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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.2 ヴォルテックス・ノーツ

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第45話 騒ぎの『裏側』

 濁った空に不快感を催す色合いの雲が漂う世界。

 そんな世界の陸地となる場所は、幾つものブロックを敷き詰めたような浮遊物体で構成されていた。

 これら浮遊物体より下には、ただ底の見えない奈落があるのみ。

 落ちたならばどうなるか。それは誰も知る由もない。例え、この世界の住人であろうと。



「だぁーッ! クソッ、クソォッ!!」



 不気味な程の静けさを破るのは、少しばかり濁る少年の声。

 今現在、歪なコントローラーのボタンを必死に連打している少年だった。

 彼の黒い肌の表面は、様々な箇所が裂けている。幾つも枝分かれした裂け目からは赤熱が顔を覗かせる。

 一方で、彼の衣服は着れれば十分な程にみすぼらしいものだった。


 激しい歯軋りをしながら睨む先にあるのは、ブラウン管を模した映りの悪い画面。

 そこに映るのは此処と異なる別世界――『地上界』の光景だった。



「何で! 言う事聞かねぇんだよォ!!」



 ボタン連打を続けて指示を飛ばすも画面の視点主は動かない。

 画面に大きく映るドームとの距離に変化が無いまま、映像は乱れた。

 やがて、画面が砂嵐になり。耳障りな音が流れ出す。



「……クソッ! 『ゾーン』飛ばしの待機時間が終わったばっかだってのに!」



 悪態を吐きつつ、別のボタンを押して『地上界』へ空間の罅割れを発生させるも。

 次の瞬間に罅割れは叩き潰された。

 少年は「コマンドがキャンセルされたか?」と思いつつ再度ボタンを押す。

 だが、ボタンは反応せず。画面を見ればメッセージが表示されており、新たな待機時間(クールタイム)が設けられていた。


 生成したばかりの発生源を対処された事で、少年の沸き立つ感情は頂点に達する。

 すれば、行動は速く。ブラウン管へコントローラーが勢いよく叩きつけられた。



「――――クソゲーがよォ!!!」



 古臭いシステムへ投げつけるだけに留まらず。硬質化した上で大きい両腕の乱打がブラウン管に叩き込まれていく。

 やがて、『地上界』との接続が絶たれたシステムは散り散りの無惨な残骸へと成り果てた。


 尖った破片すら踏み潰す少年の暴れ具合を、黒の可憐なドレスに身を包んだ少女が見つめていた。

 左の頬から額に掛けて黒線の模様があるその顔へ、当然のように嘲りを浮かべながら。



「ムキになっちゃってぇ。バカなんじゃないのぉ? お兄ちゃん」



 熱くなっている少年にその一言は効果覿面で。

 振り向いた途端に彼は少女へと突進する。構える右拳が突き出されるのは時間の問題で。

 一方の少女は冷めた目で、彼の顔に浮かぶ極熱を見ながら回避行動を取った。



「はぁ…」



 破裂するように、浮遊物体の破片が飛び散る。その数々に融解した痕跡が見受けられた。

 少女の居た位置へ突き刺さった拳の威力を物語っている。少女は優雅に回転しながら着地し、何重もの紐で組み上がった右手に持っている日傘を差し直した。

 


「ほぉんと短絡的。そんなのだから上手く行かないんじゃないのぉ?」


「るッせェな、邪魔が入んなきゃあんな島ボコボコに出来たんだよォ!!」



 ムキになるを体現する少年と。

 冷ややかな目を向ける少女。

 人間らしからぬ特徴を備えた彼らこそ、連日ミュジ・シャニティを襲う怪生物騒ぎの元凶。

雫果(シェザル・トゥ)』と呼ばれる、怪生物を作り出す人型の存在だった。


 彼らはそれぞれ根源となる感情を露わにしながら、議論を続ける。



「せっかく街中に送り込めたのに、早い内から『ゾーン』潰してんじゃねェよォ!」


「目立つ所に置くからそうなったんでしょぉ? 下水道に置くとか出来たじゃん」


「見辛ぇしンなかわいそーな事出来っかよォ! 俺の作品をただただくせーし汚ねー奴にしろってのか!?」


「臭くて汚い奴なんて前に作ったじゃん。あのケーキ屋襲った奴」


「あれは、あの姿でああするのが良いんだよォ! 『ケーキ屋を台無しにする出来損ない』にしてこそだろッ!」


「お兄ちゃんの美学って奴ぅ? 訳分かんないんだけど」



 少女の方は既に飽きてきているのか、左手の携帯らしき端末を操作しながら議論していた。

 論じている中、作品を対処された事例の一部を思い出した少年の手はわなわなと震えだす。



「あの紫女と白黒野郎に目を付けられてからだ……ッ! 何作っても上手くいかなくなっちまったのは……!」


「まぁたそれぇ?」


「大事な事だぞ! コイツら的確に居合わせやがる! こっちの狙いを知ってるかのようになッ!」



「――――そうだ、テレビ!」と振り向いた先。既に彼の言ったテレビは本来の役目を行えない残骸になっていた。

 自分で壊したからこそ。彼は膝から崩れ落ちた。



「し、しまった……。こんな事なら八つ当たりしなきゃ良かった……ッ!」


「八つ当たりの自覚あったんだ?」


「――おい、エルグリ! オマエの奴貸してくれよ!」


「えーやだ。ゲナムお兄ちゃんすぐ壊すしぃ」



 赤熱する裂け目の少年はゲナム、可憐なドレスの少女はエルグリと呼ばれているが、これは彼らの用いる愛称だ。

 それぞれを正式には破壊ノ(シェザル・トゥ)雫果(ゲナムケルゲ)憎悪ノ(シェザル・トゥ)雫果(エルグリニカッジ)と呼ぶ。

 

