過去アルバム~2枚目~
あの約束をした日から、私は塾の日以外はバスケをしている優輝に会いにいった。
「今日は来たよ~!」
「おう、一緒にやろうぜ!」
勢いよくコートに飛び出した私は優輝に向かってブロックをするが、優輝はそれを軽々と避けて、
ゴールインした。
そんな日が続いて、私はいつの日か、優輝に『憧れ』を持っていった。
でも、今の時点では、ただの憧れ。恋心に変わるはずなどなかった。
友達と認識し、一緒に運動をする仲間という存在だった。
「む~、今日も負けた~・・・」
「ワッハッハッハッハッ」
落ち込む私を前に優輝は王様顔してふんぞりかえって笑っている。
「む~・・・」
「お、怒ってんの?」
「怒ってない」
とはいいつつ、私は恨めしげに優輝を睨んだ。
「・・・スイマセン」
「ふむ、分かればよし」
なぜか試合に勝った優輝が負けた人物に謝っている。おかしな光景だ。
「たまには負けてよね」
「じゃあ、明日は負ける」
「分かった」
「・・・ってかなんで八百長問題みたいな感じになってんの?」
「分からない。そこの君、お金あげるから負けておくれ」
「・・・ぶっ」
それから大爆笑。誰もいない夕暮れのバスケットコートに私と優輝の笑い声が響いた。
そして――――。
「よし、今日も行こう」
次の日学校から帰ってきた瀬奈はいつもより早めにコートに行く事にした。
「あれ・・・・?いないなぁ・・・」
まだ約束した時間より早いからまだ来ないんだろう、と思いバスケをして時間つぶしをすることに
した。
バスケを始めてから5分・・・・・10分・・・・・・。
「あれぇ?来ないなぁ・・・。もう約束の時間なのに・・・・・」
そして改めて待つことにした。
しかし、優輝が来る気配は一向に無かった。
「優輝の家・・・・。行けば分かるかな・・・」
私はそういい、優輝の家に向かって走り出した。
エレベーターのボタンを押し、階数のボタンを叩き続ける。
ウィーン・・・とだんだん自分と優輝が住む階に近づき、ドアが開いた。
私は勢い良く飛び出し、優輝の家のボタンを押した。
ピーンポーン・・・という音が聞こえたあとにドタバタと走る音。そしてドアが開いた。
「まあ、瀬奈ちゃん!・・・あ、優輝ね?」
「ど、どうしたんですか?」
「優輝が昨日高熱を出してね。ずっと学校もお休みして寝たきりなの。確か、瀬奈ちゃんと
優輝はほぼ毎日遊んでるのよね?ごめんなさいね、ずっと動き回りっぱなしで、李媛さんに
言う暇がなかったの」
「あ、あの・・・。優輝に会えますか?」
「ごめんなさい。申し訳ないけど、今は熱が移ってしまうから、また後日来てね」
「はい。またお見舞いに来させていただきます」
「ええ。優輝のこと、いつもありがとうね」
「いえ、そんなこと・・・」
そして私と朱音さんの会話は終わった。
「熱、出してるのか・・・・・」
大丈夫かな?きっと辛いよね。でも、私は何もできない。見守ることしかできない。
何もできない自分がものすごく、悔しかった。
「おかーさーん」
「なぁに?」
「優輝、風邪引いちゃったんだって」
「あら、そうなの?!朱音さん、言ってなかったわよ?」
「忙しくて、言う暇が無かったんだって」
「あら、じゃあ、明日ぐらいには、熱が下がってるといいわね」
「うん・・・・・」
「ふふ」
なぜか母が笑った。なんか子供扱いされた気がして、
「何ぃ?」
と聞いてしまった。
「あらあら、怖いわねぇ。だってこんな友達のことで落ち込んでる瀬奈見た事なかったんだもの」
「え?そんなに落ち込んでる?」
「そうよ。いつになく暗~い顔しちゃって、俯いてるのよ。ほんとにどうしたの?」
「分からない・・・・・」
その夜私はあまり寝付けなかった。
優輝のことも心配だったが、何より気になったのは母の言葉だった。
『友達のことでこんなに落ち込んでる瀬奈は見たことがない』
確かにもの凄く落ち込んでしまっている。でも顔には出していなかったはずだ。
母は見破ってしまったのだろうか。
「優輝・・・・・」
瀬奈はポツリと呟いた。そしてそのままトロトロと眠りに落ちた。
ヒーローの風邪引き!一度書いてみたかったストーリーなので、今回書けて
嬉しかったです。