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飛鳥異聞~日出処の天子と六道の覇王アスラ  作者: ダンケ
第2章:大王擁立

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心魔

遅くなりました。10/12 本日投稿分です。

 厩戸皇子にとって、彦人皇子は父系の従兄弟にあたる。

 朝廷内では捨て皇子と揶揄され、疎んじられていた厩戸皇子であったから、血縁関係にある者たちとの縁は薄い。公式行事等で顔を合わせることがあっても、厩戸に接触しようなどという皇子は皆無だった。

 だが、彦人皇子だけは違った。

 顔を合わせれば、なにくれとなく話しかけてくれた。特に敏達大王の正妃であった母、広姫が薨去し、朝廷内での寄る辺を失って後は、同じような境遇の厩戸に対する共感もあったのだろう。厩戸皇子にとっては、朝廷内でほぼ唯一の話し相手であり、好感の持てる皇子であったのだ。


 その彦人皇子の様子がおかしい。

 先ほどから何度か目が合うのだが、そのたびにすぐに逸らす。

(それに、あの小鬼ども)

 明らかに、なにやら悪しきものが憑いている。


 朝廷内の政治には興味のない厩戸皇子ではあったが、彦人皇子が大王後継の有力候補であることは知っている。その彦人皇子に異変が見られ、しかも物部守屋が後ろ盾となっている。

 宇陀野洞穴での一件から、物部守屋には徐福との関係が強く疑われている。しかも、彦人皇子に憑く小鬼たち。彦人皇子の異変に、徐福が関わっていることは容易に想像できるのだ。

(大王の後継選びに徐福が介入しようとしている?)

 厩戸皇子の眉が顰められる。

 だからといって、この場で騒ぎを起こすことは得策ではない。蘇我馬子を除けば、厩戸皇子の声に耳を傾ける者はいないだろう。馬子にしても、必ずしも厩戸に味方するとは限らない。馬子が大王候補に推す橘皇子の有力な対抗馬である彦人皇子に対し、鬼が憑いていると公の場で指摘する厩戸皇子を支持することは難しいのではないだろうか。小鬼の姿を見ることが叶わぬ者からは、根拠のない誹謗中傷と受け取られるのが関の山だ。

(屋敷に戻ってアスラどのに相談してみるか)

 彦人皇子に纏わりつく小鬼どもを睨みながら、厩戸皇子は静かに席を立った。


 厩戸の屋敷では、いつもと変わらず善徳と刀自古が天燈鬼、龍燈鬼を相手に掛かり稽古を行っていた。縁側に座ったアスラや家鳴り、怪異たちがそれを見つめている。

 殯宮から戻った厩戸皇子は、早速アスラに彦人皇子の話をする。

 一通り話を聞き終えたアスラは眉根に皺を寄せた。

「心魔だな」

「心魔?それはいったいどのような」

「本来は、人の心の中に棲む悪意や怨念が具現化した怪異だ。だが、熟練の術士であれば、自在に召喚し、人に取り憑かせることもできよう」

「取り憑かせると、どうなりますか?」

「その者を意のままに繰ることができるだろうな」


 何かを考え込むような厩戸皇子に、いつの間にか傍に来て話を聞いていた善徳が声をかける。

「なにか気になるようなことでもありましたか?」

 うむ、と頷くと、厩戸は殯宮で目撃した小鬼について話して聞かせる。

 話を聞いた善徳もまた、難しい表情で首を捻った。善徳も父の馬子から大王位継承をめぐる話を聞かされている。彦人皇子に心魔が取り憑いている、そしてそれに徐福が絡んでいるとなれば、どのようなことが起きても不思議ではない。そのまま放置すれば、容易ならぬ事態を招来する恐れがあることは、容易に想像できた。 


「アスラどの。心魔を祓うには、どのような手立てがありましょうか?」

「祓うだと?」

 厩戸が頷くと、アスラは呆れたように首を振った。

「心魔は人の心に憑くものだ。ゆえに実体を持たない。実体を持たぬものをどうやって祓う?剣で斬ろうが炎で焼こうが祓うことは叶わぬ。一度取り憑いてしまえば、外からのいかなる攻撃も無効化されるのだ」

「では、このまま手をこまねいて傍観するしかないのでしょうか」


 アスラは悪い顔でニヤリと笑った。

「六道の覇王たる俺に、できぬことなどないわ。俺が手を貸せば、厩戸よ、お前でも心魔を祓うことができるかもしれぬ」

 厩戸は思わず身を乗り出した。

「それは、どのような」

 だが、アスラはすぐには答えない。腕を組み、厩戸の目を覗き込む。

「厩戸よ。だが、それは大きな危険を伴うぞ。お前、その彦人皇子とやらを救うのに、命を懸けるほどの覚悟はあるのか?」


 厩戸はアスラに向き直り、その目を真っすぐに見つめ返した。

「彦人皇子に憑いた心魔を祓うことで、この国に未曽有の混乱を招きかねぬ徐福の企みを挫く。そこには、わが命を懸けるだけの意味がありましょう。ですが、それよりも」

 そこで、厩戸は言葉を切る。少し迷ったようにも見えたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

「われは、彦人皇子の力になりたいのです」


 それを聞いたアスラは口の端をわずかに上げる。

「よかろう。では、心魔を滅する手立てを語るとするか」


お読みいただきありがとうございます。

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