 軽くあしらっているが、エルグリの方は本気で嫌がっている。

 一応兄と慕う、ゲナムの八つ当たりは癖であると把握しているからだ。

 同時に、こうなるとしつこいとも把握しており、エルグリはため息を吐きながら端末に残る、紫女と白黒野郎を表示する。

 

 白黒髪の少年の方は灰色の目どころか、色のそれぞれ異なる睫毛眉毛までくっきり映っているが。

 紫の少女の方は、何故か顔全体にノイズがかかっており詳細が分からない。



「この人間達の事だよね。確かに偶然にしては出来すぎてるかも」


「だろォ!? しかも紫女は何度も『ゾーン』壊しやがる! そんなヤワに作ってねェのに!」


「うーん、言われてみれば気になってくる……」



 ゲナムの勢いに流されそうになったが、エルグリは自分の仕込みを思い出して留まる。



「……けど、調べる必要無いな」


「何だって?」


「ゲナムお兄ちゃんがグダグダやってる間にぃ、ワタシも準備してましたぁ☆」



 そう言いつつ切り替わった画面に映るのは、怪生物と人間のペアの集まり。

 それぞれの肉体が相方となる異種族へ、紐のような物体に繋ぎ止められており。

 甲冑に似た怪生物は活発な様子を見せる一方で、統一性の無い人間の方は生気の無い様子でふらふらとしていた。


 ゲナムの注目は、現在のミュジ・シャニティ島内で怪生物を維持できている事実に向く。



「――何だこれは! どうやって結界を!?」


「ちょっと調べて分かったんだけどぉ、あの結界が消してるのは独立した作品だけみたいなんだよねぇ。こうやって組み合わせれば回避出来るって訳ぇ。お分かり?」



 口をあんぐりと開けて食い入るように画面を見るゲナムの姿を、くすくすと笑うエルグリの頭にはこの紐繋ぎの仕組みが浮かんでいる。



「カワイイ作品なんだけど、分類上は人間。だって、人間使って生命維持してる訳だからねぇ?」


「人間との組み合わせか……!! 考えた事無かった……!」


「作品の持ち味にばかり拘ってるゲナムお兄ちゃんじゃぁ、難しい事だったねぇ」



 島への侵攻作戦。その為のコンセプトで負けたのを認めたらしく。再びゲナムは崩れ落ちて項垂れる。

 一方のエルグリは俯く頭を踏みつけにする勢いで勝ち誇った。



「さあさあ! 鎧ちゃん達。油断しきってる人間達を刈り取っちゃってぇ!!」



 端末へのダブルタップで指示を出し、甲冑型の怪生物は動き出す。

 動くも、紐で繋がれた人間達は引っ張られてばかりで。やがて怪生物の枷となる。


 自分から動こうともしない、物言わぬ肉への温情など持つ訳も無く。

 倒れさせる程の勢いで引っ張り出し、倒れ込んだ者達を石畳の上引き摺る者まで現れだした。


 初動はまずまず。だが、本格化は時間の問題で。

 物陰から先頭が顔を出した事で、エルグリにとって理想の光景が思い浮かぶ。



 ――丁度、勝ちを確信した瞬間だった。

 甲冑型の怪生物は次々と()()される。



「――はぁ?」


 

 先頭集団から。箱に噛み千切られ、ブロック玩具のように崩され、壊れたバネ人形みたいにされ、紙人形のように平面化して破り捨てられる。

 現実を超越した光景だが、現実に起きている。種は魔法と言う他無い。



「ちょ、ちょっと。待って、待って、待って、待って――――」



 暴虐ありき故に、少女の静止など聞き届けられる筈も無く。――そもそも『世界』が違うのだから届く訳も無いが。

 人間達への仕打ちと同程度の暴力が、次々怪生物へぶつけられた。


 あっという間に仕込んでいた怪生物は残り1体となり。それすらも速やかに分解される。

 魔法使い集団の行使する魔法のフルコースで。



「――あ」



 エルグリの間抜けた声と同時に、映像は途切れた。

 数秒の沈黙。その後にゲナムの顔を見る。

 今度は彼が頬を膨らませて笑い堪えていた。



「…エルグリちゃんには(むずか)ちかったでちゅねぇ?」


「お兄ちゃんなんか、大っ嫌いっっ!!!」



 静かな空間に、少女の怒鳴り声が響き渡るのだった。

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