魔王の休日(1)
出迎えてくれたロデルに紛争地帯での旅を話すと、「だから申したでしょう?」なぜか得意げに鼻をフフンと鳴らした。
「貴方様が歩かれる人間界です」向かい合って食事を取る良人に笑いかける。
「酷いことが起きるのは仕方ないとしても、それをそのままにしているわけがありません」
「ヒトは常に進歩する――停滞しているのは魔界の方なのかも知れぬな」
「つくづく、ちゃんとした地図がないのが不思議ですよね……まあ、収益の柱なんで文句ないんですけども」
地域によって様々な理由があることも承知のロデルだが、人間界の話を聞くにつけ不可思議だと思う。
技術の進歩や世界に対する興味・好奇心は魔族のそれとは比にならないと知っているわけだし。
世界の全体像をつかもうと志す者がいないのはどういうわけなのだるうか。当然の疑問を受けて、スゴロクの手が止まる。
「色々な図書館で調べてみているのだが、どうも世界の根っこに関わってくる問題らしいからな……余にも何とも言い難いところである」
「根っこ、でございますか」
「うむ。この世界のことをよく知る先達に心当たりがある。お前の時間が許すなら、一緒に会いに行かぬか?」
「おおー、いよいよ佳境でございましょうか!?」
「はて、ロデル。それは一体何の話であるかな? フフフ」
本当に不思議なことを言う連中である。まったく、何の話やら――。
「ま、もっと先の話だ。世界は広い、訪ねるべきところは未だ山のようにある」
「はい……当座は南大陸の調査許可が下りるのを待つのですか?」
「そうだな。研究部門の方はどうだ」
現物をお見せいたしますと笑い、おどけて指をパチリ鳴らす。
「おや、それは」
「シャルナカーラ様が『誰でもできるよー』って。すぐ教えてくれました」
「むぅ」
美しく柔らかに設えられた蒼いローブを手に取る。古代人が好んで用いた文様と言い、よくできた品であった。
「デザインに手を出してみたのです。お気に召しましたでしょうか?」
「無論である」
東大陸での『招集』の行使といい、どんどん追いつかれているような気がする。
「余もうかうかしてはおれんなぁ。師でもいれば研鑽のしがいもあろうが」
師事するには少々偉大すぎる師なら二人ほど心当たりがあるものの、どうにもこうにも頼みづらいものがあった。
「焦っていらっしゃるのですか」
「お前の進歩が早すぎるんだよ……。『魔眼』と『王の力』の上に座っておればいいというわけでもないだろう?」
「努力する魔王。正直申して魔王らしくはありませんが、」
ふわりと抱きついて頬に口付ける。背も伸びたのか、今までより幾分楽そうだった。「スゴロクさまらしいです、とても」
「そう思うか。まずは照れがちのわが気性を何とかせねばな」ころころ笑う娘の額に軽く口付けた。
ロデルは恥ずかしそうに笑んで、王の文机を回り込んだ。問答や講義のときの位置だ。
2016/03/07 11:47 公開




