4-1 侵入者
話は変わってリブネントです。
登場人物紹介。
リュミーサ、リブネントの聖堂回境師。
グレコ、異端審問官『狩人』真夜中の道化を追う。
ラウィン、異端審問官『狩人』
カランティ、元トラードの聖堂回境師。真夜中の道化の黒幕。
小高い丘から一団を見守る二人の影がある。
その二人はグレコとラウィンである。
彼らはずっと隙を伺い、いつ何時でも動けるようにしてある。
一年前のトラードの聖堂回境師追放から彼らはずっとカランティの足取りを追っていた。
リブネントの西の領地群にいるらしいということまで掴んでいた。
しらみ潰しに一つ一つ当たっていこうかと思っていた矢先、グレコたちのもとに情報が入ってきた。
事前に張っていた網から西に向かう妙な一団があるという報告を受けたのだ。
急に来た知らせを受けて彼らは不審に思いつつも馬を走らせた。
ついてみればいかにも怪しげな不明の一団がリブネントに向けて行軍しているところだった。
一日中その集団を観察し、グレコたちはその中にカランティらしき女性の影を見つけていた。
目前に標的はいるがこちらの戦力不足は明らか。カランティには現在少なくとも六人の弟子がいる。
二番弟子のウィンレイ・ギーブソンを筆頭にホーノア、ピピン、エムローア、ネリート、ツエードがまだ生存している。
それらは全員確認できた。
困ったことにカランティと行動を共にする者の中にお尋ね者の魔剣使いのシレなどの姿も垣間見れた。
彼は背を低くし、陰に潜み、その時が来るまで待ち構える。
そして、動いたなら一撃で確実に相手の命を取る。
それが彼の戦術であり、それ故に彼の『狩り』の成功率は異様なまでに高かった。
「グレコ、どうする?このまま進むとリブネント付近までたどり着いてしまうが?」
「さすがにそれはねえだろう」
グレコが否定するのももっともだ。
リブネントには現役の聖堂回境師リュミーサがいる。
その上静謐結界と言う対魔王用の結界まである。
あの慎重なカランティがそんな場所に真っ向から踏み込んでいくとは考えにくい。
静謐結界はリブネントを包む結界である。
結界都市。第二次魔王戦争以後、人間界の主要都市には結界が張られた。
人類が魔王に対抗するためである。
普通の人間では感じないが、現在でもその結界は存在し、機能しているという。
話によればその結界は魔力を持つ者ならば入っただけでその存在を知られてしまうものらしい。
結界の中に一歩でも入ろうものなら衝突必死である。
あの慎重なカランティがその一線を越えてくるとは思えない。
だが、その一団はお構いなしに真っ直ぐにリブネントの正門に向かっていく。
「お前たちはどこからやってきた」
リブネントの衛兵二人が怪しげなその一団に駆け寄ってくる。
一人の道化の恰好をした男がその二人の前に立った。
その瞬間二人の衛兵の首が胴体から離れる。
道化をした男がまるで遊び道具のように人の頭を手の上で回している。
しばらくしてリブネントの中から悲鳴が上がる。
一団は悲鳴とともに足を止めることなくリブネントの城門をくぐる。
「マジかよ…連中、軽々と一線越えちまいやがった」
グレコはその光景を信じられないように見つめていた。
この二人ですらそこまで大胆に動くとは予想していなかったらしい。
「おいおい…」
リブネントの中に騒ぎが広がっていく。
「もう隠す必要もなくなったんだよ」
グレコは駆け足でその一団の後を追う。
それはつまり…。
道化の胸に巨大な杭が突き刺さる。
次にその男の頭部のある場所にも巨大な杭が現れる。
有無も言わせぬ一瞬の出来事。二本の巨大な杭がその道化の姿をした男をつらぬいた。
それは道化の男がリブネントに足を踏み入れた瞬間に行われた。
これがリブネントの静謐結界。
それは空間の物体を自在に動かすことができるというもの。
「ヒョヒョヒョ。手伝いますかぁ?」
カランティは馬車の中から楽しげにその男に語りかける。
「いーえ」
男の体が一瞬黒くなったかと思えば彼の体を二つの杭がすり抜けていく。
道化の男は落とした二人の首を再び手にするとまた手の上で転がし始める。
「いやあ、人目を気にせずに歩けるっていいなあ」
道化は先頭に立って衛兵の頭部を手玉のようにして回して歩いている。
明らかに異様な光景。まるで攻撃を誘っているようにすら見える。
「傷は…大丈夫なのか?」
シレはその道化の男に声をかける。
先ほど受けた杭は彼には効果がなかったらしい。
傷はおろかその服にもその攻撃の痕跡すらみられない。
「はっはっはぁ。道化たるものあのぐらいの攻撃では死にませんよぅ」
当たり前のようにその男はおどけた足取りで先頭を進んでいく。
結界から放たれた二つの杭は正確に心臓と頭部を貫いていたはずだ。
大抵の生物ならば即死の攻撃だ。
死なないのはこの男の魔力によるものか。
この男、カランティの紹介で入ったというが不気味さしか感じない。
「見方であるのなら頼もしいかぎりだな」
シレは小さくつぶやいた。
人が消えた通りをその一団は進む。
人々は物陰からその一団が過ぎていくのをただ待つことしかできない。
グレコたちは屋根を伝いながらその一団を追跡する。
狙いはカランティの首だた一つだ。
「リュミーサはどうして攻撃しない」
ラウィンは小さくつぶやく。
結界内に入ったということは、リュミーサの攻撃範囲内に入ったと言い換えることもできる。
リュミーサはいつでもその一団に攻撃を仕掛けることができるのだ。
「あほか。できるわけねえだろうが」
グレコはラウィンに小声で突っ込む。
「この状況は言ってみれば街全体の人間を人質にとられている状況だぜ?」
現在危うい均衡の上にいると言っても過言ではない。
もしリュミーサが戦闘を優先させたとすれば、リブネントは間違いなく火の海になるだろう。
リュミーサはおろかではない。初手でどれだけの相手かわかったはずだ。
一行はまっすぐにリブネントの湖にあるカロン城を目指し進む。
「やはり目的地はカロン城。目的はリュミーサか?このリブネントか?」
グレコは直感だがどちらとも違う気がした。
奴らの目的は一体なんだ?
グレコはその疑問を抱きつつ、影に潜み慎重に機会が来るのを待っていた。




