第27話 フェルク・レスタム② 朝・訪れし『聖域』
時刻は10時を過ぎた。エツコに夜は遅くなる旨を伝え、2人はそれぞれバッグを持ちながら繁華街へ向かった。
今回は街そのものに用事は無く、その奥にある目的地に行く。経由して街を抜けた先にそれはあった。
「着いたぜ、バレルドーム…!」
目の前に聳え立つ、名前の通り樽のような形状をしたドーム。それこそがバレルドームであった。
都市部と郊外の狭間にある超巨大ドームは十数万人は収容できそうなサイズで、近くで見ているだけでもその雄大さに心を奪われそうになる。
白を基調とし、所々にスカイブルーのラインが見える表面をじっくり眺めた所で、ジン達の視線はドームの入場口に移る。
入場口前では既にある程度の列が形成されており、配備されている警備員が続々来客を捌いている。
魔法による身体と荷物の検査。遠目では分かりづらいが入場ゲートに備わる機械装置も確認を行い、問題無い客だけを通過させている。
今のところ違反者はいないようで、列の流れはとても円滑だった。
「あそこにならぶの?」
「あァ、引っ掛かるような物は持ってない筈だからすんなり通して貰えるだろう。さ、行こうぜ」
ジンも結華も列の並びに加わる。並び始めて10分後に彼らの番は訪れた。
肥満体の男と男が連れる幼い少女が通過を許された直後、ゲートを通過したジンと結華も検査用のマジックアイテムで全身を調べられる。
ルーペに似た形状のそれらを持ち、警備員達は周囲を一周する。それから警備員達が簡単な質問を投げた。
「君達、魔法が使えるね?」
「うん」
「あァ、そうだが」
「では、この誓約書にサインをお願いしても良いかい?」
クリップボードごと渡された紙にジン達はしっかり目を通す。その紙には『ドーム内にて人に危害を加える為に魔法を行使しない』事と、『万が一の場合、護身もしくは脅威の排除目的でのみ魔法の行使を認める』事、『避難誘導時に警察関係者やドーム職員に協力を求められた場合、可能な限り応じる』事が記載されていた。
内容に首を傾げていた結華へ噛み砕いた説明を耳打ちし、彼女の了承を得る。それから2人は記載項目に自分達の名前を書く。すると、一瞬だけ書いた文字が発光した。
紙そのものがマジックアイテムの類だと把握したところで、警備員へ紙を返却した。
「子どもとは言え、形式はしっかりしないとなんだ」
「…まァ、色々ありますしね」
『フェルク・レスタム』の裏の目的を考えれば、誓約書の内容は縛りを課すように見えて、身構えが必要である事を暗に伝えてくれている。
魔法の行使が求められた時、どう使えば良いのかを示してくれている内容に、ジンは心強さを抱いた。
内容の再度確認を行った後、警備員達は少し頭を下げた。
「君達の協力に感謝する。名前を書き切った時に分かっただろうけど、これは結構強力な誓約でね。破った場合に大きなペナルティを科す物なんだ」
「その場で、おしおき?」
「…まあそんなものかな。君達に降りかからない事を祈るよ」
「心得ておきます」
「じゃあ、次は荷物を調べるからね」
持参したバッグの中身をそれぞれ、警備員達が調べる。
バッグ内の持ち込み物に危険物や刃物類が無い事を確認した後、彼らの注意はとある紙束へ向かう。
「これは……」
「お姉ちゃんのにがおえ」
「人探しかい?」
「ええ、そうです」
「……」
少しの沈黙と共に、警備員達は出した中身を全て丁寧に詰め直した後、バッグをジンと結華に返した。
「せっかくのお祭りをお姉さんと一緒に楽しめないのは、残念に思うな。早く見つかると良いね」
「ご丁寧に、どうも」
「ありがとう……」
「では。ようこそ、バレルドームへ。楽しんでおいで」
ジンと結華は正式に許可が下り、ドーム内へ入場するのだった。
◇◆◇
自動ドアを通り抜けた先に伸びる通路の壁には、バレルドームの着工から完成までの歴史やバレルドーム内での過去のイベントの数々を記載した、角の丸いボードが貼られている。
通路を進んでいくのと並行して歴史を辿っていく作りは、自然と足を進ませる魅力があった。
左側がドームの完成の概要になる一方で、右側の歴代イベントの方は空欄になっている。
そして今。その空欄を埋めるイベントが開催されている。150メートルほど歩いた頃合いで通路の出口が見えてきた。
次にジン達を出迎えるのは、貼られたポスターの数々。
イメージカラーを背景にモノクロチックに加工された写真。そんな形のポスターが壁に規則正しく並べられている。
ジンにとって見覚えのある人物のそれがちらほらある事から、『フェルク・レスタム』参加者を宣材とした広告だと突き止めるのに然程時間はかからなかった。
様々な人物が思い思いのポージングをしているそれらを眺めていると、同じフォーマットでも一際目立つ風貌の広告が目に止まる。
横並びになる7つの広告、それぞれに写る体を覆う装い。小さく描かれたロゴと合わせて『ラ・ダ・リーシェ』のそれだと把握した。
「アー写で確認済みだが…やっぱり目立つな『ラ・ダ・リーシェ』……」
「すごい。ふしぎなふんいきがある」
真摯なる黒陽。
掻き乱す技師。
恭順せし傀儡。
蠱惑たる双子・耀姫。
蠱惑たる双子・晶娘。
益荒宿りし岩魔。
虚妄無き冥妖。
それぞれに割り振られた短い文章は、名前を示しているのだろう。
生まれも育ちもこの島であるジンですら聞き覚えの無い響きが、増々興味を掻き立てる。
バレルドームの防音の質は極めて良好で、この先にあるライブステージからの音も熱気も聞こえてこず、静かである筈だが。
不思議と、『ラ・ダ・リーシェ』の広告ポスターからは独特の音色が聞こえてくる感覚を抱くのだった。




