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魔王の立つ日  作者: 上総海椰
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6-3 敵

外はもうとっぷりと暮れ、夜もずいぶん更けている。

蝋燭の灯りの下のテーブルには地図が広げられていた。

地図には幾つか印がつけてある。

使い魔が消息を絶った地点である。

「その四人組は北へ向かったとみて間違いないだろう」

ヒルデの声にヴィヴィは頷く。

例の事件の後、ソーンウルヒから北上する正体不明の馬車が目撃されたという。

「それにしても北か…、連中はコーレスを経由して北に向かったと考えて間違いないな」

ヒルデは地図を見てひとり呟く。

コーレスから北に向かえば各貴族たちが収める領地群がひしめいている。

カランティがどこかの貴族にかくまわれていてもおかしくはない。

相手はカランティ、どんな罠を仕掛けているかわからない。

ふとココルに目が留まる。

先ほどヒルデについていくとこの少年は言った。

「ココル、行くのであれば止めはしない。

相手は魔剣ソリュードを持ったヴァロでも捕らえられた相手、生きて帰っては来れないかもしれないわよ?」

ヴィヴィはココルにその覚悟を問う。

そのヴァロと戦った痕跡から四人のうち一人は魔法使い、一人は魔剣使い、一人は魔器使いだと判明している。

その上、破壊の規模からかなりの使い手だとも考えられた。

「…私は師匠を救いに行きます」

ココルの決意は固いとヴィヴィは確認すると部屋の奥に入っていった。

ヴィヴィはしばらくすると何やら手に持って部屋から戻ってくる。

「ならこれを持っていきなさい。少しは役立つでしょうから」

部屋から戻ってくるなりヴィヴィは剣と腕輪を手渡す。

「…これは」

差し出された二つをココルは見つめる。

二つともルーン文字が小さく描かれているため、魔器だということはすぐにわかった。

「私が開発していた魔器よ。幾らあんたが『狩人』だろうと丸腰では行かせられないわよ」

「ありがとうございます」

ヴィヴィが開発した魔器だという。ヒルデが脇からその二つに目を向ける。

「ほう、それはなかなかだな」

ヒルデは一目見てその特性を理解したようすだ。

「本当ならもう少し早くココルに渡せたんだけれどねぇ」

ここで使い魔の鳥が戻り、ヴィヴィの肩に止まる。

「ノーリス卿は馬の手配は済んだそうよ。明日の朝、北門の出入り口に付近に用意しておいてくれるってさ」

「すぐにでも向かいたいところなのだがな」

ヒルデがそう言ったその直後、警告音が周囲に響き渡る。

結界の管理者だけに送られる信号。話には聞いていたがこれを受けるのはヴィヴィは初めてである。

「緊急通信…まさか他の管理地で聞くことになるとはな」

ヒルデは感慨深げにそれに聞き入っていた。

「各都市の聖堂回境師各位に緊急伝達です。

リブネントのカロン城が第五魔王ポルファノアの手に落ちました」

その言葉にヴィヴィは愕然とする。

第五魔王ポルファノアとはかつて大魔女カーナが倒した魔王の一人だ。

魔獣と死霊の兵を扱い、その力は教会の指定してきた魔王の中でも上位に君臨するものだ。

「…リュミーサ…」

ヒルデは目を見開いている。

「リブネントの聖堂回境師リュミーサは第五魔王ポルファノアとの戦闘で死亡。

カロン城はカランティの手により浮上に成功。そのままゴラン平原に移動。

第五魔王ポルフェノアは配下のカランティと魔族たちとともに教会に対し宣戦布告をしました。

聖堂回境師各位は警戒レベルは最大の対魔王戦を想定してください。繰り返します…」

その場にいる者誰もがそれを強張った顔で聞いていた。

リブネントが落ち、現役の聖堂回境師が討たれた。

どうしてカランティがヴァロを欲したのか、二人はそこで理解した。

「理由が一つ増えたな」

ヒルデの周囲には魔力が渦巻く。ヒルデの放つ魔力に結界が震える。

ココルは一刻も早くその前から立ち去りたい気分になる。

クラントもこんなヒルデを見るのは初めてである。

「ヒルデ…」

「私は騎士団に話を通達しないと」

ヴィヴィは部屋の奥に向かっていく。

マールス騎士団に通達を出さなくてはならないし、この状況への対応を練らなくてはならない。

ヴィヴィもまたこのフゲンガルデンを任されている聖堂回境師。

このフゲンガルデンを護る責務がある。

「ヴァロのことお願いします」

「ああ」

ヴィヴィそう言ってヴィヴィは部屋の奥に消える。

直後ヒルデは窓の外にいるクラントにむけて声を上げる。

「聞いていたなクラント。予定通り明日の夜明けとともにここを発つ」

「ああ」

ヒルデはそのまま振り向くとココルに視線を投げる。

「もちろんお前もだ。遅れたならばおいていく」

ヒルデはそう大声で叫ぶと椅子に体を埋め体を休める。

その翌日の朝、三人はコーレスに向かうべくフゲンガルデンを発った。



場所は変わって交易都市ルーラン。

数人の弟子を前にユドゥンが妖艶に寝そべりながらその報告を聞いていた。

彼女はルーランの聖堂回境師である。

「ポルファノアか。なるほど、カランティの企みはそれでしたか」

そう言ってユドゥンは楽しげに微笑む。

「いかがなさいましょう」

ピューレアはユドゥンに問う。

「我々にできることなど何もありませんよ。そもそも私を縛るために彼女たちはこのルーランの聖堂回境師の任を与えたのですから」

つまらなさそうにユドゥンはつぶやく。

「サフェリナ、カーナはもういません。ゴラン平原が再び血に染まることになるでしょう」

三人の大魔女のうち二人は既にこの世界にいない。

残る大魔女はラフェミナただ一人だけ。

「宣戦布告がなされたということは彼らに現体制をひっくり返す十全の準備が整ったと言い換えることもできます」

「それでは…」

ピューレアは眉をひそめる。

「人間界はもうじき落ちます」

ユドゥンは無表情にそう告げる。

「あるいは…この盤面をひっくり返す何らかの手があれば話は別ですが…」

ユドゥンの脳裏に浮かぶのは一人の少女。

少し考えながらユドゥンはすっと立ち上がる。

「…フフフ…これは好機かもしれません。少し私はここを離れます。ピューレア、留守を頼みます」

黒の貴婦人はそう言って立ち上がる。

「はっ」

ユドゥンは闇の中にその姿を消した。

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