第44話 フェルク・レスタム② 夜・フィナーレは『盛大』に
主旋律を担う2種のエレキギターに追従する、傀儡のエレキベース。
これらを孤立させずに纏め上げるは岩鬼の大型ドラムによる一定のリズムと、技師のシンセサイザーが奏でる多彩且つ聞き心地の良い音。
それらが魔法によるオーラを発生させ、広がっては重なり合いメインステージを包み込む。
やがて、彼らを中心とする幻想的な海を生み出し、噴き上がった水流が彼らを持ち上げる。
元より、彼らが巧みに扱う楽器全てがケーブルレスである。
パフォーマンスの都合上、この『フェルク・レスタム』に参加したアーティストの殆どが同じく接続不要の楽器を使用しているが、彼らの場合はそれだけでは無い。
特注品であろう楽器の数々が、演奏に干渉にしない程度であれど大胆に可変する。
「――あれも魔法によるものか!」
楽器表面を流動する、光を帯びたエネルギー。遠目ながら見えたそれらにジンが叫んだ。
無線の楽器であるならば、当然魔法との親和性も高い。回路と魔力の流動を使い分けての演奏に、更にギミックを盛り込む事も容易だろう。
ただ、演奏中に楽器が変形するだけではビジュアルと相まって色物枠という印象で落ち着く。
これだけで終わらないからこそ、『ラ・ダ・リーシェ』は真打ち足り得る。
耀姫と晶娘は固有の楽器を持っていないが、上昇水流の上で踊りながらにそれぞれが水流を操り、海を形成する魔法に付随した海の仲間達を誘導する。
7つの水流は途中から螺旋を描いてメンバーの立ち位置を反時計回りに入れ替える。
ある程度の高さに達してから螺旋軌道も上昇も止まった。
ドームの天井に届いてはいないが、メインステージから100メートルはあるだろう高低差の上で、黒陽はギターを弾きながら気持ち良く歌う。
イヤホン越しでも良く通る歌声に被るもう1つの歌声をジンは確かに聞き取った。
「…? この声は……」
黒陽のメインボーカルとまた異なる、シャニティ語とも外国語とも異なる謎の音声。
しっかり聞こうと意識していると、顔を覗き込んだ結華と目が合った。
ジンが声を掛けるより先に、彼女が口を開く。
「お兄ちゃんも聞こえた? もう1つの声」
「――あァ。微かだが聞こえてる。これは何だ?」
「たぶん、ロギィ達の世界の言葉」
「!」
結華の推測を仮定とした上で、集中して聞く。
聞こえてくる声は発音としてはシャニティ語に近いが、意味合いは異なる。
意味は分からず、時折水音のような微かな音が混ざるも、それでも音声である事に間違いは無い。
その上で、男性の声である事をジンは見抜いた。
一方、『ラ・ダ・リーシェ』メンバーを乗せてそれぞれ独立していた水流はステージ中央へと集まり1つとなる。
1番のサビへと入り、1度目の盛り上がるタイミングで離れていたメンバーは合流した。
「じゃあ、『ラ・ダ・リーシェ』の中に――――」
通りの良いメインボーカルを更に引き立たせる、メンバー各自の演奏と、魔法を用いたパフォーマンス。
囲うように空を泳ぐ海の仲間達に見守られながら、メンバー達の頭上へ形成される巨大な多重魔法陣の輝きに、観客席から感激の声が上がる。
それを余所に、ジンは考えうる可能性に驚愕を浮かべた。
「――『深魔族』が、居るってのかよ…!」
多重魔法陣は一層広がっていき、やがて、ドームの壁を突き抜ける。
魔法陣は何処へ行ったのか。大多数の観客は気にも留めない。
密かに行われている感情の操作によって、疑問に感じる事を封じられているのもあるが。
1番が終わり、熱さを維持しながら演奏も歌声も2番に入る。これが、突き抜けていった魔法陣への意識を更に阻害した。
降りてくる水流の上、メインボーカルへの力を更に入れる黒陽と、リーダーと連携する他6人のメンバー。
現在進行形で行われる彼らの献身的なパフォーマンスと並行し、それは確かに実行された。
◇◆◇
壁を突き抜けドーム外へと出てきた多重魔法陣は光の波動を放つ。
波動は不規則ながらも数度放たれ、いずれもが人工島の端まで速やかに到達する。
当然ながら、首都上空に侵入していた怪生物の大群にも届いた。
波動が通り抜けた空、その下に居てドームの堅牢な防御を攻めあぐねていた怪生物達は小刻みに震えだす。
やがて振動が止まると、身動き1つ取れないまま肉体が崩壊した。
当初は最優先対象だったが、発見出来ないまま時間が経過し、放置される事になった暗がりの罅割れすらも。
灰色の粘体の流出が止まった直後、急速に塞がり完全に消滅する。
『べモン・ベルス』と呼称された怪生物、並びにその発生源にのみ起こった魔法に依る干渉。
それはミュジ・シャニティ全域から怪生物を排除するだけに留まらず。
島の端へ到達した波動が島全域を取り囲むようにドーム状の結界を構築し始める。
何者の妨害を受けず、菱形を敷き詰めるように組み上げられる結界が完全に島を覆い尽くした時。
完成と同時に水飛沫が上がり、その後に透明化する。これを見ている、計画していた人物に合図を送るように。
完成した結界は強力であり、再び罅割れが島内へこじ開けられようとした瞬間、これを急速に塞いで消滅させる。
異物と見做した怪生物の存在を許さない、凄まじい規模と精度と強さの魔法。
何も個人、ましてや数人規模で構築された魔法では無い。
これを実現出来るだけの魔力の蓄積を可能とする空間へ、魔力を集約させ、それに役割を持たせる事で完成に至った極大魔法。
この極大魔法こそが、今回の『フェルク・レスタム』の狙いであった。
奇跡は成った。島に居る大多数が知らないまま。
知っているのは、ごく一部の人間。
これを仕組んだ存在と、もう1つ――――。
島全域でそのような現象が起こっているとはつゆ知らず。
『ラ・ダ・リーシェ』の1曲目は終わりを告げ、続けざまに2曲目へと移る。
時刻は22時を過ぎたが、彼らの出番はまだまだ続く。
2曲目のイントロが演奏されている間の事。
ふと、思い出したジンは疑問を投げかける。
「そういやァ民間協力者が居るって話だったよな? その人達はどうしたんだ?」




