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恋人のように

投稿設定間違えてしまったようで、日が空いてしまい申し訳ございません…


糖度、糖度…と唱えながら書きました!よろしくお願いします。


こちらも少しだけ加筆いたしました(2022.11.7)

あれよあれよという間に連れ出されたアリアは、いま、ジークが操る馬に同乗し、彼に抱きかかえられるような形で前に座っていた。


ぽくぽくと進む馬上で景色を眺めていると、至るところに変化がみられて、急なことに動揺していたことも忘れ、アリアは目を見開いた。


「すごい、随分綺麗になったのね...!」


3年前、アリアがまだこの国にいた頃は、デロイ王の治世で多くの国民が疲弊していたため、街は汚れ、浮浪者や孤児も多かった。


しかし、今は街並みは綺麗に整えられ、花や木々も咲く、美しいものに変化している。


「ディートリヒ様が、母方のご実家の侯爵家の商会を窓口にして、色々やったみたいだな。俺は騎士団の『掃除』しかしてねぇから、よくわからねぇけど...っと、もう着くぞ」


なんだか怖い言葉が聞こえた気がしたアリアが聞き返す間もなく、ジークは馬を止め、さっさとおりた。

そのまま「ん」と手を差し出す。


「え、なに?」

「一人じゃ降りらんねぇだろ、抱っこしてやるよ」

「だっ...!?」


わたわたと慌てるアリアに小さくため息を着くと、問答無用で彼女の腕を引っ張る。「わっ!」と小さく悲鳴を上げたアリアをそのままぎゅっと抱き締め、地面に下ろした。


「軽いなぁ、もっと食えよ」

「ジ...ジークほどは無理だと思う...」


真っ赤な顔で、そう返すのがやっとなアリアであった。



***



「来る途中、色々考えたけど…とりあえず、こういうところのほうが姫さんも嬉しいかなって」

「わあ…!」


そう言ってジークがアリアを連れてきたのは、街の古書店だった。

アリアはとたんに目をキラキラと輝かせ、ものすごい勢いで入店すると、店内をきょろきょろと見渡す。


店内をびっちりと埋め尽くす大量の本を目の当たりにして、アリアは「くう…っ」と唸った。


「なんてこと…!天国はここにあったのね…!」

「大袈裟だなあ…まあ、喜んでもらえたなら何より。好きなもんを好きなだけ選べよ」


そこからアリアは、夢中で本棚の間を渡り歩いた。


「すごい!歴史学から魔法薬論まで…こんなにたくさんの種類があるなんて。あ!この本、初版だわ!確か規制が入って改稿されたものだったはずだから…今流通している最新版と比較したらとても面白そうね…なんてことなの!こんなに希少な本が乱雑に積まれているわ!お救いしなければ…」


ぶつぶつとつぶやきながら、気になった本を取っては読み、欲しいものは店主に預け…という作業を何度も繰り替え下後…はた、と我に返る。


(た、大変…!すっかり夢中になって、ジークを放置してしまった!)


アリアは昔から、本を目の前にすると少し性格が変わる。普段はマイペースであまり表情も動かないが、夢中になるとその金色の瞳をキラキラと輝かせ、よく喋るようになる。いわゆる「オタク」なのである。

今回も自分の世界に浸ってしまっていた自分に気づき、アリアは慌てた。


「ジーク、ごめんなさ――――」


謝ろうと思って振り返ったアリアは、そのままの姿勢で固まった。


視線を戻した先で、ジークは本棚にもたれかかりながら、じっとアリアを見つめていた。

その瞳があんまりにも優しくて、温かくて…


アリアまた、顔が熱くなるのを感じた。


「な、なんで見ているの…」

「ん…可愛いなって思って。あんたはそうやって、本に夢中になって、きらきらしてて、笑ってるのが一番いい」

「そ、そう…」


真っ赤になって俯くアリアの頬を、指でそっとなでると、ジークは優しく微笑んだ。


「もう、一通り見終わったか?」

「うん…」

「じゃ、店主に預けてるやつ買ったら、次行くぞ」

「あ、うん、ちょっと待ってね。勢いで渡しちゃったから、ここから厳選して…」

「時間がもったいねえし、いいよ。全部買おうぜ」

「ええ…!?」


そう言って店主のところに行こうとするジークを慌てて追いかける。

改めて確認すると、数十冊はありそうだ。


「ジーク!こんな量はさすがに…!大変な金額になるわ!」


叫ぶアリアの頭をぽん、となでると、ジークは事もなげに言った。


「別に…これくらい大した事ねえよ。俺が何年戦場にいたと思ってるんだ?使い道のねえ報奨金が山ほどあるんだから、俺が使いたいように使う」


そして、瞬く間に手続きを済ませると、買ったものを屋敷に届けるよう頼んで、アリアの手を握って歩き出してしまう。


「ジーク!次はどこに…!?」


ごく自然につながれた手とジークの顔を交互に見ながら、アリアは動揺した。

彼女の混乱を知ってか知らずか、「ん~」などとのんきに返しながら、ジークは歩みを進めてしまう。


「なんか、腹減ったな。…カフェにでも入るか」


言われてみれば、アリアも小腹が空いてきたような気がする。かなり長い間古書店で時間を使っていたようで、気づけばお昼の時間をとうに過ぎ、ティータイムに入っていた。



***




次にジークがアリアを連れて行ったのは、中心地にある、綺麗なカフェだった。

ここに来るまでに道も、かつてとは比べ物にならないくらい明るく、発展していたので、アリアはまたしても驚いた。

カフェも、かなり新しいようで、美しいケーキが並ぶショーウィンドウに、目を奪われる。


ジークが慣れた様子で店内に入ったので、アリアはドキドキした。街にあるお店で何かを食べるのも、初めてだ。

そして、渡されたメニューを見てまた目を見開く。知らないお菓子がたくさんあったからだ。


(知っているお菓子でも、聞いたことのないフルーツを使っているものがたくさんある…!シュークリームってどういうお菓子?…ロールケーキ…?名前からすると、クロワッサンみたいなものかしら…)



