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今回の話は倉主さん目線です。

虎斗くんの視点ではわからないことなんですが、実は現代ファンタジー要素がほんのりあります。

よろしくお願いします。


「あの子を助けてくれませんか?」


私の前に、彼が現れたのはあの子と出会う一週間前のことだ。

その日、リアルに近い夢を見た。

その夢に出た彼は言った。


「あの子と出会ったのは何年も前のことです。見ての通り、私はあなた達のように魂の器となる体を持ってはいません。普段、私はとある男性の家系のことを代々見てきて、ネガティブな感情に引きずられ過ぎないように加護してきました。

人間にはネガティブな感情と、幸せと感じる感情があることは当たり前のことです。ですが、その男性の血縁の人間には代々、強い加護に守られなければ、若くして自殺する者が増え、いつしかその血が途切れてしまう。それだけは阻止したいのです。

その男性の家系には心の傷が見える目を持つものが現れます。ネガティブな感情からくる傷ばかりですから、その傷からくる感情に引きづられないように男性の心を守らなければならないのです。今、私が見守っているその男性は、その子のことでネガティブな感情に引きずられ、最悪な結末の方へと向かっているんです。

……それだけは阻止しなければならないし、見逃せません」


彼が悪い者ではないことは直ぐにわかった。こんなにも愛しそうな顔を、同時にこんなにも雰囲気を穏やかに出来る人が人間を騙すような真似をする訳がないと勘がそうだと感じさせた。

だから、追い出さなかった。


私にも彼の言葉に「嘘だ」と言えない理由もあったから、追い出せなかった。

私の言葉には昔から影響力があった、それに気づいたのは小学校三年生と随分と昔のことである。それに気づけば、その力を抑えることは容易いことだった。

魔法もないこの世界だが、それでもファンタジー小説のような出来事が起こらないとは言い切れるほど、私はこの世界のことを知らない。人よりも言葉の影響力強すぎると言うことも、また一種の超能力なのかもしれないからだ。だから、私はオカルト話も、幽霊の話も、魔法や不思議な力の存在のあるか否かと問われた時、否定はしない。


だから、彼が人ならざる者であろうと、私は彼の言葉を聞きいれよう。

彼は私の心を呼んだかのように話を続ける。


「……私は、愛する者が苦しむ姿を見たくはありません。私の主は、ちゃんとあの子のことを愛しておりました。ですが、あの子が幸せになるためには自分では駄目だと、そう言っていたのです。彼は、恐らく恋愛的な意味であの子のことを愛しておりましたが、愛されることも愛すことも恐れるあの子の心に踏み込むことを一瞬でも躊躇ってしまった。それは、心の傷が見えるが故の躊躇いなのだと思います。……傷つけるようなことを言う覚悟が人一倍必要なのです。

そのせいで、あの子は尚更、誰かに愛されることも愛することも拒絶するようになってしまいました。彼はそれに対して非常に心を痛めております。……それでは今までの主達と同じような人生を歩むことになりかけない事態なのです。

偶然、あなたを街で見かけたことがあるんです。その時、聞いたあなたの声は澄んでいて、優しく、穏やかで、魅力的な声でした。……あの時、あなたは見知らぬ人が倒した自転車を直すのを手伝っていました。その行動にはあなたの親切心の深さ、慈愛深さ、優しい気持ちを感じました。その時から、あの子を助けられるのはあなたしかいないと何故か確信しました。

……私は生きている時から、勘が異常に鋭かったのです。特に死と愛についての勘はその中でも異常に強かった。だからこそ、私が見守る男性のことをあの子が愛することはないだろうとも思っていました。今の時代、男性同士の恋愛に否定する者は少なくはないでしょう。あなたを初めて見た時にそれでも、あなたはきっと彼を愛してしまうだろうと何となくそう思ったのです。

彼は気づいていないのです、自分が人の目を惹く不思議な魅力を持っていることを。それは、私のような者やあなたのように人とは違う何かを持つ人間を特に魅了させる魅力。悪い者に惹かれる前に、あなたを愛して欲しいと思った。……誰かに愛される、その気持ちを知って欲しいのです」


そうだとしても、その愛が恋愛の意味になるとは限らないだろう?

