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兄王からの提案

ようやく恋愛ファンタジーの入り口に踏み込みます…!よろしくお願いいたします。


淡々と話すディートリヒの言葉を、アリアは静かに聞いていた。

そして話が終わってからも、黙ったまま、俯いている。表情の読めない彼女の代わりに反応を返したのは、しれっと一緒に聞いていたリーゼロッタである。


「グレタナ王国新国王ディートリヒ陛下、発言をお許しいただけますでしょうか」


おっとりとしたその優しい声音で、彼女の存在を思い出したディートリヒは、驚きながらも、頷いた。


「もちろんです。芸術の国ユーディアの姫、リーゼロッタ嬢」

「あら!その呼び方は、本当に久しぶりですわ!お見知りおきいただけて光栄です!」


にっこりと笑ったリーゼロッタは、表情を一転、不安げに問いかけた。


「イフリード帝が倒れた今、皇国はどうなるのでしょうか…?後宮には、殿下の仰る通り、私たちを含めてたくさんの姫がいるのですが、その処遇は…」

「皇国はこれから、少しずつ解体されます。奪われた領地も各国に戻し、元々あった土地も戦勝国で分けることになっています。後宮の姫たちは、もちろん、手厚く保護するつもりです。輿入れしたとはいっても、その実、イフリード帝の『妻』としての役割を担っていた妃はごくわずかだと聞いていますが…」


気遣うようなディートリヒの問い受けに、リーゼロッタは神妙に頷いた。


「その通りですわ。皇国の妃たちは大きく分けると上級妃、中級妃、下級妃の3つに分けられます。イフリード帝のお世継ぎを生む役割を持っていたのは10人いる上級妃の一部だけです。今は3人のみですわ。その方々はいずれも皇国の上位貴族で、それぞれイフリード帝との間にお子がおります。そのほかの妃たちは、その能力や立場によってそれぞれ異なる役割を与えられていたのです。あ、ちなみに私とアリアは、上級妃ですが、もちろん彼の方の『妻』ではございませんでした!」


リーゼロッタが笑顔で付け加えた最後の一言に、ジークが一瞬ピクリと反応したのを目ざとく見つけながら、ディートリヒは心得たとばかりに目を細める。


「教えていただきありがとうございます、リーゼロッタ嬢。イフリード帝との間に子をなした3名の妃は残念ながら、自由にするわけにはいきません。悪しき皇国の歴史の幕を閉じるためにも、子を含めて、適切な処罰を下さなけらば各国の溜飲が下がらないでしょう」


その言葉を聞いて、アリアが少しだけ肩を揺らした。ようやく顔を上げた彼女の金色の瞳は、不安げに揺らいでいるように見える。


「…? アリア、何か不安なことでも?」


アリアたちにとっては悪くない状況のはずである。不思議に思ったディートリヒにじっと見つめられると、彼女はそっと視線を外した。


「いいえ…なんでもありません。…それでは、私たちはこれからどうすれば…?」


問いかけられたディートリヒは神妙に頷いた。


「まず、リーゼロッタ嬢、あなたを、アリアとともに連れてきたのは…」


少しだけ気まずそうに眼を伏せた王を気遣うように、リーゼロッタは微笑んだ。


「…言うに及びませんわ、陛下。ユーディタは3年前の戦争で皇国によって滅ぼされたのですから。返す場所のない私を、アリアとともに連れてきてくださったことに感謝いたします」


――――ユーディタは芸術、特に音楽で栄えた小国である。3年前に攻め込まれた彼の国は、強大な帝国の力の前になすすべなく、すべてが皇国に取り込まれ、リーゼロッタ以外の王族はみな殺された。


現実を受け入れてもなお穏やかなリーゼロッタの瞳に内心驚きながら、ディートリヒは再び頷く。


「そう…真に国ごと滅ぼされたのはユーディタのみです。最後まであなたを守ろうと抵抗を続けたと聞いています…。そのようなあなたを野放しにするわけにもいきませんので、不本意かもしれませんが、あなたには我が国の客人という形で滞在してもらおうと思っています」

「まあ!よろしいのですか!私からしたら願ってもない状況ですわ。ありがとうございます」


リーゼロッタの明るい声に少しだけ表情を柔らかくしたディートリヒは、そのままアリアに向き合う。


「そしてアリア、お前には…」


いまだに心ここにあらずというように佇んでいたアリアは、声をかけられて顔を上げた。

そして、意味深にほほ笑む兄をいぶかしげに見つめると―――――


「ここにいる、ジークと結婚してもらう」


―――――衝撃的な一言に完全に目を回し、ふらりと体の力が抜けてしまったのである。



***



だがしかし、アリアが床に倒れこむことはなかった。傾いた彼女の体を、ジークが素早い動きで抱き留めたからである。

突然頬に触れた硬い筋肉の感触に慄きながら、アリアは混乱のまま声を上げる。


「な、なななな、なにを言っているのですか、兄様!」


驚きすぎてもはや土気色になったアリアの顔をにんまり笑って見つめながら、ディートリヒは、事もなげに返した。


「何って、そのままの意味だよ。こんな状況で冗談なんか言わないさ。事情はいろいろあるけれど、とにかくアリアにはジークと結婚してほしいんだよね」


昔のような口調で語りかけてくる兄に、アリアも自然と口が軽くなった。


「め、めちゃくちゃな…!私は昨晩までイフリード帝の上級妃だったのよ!?」

「でもほら、皇帝死んじゃったし」

「じ、事故みたいに…!自分でやったくせに…!」

「ははは」

「な、なにを笑ってるのよおおお」


混乱のあまり暴れ出したアリアを、ジークがひっつかんで押さえている。

めったに見ない様子の彼女の姿に、近くにいたリーゼロッタはもコロコロと笑っている。


「わあ、アリア、元気いっぱいね~!でも『落ち着いて』」


リーゼロッタの気の抜けたような言葉を受け止めると、アリアはぴたりと動きを止めた。急な変わりように、ジークは手の力を緩めながら首をかしげる。


「あ、ありがとうリーゼ…」


アリアは一度脱力したように肩の力を緩めると、ジークが手の力を抜いてくれたのを察して、姿勢を正した。


「兄様…いいえ、ディートリヒ陛下、私がジークと結婚しなければならない理由をお伺いすることは可能でしょうか…?」

「私は構わないけど、『今この場で言っていいのか』はお前が判断することだ、アリア」


その言葉を受けて、アリアは瞠目した。


「兄様…ご存じなのですか…」

「安心しなさい、『知っている』のは私だけだ」


慈しむように目を細めた兄の視線を受け止めながら、アリアは息をのんだ。

そして、はたと気づいてジークに視線を移す。


「ジーク…あなたもそれでいいの…?」


不安げに揺れる金色の瞳を、ジークの銀色の瞳が力強く見つめた。

その視線に彼の覚悟を感じ取り、アリアは拳を握りしめ…やがて、小さく頷いた。


―――――もう捨てたはずの想いが、ぎしりと音を立てて、胸に重くのしかかる心地がした。


いいねやブクマ登録をいただきありがとうございます…!

少しだけストックができたので、しばらくは1日1話以上アップできそうです。

よろしくお願いいたします。

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