一方、新しいお菓子の名前を見ながら思考の海に沈んでいくアリアを見て、ジークは内心、ほっと息をついた。


再会してから数日、ジークが彼女に対して最も変化を感じた部分が、彼女持ち前の探求心についてだ。以前の彼女は、気になることがあるととことん考え、調べつくすタイプだった。

だが、帰国してからの彼女にはあまりそういう様子が見られない。ジークは何となく、気持ちの問題なのではないかと思っていた。

イフリード帝のもとで過ごした3年間が、アリアの心に暗い影を残していることは気づいていた。あまり多くを語りたがらない彼女に、あえて問いただす必要はないとは考えていただが、それでも今のようにキラキラとした瞳で頭を働かせるアリアを見られると、安心する。


自然と表情が緩んだジークが、じっと自身を見つめていることに気づき、アリアはまた固まった。


(ま、また見られている…!)


アリアは、いまだに2人の結婚に対するジークの意思を計りかねていた。

それくらい彼女にとって、彼の変化は急なものだったので、信じきれないのだ。

でも、再開してからちょくちょく向けられる瞳を見ると、そこに灯るほのかな「熱」のようなものに当てられ、動揺してしまう。


(ジークって…本当に私のことが好きなの?)


しかしそこで、メニューから顔を上げたアリアに気づいたジークが、店員を呼んだので、一度思考を放棄し、慌てて注文をする。

アリアは気になって仕方がないシュークリームと紅茶を、ジークはスコーンとコーヒーを頼んだ。


運ばれてくるのを待つ間も、ジークの視線を直視できず、アリアはずっともじもじしていた。


「ジ、ジークはこういうところによく来るのっ?」


気まずさに耐えかねて質問すると、苦笑を返される。


「来るわけねえだろ。こんなところに俺みたいなやつが一人で来てたら、不気味だろうが」

「えっでも…」


アリアは疑問に思った。3年前のジークのモテ具合を考えるとおかしい気がした。きっとどこぞのご令嬢やら貴婦人やらとお忍びで来ていたのではないかと考えたからだ。

当時、彼から時々漂っていた白百合の香りを思い出して、アリアは自身の胸がつきりと痛むのを感じた。


不自然に黙り込んだアリアを見て、ジークはため息をつく。


「何を考えてるのか手に取るようにわかるな…言っとくけど、俺が一緒に街をこんな風に歩いたのは、昔からあんただけだよ。どんな噂を聞いたのか知らねえけど…ここだって、前にジェイドが恋人と行ったって自慢してきたのを覚えていただけだ」

「そ、そうなの…」


自分だけ、という言葉に少しだけ浮足立った自分に気づき、アリアは動揺した。


――――アリアは、自分を好きだというジークとどう向き合ったらいいのかわからなかった。


よくよく思い返してみれば、3年前のあの日々、アリアはジークのことが好きだったが、一方で、常に「彼と結ばれることはない」という前提で、幼い恋心を温めていた。

デロイ王のせいでいつ死ぬかも、いつ誰に嫁がされるかもわからない、不確かな日々の中で、実際にジークが自分を見てくれる可能性なんて、つゆほども考えたことがなかったのだ。


自分も、きっとジークも、あの頃と全く同じではない。変わってしまったところがたくさんあるのに、当時のように素直に「恋」や「愛」をさらけ出すこともできないし、それに…



――――お前はもう、どこにも行けぬ。お前の力は血を呼ぶぞ...。



イフリード帝の真っ赤な髪が脳内で揺れ、アリアの背筋を冷や汗が伝った。

その時、注文していたものが運ばれてきたので、慌てて意識をそらす。



シュークリームというお菓子は、見た目はスコーンのようなものだったが、パイ生地のようなもので、中にクリームが入った新しいお菓子だった。ジークによると、新しいお菓子や料理の開発も、ディートリヒが推し進めた「技術開発」に含まれていたのだという。

これらのお菓子もその一環で誕生したものなのだろう。


手でつかんで食べるものだと言われて面くらったものの、持ち前の探求心で、アリアは言われたとおりにかぶりついた。

途端に、中からあふれたクリームに目を輝かせる。


(なんて甘いの…!おいしい!口の中であっという間にとろけてしまったわ…!)


感動に打ちふるえていると、見ていたジークが笑って手を伸ばしてきた。

そのまま、唇の横にそっと触れられる。


「ついてる。…こういうのは新鮮だな。可愛いから、どんどんやってくれ」

「!!!???」


そのままぬぐったクリームをぺろりと舐められ、アリアが目を回したのは言うまでもない。



その後、カフェを出た二人は、手をつないだまま馬のところまで戻り、帰路についた。

ジークはアリアを部屋の前まで送ると、驚くほどスムーズに近寄ってきて、彼女の頬にキスをした。


「…こういう日もたまにはいいな。また行こうぜ。…おやすみ」


そう言って細められた目があまりにも優しくて、蠱惑的で…

アリアはその日、なかなか眠りにつくことができなかった。

なんか、私、ヒーローにヒロインの口元のクリームぬぐわせがちです笑

先日投稿した短編「幼なじみ騎士の~」でも似たようなシーンが…

いちゃいちゃシチュエーション、もっと増やせるようにガンバリマス…

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