私は別に同性を愛することに嫌悪感はないけれど、相手がどう思うかは相手にしかわからないことだ。


「……彼は望んでないかもしれないよ。

私が君が言ったようにその子のことを愛したとして、その愛を拒絶されたら私には何も出来ることはないと思うけれど?」


私も若くはない。

その子と言うくらいだ、若い子なんだろう。そんな子がこんなおじさんのことを選ぶとは思えないからな。

そこまで私にこだわる理由がわからない。


「あの子は愛されることも、愛すことも、家族が出来ることを恐れているような子です。初めは必ず、拒絶をするでしょう。ですが、諦めず、あの子との縁を強固にしていってください。……あなただって知っているはずです、私達がもつ異能に近い才能の力がどれだけ強いものなのかと言うことを。

私の勘を信じてください、このままではあの子も私が愛する主も引きずられるように自ら死を選んでしまいます……。

私が加護する男性は、この力があったせいで弁護士と言う夢を諦めました。それでも、絶望しても、自ら死を選ばなかった彼を死なせたくはありません。私は、彼の血縁である人間をこの世から無くすわけにはいかないのです。

彼はあの子のことを誰よりも大切に想っている。だけど、あの子の愛はまるで兄を慕うような愛。……恋情の意味で愛する彼との感情の差は大きいのです。ですが、何故かはわかりませんが、あなたならあの子を愛し、そしてあの子に愛されると思うのです」


何も根拠のなく、彼は私の元へと頼ってきたようだ。……と言うことは、余程大切な存在だと言うこと。

周りからお人好しだと良く言われるが、自分でもお人好しだと思う。……根拠のない勘で頼み込んでくるようなことを、しかも夢で。それを引き受けようと思っている自分は、お人好しと言う言葉以外で何て表現して良いものかわからないからだ。


「……余程、大切な方なんだね。大切な人を失うのは苦しいことを私は良く知ってる、どれだけの痛みを心に味わうことか。

あなたはたくさんの大切な存在を失ってきたんだと思う……。でも、こうして一度しか見たことのない私に頼るほど、今加護で守っている男性のことを失いたくないと強く願っているからこそ……、夢に出てきてまで頼み込みに来たんだろう?

出来ることはやってみるけど、期待しないでくれよ。見た目は悪人顔だ、怯えて心を許してくれないかもしれないが、善処はしよう」


彼は安堵の表情を浮かべた。

その表情を見た瞬間、その夢は終わり、いつもの見慣れた天井が私の視界いっぱいに広がっていた。


……ただの夢を見ていたんだろうか?


それにしては、あまりに現実に近過ぎる。

普段から会話した後に感じる疲労感が、私の体に残っていたからだ。

それに恐らく、近いうちにあの子と呼ばれる存在に会うことになるだろうと何故か思った。


何気なく、テレビをつけて天気予報を見た。


「……今日は雨か……」


しばらく雨は降らないと踏んでいたせいで、うちにある傘は壊れたものだけ。


「……職場に行くには徒歩の方が便利なのだが……、傘を買わないでいた私が悪いのだからしょうがない」


ここら辺は田舎だ。都会のように、あちらこちらにパーキングエリアがあるわけでも、コンビニがあるわけでもない。

それは不便だが、自分には流れの速い都会は合わないと思って、引っ越して来てしまったのだからしょうがない。


傘がなかった、それ以外は何も変わらない朝で、いつものように職場に向かい、与えられた仕事をこなした。

いつもの日常。いつもの時間。

……何も代わり映えしない時間を過ごすだけだと思っていた。


いつも通り、自宅へと変えるつもりだったのに、ふと傘をささずに立っているところが、サイドミラーに映った。

いつもなら気にもならないことなのに、行かなければならないと引き込まれるように墓の駐車場に停めた。


そして、あの子に出会った。

……虎斗くんが、あの夢の彼が言っていたあの子だってことは直ぐにわかった。

だから、ジャケットを貸した。

送ることだって出来たけれど、それでは虎斗くんは心を開いてくれないと思ったからそれをしなかった。

誰だって一人になりたい時だってあるはずだ、それが虎斗くんにとって今だと思ったから次会う口実としてジャケットを貸した。


「……あんな寂しそうな顔をされては放っておけないよね……」


ちゃんと連絡してくれると良いが……と考えながら、戸締りをする。

その時の私は知らなかった、運命が虎斗くんではなくて私の方を味方してくれることを。




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