第28話 フェルク・レスタム② 朝・『デザイン』アンドニーズ
ジンに連れられ結華はドーム内受付を抜ける。その先にカプセル状の乗り物が待機しており、2人が近付いた瞬間透明なガラスの風防が開いた。
中には最大4人が余裕を持って座れる座席と自動車の物に近しい操作盤が詰まっていた。
「それでは、ドーム巡りをお楽しみ下さいませ~」と背中から底抜けに明るい受付の声が聞こえる。ジンは1、2回程しか乗った事が無いが、乗り方と操作方法は体が覚えていた。
「これって、動くの?」
「あァ、オレが操作する。助手席に座ってくれ」
「分かった」
ハンドルやアクセル等は無いが、前側右の席が操縦席という事になっている。そこから目的地指定用のキーボードを取り出せる為に。
操縦席にジンが、その左隣にある助手席へと結華が座る。バッグをそれぞれ自分の腿の上に乗せたところで風防は閉じた。
車内の現在時刻は10時23分を表示している。既に『フェルク・レスタム』2日目は始まっているが、大本命の出番はまだまだ遠い。
加えて、音楽祭の音楽の方を実際に見に行くのはドーム内を見て回ってからでも遅くはない、と考え、ジンは寄り道をする事にした。
「これからドームん中見て回ろうと思ってんだが、良いか?」
「好きなところ、つれてって」
「了解だ」
手始めとして、ジンは現在階層の1階を案内すべく、目的地を入力した。
設定を完了した途端、接地していたカプセルは静かな駆動音と共に浮遊を開始する。
『それでは出発致します。快適なドーム巡りをお楽しみ下さい』
シャニティ語の音声アナウンスが流れると、優しい加速でカプセルは発進する。これを受付は手を振りながら見送った。
ドーム内専用として用意されているカプセル型マシン『スソロン・カプセル』は機体に内蔵されている魔力を動力源とする。
正確には、魔力を電池のように運用する装置を、と書くべきか。時代と共に発展する機械技術と魔法を扱う技術が調和した結晶の1つだ。
操縦者が魔法使いである必要は無く、また、魔力以外の動力を必要としないマシンは完璧に近しいカプセルの形状をしていた。
そんな機体がバレルドームの専用通路を浮遊しながら往来していく。カプセルの為の空間は広く確保されているようで、向かう先から10台ものカプセルが来ようとも、衝突の心配は無かった。
「すいすいすすんでく」
「歩いて回るんじゃ時間がかかりすぎるからな。これがあればドームの隅々まで行けるぜ」
「色んなところが見えて、はなれてく…色んな人もいる」
ジンは座った時の姿勢から動いていないが、結華は座面に膝立ちし外の景色を眺めている。
カプセルの中は動いている物体の内部とは思えない程快適で、彼女のような体勢でも危険は無い。
目的地へ向かうだけの移動は、会話に花を咲かせるには充分だった。
数分経ち、結華達の乗るカプセルは最初の目的地へ到着する。
『目的地、ショッピングエリアへと到着しました。ご利用、ありがとうございます』
通路の脇、停車スペースへ段階的な減速で入っていき。完全に停止した後、カプセルは再び床へ接地した。
操作盤で風防を開き、2人は降りる。ジンが降りた後、カプセルは軽い破裂音と共に消失し、黄色い線の描かれた黒いカードが代わりに出現する。
彼の手へと収まるように動いたそれをキャッチすると、ジンはカプセルの仕様を思い出した。
目の前で起きた現象に対し、結華は不思議そうに首を傾げる。
「…きえちゃった」
「このカードと入れ替わったんだ。コイツを使えばまた戻ってくる。こういう仕組みなんだぜ」
「それはおもしろい」
「行こうぜ」と言う気さくなジンの声を合図に通路とエリアを繋ぐ階段を上がり、結華とジンは目的地であるショッピングエリアの奥に進む。
そこは名の通り、販売店の建ち並ぶエリアであり、食品や飲料を始めドーム内限定の様々なグッズと、雑貨の数々を取り扱っていた。
このエリア1つ取ってもショッピングモールと大差無い面積を占めており、バレルドームが如何に巨大であるかを考えさせる。
入って早々より目に映る見慣れない物品の数々へ、結華が目を光らせた。
「色んな物がある……外じゃ見たことない物だらけ」
「限定グッズも大分増えてきたな~。おっ、ミュジ市ランドマークのミニチュアいつの間にか増えてるな。2つくらい買ってみるか?」
「ねぇ、お兄ちゃん。あれ『ラ・ダ・リーシェ』だよね?」
品揃えを物色していると結華がジンの服の裾を引っ張る。彼女の指差す先を見てみれば先程のポスターに写っていた者達…をイメージしたミニチュアフィギュアが数並んでいた。
「良くこれ許可したな……」
「みんないる。けど、黒陽が多いかも」
「リーダーだから多めに置いてんのか、売れ残ってんのか、どっちなんだ?」
フィギュアの数々を注視していると、視線の外に何かが映っているのが見える。顔を動かすと『ラ・ダ・リーシェ』の物と思しき関連グッズの数々も置かれていた。
バンドロゴをプリントしたTシャツに、手ぬぐいやキーホルダーのような正統派のグッズがあれば、巻き貝のようなグッズやメンバー全員の覆面を模したお面、メンバーモチーフの腕時計や皿などチョイスに疑問が浮かぶグッズもある。
どのグッズのスペースもぽつぽつと不自然な空白が見受けられている事から、それなりに売れている事実は見受けられた。
「グッズなら何でも良い……って訳でも無さそうだな。チョイスの理由はちゃんとあるのか」
ジンが顎を擦りながらグッズの数々を眺めている内に、結華は最初に見たフィギュアの内2つを手に取った。
ふと気になって彼女の様子を見たジンは、それが耀姫と晶娘のものだと視認する。
「…それ、買うのか?」
「かわいく見えるから。いい?」
「まァ、オマエが買うんだし好きにしてくれ…」
少々ご機嫌になっている彼女の様子に触発されてか、結局ジンは「グッズとしては珍しかったから」という理由で黒陽をモチーフとする巻き貝を購入したのだった。
それから食品類を何点か購入し、ショッピングエリアを後にした。
停車スペースに戻ってくれば、他のカプセルが3台近付いて来るのが見える。が、通路と同様にスペースも広い為、カードでカプセルを再出現させてもお互いの干渉にはならなかった。




