったら白なんだよ、今は」


堂々と言われ、アリアは頭を抱えたのだった。



***



それからパーティー当日までの日々は怒涛の如く過ぎて行った。


まず、アリアの出席を聞いたナニーは大変な喜びようで、準備への意気込みが半端ではなかったのである。毎日お風呂でピカピカになるまで磨かれ、香油を使ってマッサージを行い、髪の毛も入念に手入れをされた。


(よくよく考えてみれば、ナニーにとっても姫付きの侍女らしいことをするのは初めてなのよね…技術はあるのに、私が美容に関心がなかったことも相まって、申し訳ないことをしたわ…)


先王デロイはアリアに対して法律で定められた最低限の予算しか与えていなかったのもあって、食費など必要不可欠なものをどうしても優先するしかなかった。しかも、どうせ見せる相手もいないし、とアリア自身もドレスなどの宝飾品や美容に一切なにも費やさなかったのである。

王室付きの侍女としては、やるせない思いもあっただろう、とアリアは今更ながらに思った。


なので、ナニーの好きにさせていたのだが、それはそれでハードである。

マッサージは大変気持ちがいいものではあるものの、まったく容赦がないのも事実なので、今までされなかったことをたくさんされて、アリアは日に日に気疲れしていった。


それに加えて、ダンスレッスンである。

アリアは招かれないのをいいことに、本当に一切、ダンスに触れたことがない。履いたことがないくらい高いヒールの靴に、ひらひらのドレスを着て動いたことなども、当然ないので、これは慣れるまで気力・体力ともに相当な量を消費することになった。


ジークは覚えなくていいといったが、念のためにと、意地になって貴族の顔と名前を覚える作業も追加したので、アリアは本当に目を回しそうになった。

記憶力も運動神経も悪くはないが、それでもオーバーワーク気味である。


「知らなかった…パーティーって、戦場なのね…!」


思わず叫ばれたアリアの一言に、ジークが腹を抱えて笑ったのは言うまでもない。



***



パーティー当日、アリアは、準備を終えた時点で満身創痍であった。


朝からナニーに磨け上げられ、香油を塗られ、ヘアセットに化粧に、コルセット(これは忌むべきものだとアリアは思った)…そして美しいドレスに踵の高い靴。

今までの人生で、身支度にこれほどの時間をかけたことなどない。


しかし、全ての支度を整えられたアリアを見て、ナニーをはじめとするフリジア伯爵邸のメイドたちは感嘆のため息をついた。


アリアは誰が見ても美しい女性である。

今回、黒色の美しい髪の毛は丁寧に結い上げられ、ところどころに真珠のピンと、白い花を挿して飾り立てた。元々、肌は白く美しいので、化粧は最低限だが、それがかえって、彼女の清廉さを引き立てている。

加えて、例のマダムが作り上げたドレスが、アリアに大変よく似合っていた。

デビュタントを思わせる白い滑らかな布に、彼女の瞳に合わせて金糸で、美しく、上品な刺繍が至る所に施されているのである。少し短めの裾や袖から覗く、細く長い手足も彼女の魅力を最大限に引き立てていた。


「アリア様…!大変お綺麗です!きっとパーティーでも一番です!」


ナニーが目を潤ませて叫ぶが、よくわかっていないアリアは、困惑しながらも頷いた。


「と、とりあえず…みんな、準備を手伝ってくれてありがとう。うまくやれるかわからないけど、精一杯頑張ってくるわ…!」


頭の中で、覚えたてのダンスのステップを反芻しながら気合を入れていると、部屋のドアがノックされる音が響いた。廊下にいたメイドから、ジークが迎えに来た旨を告げられたので「どうぞ」と声をかけると、そっと扉が開いた。


「よう、姫さん、支度はできたか―――――っ!?」


入るなり、なぜか目を見開いて固まったジークを不思議に思いながらも、現れた彼の姿に、アリアは目を奪われた。


彼はいつもの騎士服ではなく、パーティー用の正装に身を包んでいる。

いつもは無造作な銀髪もオールバックにし、涼やかな銀色の瞳と精悍な顔立ちがあらわになっていた。

よく見ると、カフスや袖口の刺繍などが、アリアの瞳を思わせる金色で統一されていることに気づいて、アリアの胸が高鳴る。


お互い惚けたように見つめ合う2人を見て、ナニーやメイドたちは満面の笑みを浮かべた。

2人が何を考えているのかが手に取るようにわかったからだ。

全員が(いい仕事したわ~)と内心で満足げにしていることを、当人たちだけが気づかずにいる。



――――――先に正気に戻ったのは、ジークであった。


彼は耳を赤くしながらもはにかんだように笑い、アリアにそっと近づいた。

彼女の手をとり、その甲にそっと唇を寄せて、目を細める。


「姫さん…いや、アリア、すごく綺麗だ…。他の誰にも見せたくないくらい…」


うっとりと見つめられて、アリアは顔を真っ赤に染めた。

何とか言葉を返そうとするものの、何も出てこず「うっ」とか「あう…」などのよくわからない音だけが口から出た。

そんなアリアを愛おし気に見つめながら、ジークはごく自然な流れで彼女の額にもキスを落とす。


「うーーーん、まじで誰にも見せたくねえけど…行くかあ…」


かなり本気の声音でつぶやかれて、アリアはやはり何も言えなくなってしまったのだった。

活動報告にも書きましたが、続きを書きながら、少しずつ過去投稿部分も見直しておりまして、アリアの心情を深堀りするべく、加筆をさせていただいた部分がございます。


読まなくても話には全く問題はございませんが、もしよろしければチェックしてみて下さい。


なかなか書き溜めることができずにまばらな更新で恐縮ですが、もしよろしければ評価などをしていただけますと大変励みになります…!

次回は明日上げられる予定です…!


よろしくお願いいたします。

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