勇者ジャスティンの謎?
「っつーことは」
北方の紛争地帯へ戻ると、『逃げ腰』ジャスティンは既にひと仕事終えていた。
ひとり小高い丘に陣取っていたので弁当を手渡し、持って来た情報を述懐する。
西方大陸の大人気店『リムのパン工房』特製のサンドイッチを頬張って、勇者は続けた。
「いずれこの島の四か国からそれぞれ英雄が現れて、戦争を終わらせるって話か」
「うむ。原典からして読者の想像任せな部分が多い。確実なことはいえないが」
「そ、っか。……そっかぁ」
みどり豊かに映える丘を、鮮やかな風が吹き抜けた。見上げる空は夕焼けに染まりつつあった。
「んーじゃ、気長に待つとすっかねぇ」勇者は立ち上がり、前を向いて呟いた。
「それが良い。希望を捨てるなよ、悪いことにはならないはずだ」
「あんがとね、スゴロクさん。礼なんかできねぇけど、マジで感謝するぜ」
「泣くなよ、ジャスティン殿。涙は重いものだぞ?」
「うっせ~泣いてねぇわ!」
ならいいと言葉を切る。少し無言で考えて、言った。
「いつ、打ち明けるのだ」
「!?」
ジャスティンは異名にふさわしいスピードで後ずさりする。「こらこら逃げるな。余は魔王だぞ」
「おのれぇ、魔王めっ……!」
夕映えに照らされる『勇者』のかんばせは真っ赤に染まっている。腰の剣に手を掛けんばかりの剣幕で憤慨していた。
「フフフ、魔王は勇者の嫌がることでも平気で口にするのだよ。相手が悪かったな。で、どうなのだ」
「くそっ……ずっと黙ってるつもりだったよ!」
いかに『勇者』の称号を持つ者といえど、魔王の眼光を変化魔法ひとつでごまかそうと言う方が無謀である。
「言うなら早い方が良い。あの男は強く優しい、どっかと受け止めてくれるだろう」
「いつ気付いてたんだ」
「言動の端々にな。すぐに分かってしまったよ」
この世界に『勇者ジャスティン』は存在しない。その名を持つ人魔戦役の英雄はいま、美しい妻と共に遠い異世界でぷらぷら旅を続けている。
ここに居るのは、その名と姿を借りた、ひとりの女性であった。
「話したくなければ話さなくていい。ただ、彼には知っておいてもらった方が良いのではないか」
「……何て言われるかな」
「知らんよ」
「んな後生な。あんた人間じゃないね」
「魔王だってば。親しい『勇者』同士、打ち明け話ぐらい恐れずしろとしか言えん」
魔王は踵を返し、転移術を行使――「待て!」しようとして止まった。
「何だよ、まだ何かあるのか?」
「料理が美味くて海の見えるレストラン。知ってるだろ、教えろ」
「しょうがない『勇者』だなまったく。割引券置いてってやるから後は何とでもしろぃ!」
「サンキュな、魔王のオッサン」
「余はおっさんではない。……疲れたから帰る、じゃあな」
スゴロクは今度こそ転移術を発動し、城へと帰還した。いずれ正体を現した『勇者』と戦える日を、こっそり夢見て。
2016年 03月05日 15時05分 公開




